99年1月SF Book Review



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  • 月の物語
    (井上雅彦監修 廣済堂文庫、762円)
  • 異形コレクションシリーズ第八巻。
    今回のテーマはしたたる蒼き月光。このシリーズの欠点・長所は、これまで書いてきたとおりで、今回も全く進歩も退歩もない。面白い奴は面白く、つまらない奴はただひたすらにつまらない。好みの問題だろうけどね。このままかわんないのかな、このシリーズは。

    牧野修氏は相変わらずクライブ・バーカー(初期)的で僕は好き。あとは竹川聖『掬月─つきをすくう─』が、ストーリー的にはどうかと思うが、シーン的には面白かったかな。

    ちょびちょび読んでいたせいか、各作品の印象を実はあんまり覚えてなかったり。申し訳ないし、今後のために作品リストを掲示しておく。何かの参考になれば。


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  • ヴァーチャル・ライト
    (ウィリアム・ギブスン 浅倉久志訳 角川文庫、940円)
  • 94年刊行作品の文庫落ち。
    うむむ。訳者あとがきに巽氏の解説まで付けられていては、まったく書くことがないではないか。藤沢周による帯の理由も、そっちを読めば分かっちゃう。まあ、いちおうメモ代わりに書くけど…。

    この不思議な地球で』所収の「幻視的サンフランシスコ」の世界観で物語は展開する。メッセンジャーの少女シェヴェットが盗んだサングラス。それは電磁パルスドライバーで直接視神経に働きかけ、光子に寄らない視覚+ARを実現する<ヴァーチャル・ライト>グラスだった。そのサングラスには秘密があった…。
    というわけで<ヴァーチャル・ライト>争奪戦が始まるのだった。

    ギブスンが好きな人は、もう間違いなく好きでしょう。のるのに100ページくらい時間がかかるけど…。ギブスンならではの描写はイカしてます。

    個人的には、これらの世界──大地震後の崩壊、ジャンクアートのような樹上住居、失敗まみれのナノテク、すっかり溶け込んだサイバーワールドと現実世界──の先に、ギブスンがどんなものを考えているのか、見ているのかが気になる。彼にはここで止まって欲しくはないのだ。


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  • ライトジーンの遺産 上・下
    (神林長平 ソノラマ文庫ネクスト、上571円 下495円)
  • これまた新刊ではなくて文庫落ち。刊行された当時は結構話題に上った連作短編集。僕はどうもハードカバーで買う気がしなくて未読だったのだが、文庫を通読してそのカンは外れていなかったと思った。つまり文庫で十分、ということだ。

    神林長平の書いたジュブナイルである。山岸真氏の解説では「面白いSFとは、こういうものだ。そして、かっこいいとは、こういうことだ」と絶賛されているが、デキははっきり言って普通。この手の話なら(うまい下手やこれだけの分量をちゃんと書けるかといことはあるにしろ)書ける奴が、各大学のSF研に一人二人はいるだろう。それに「かっこいいとは、こういうことだ」なんて売り文句は、かなり恥ずかしいと思うのですが如何でしょう。

    さて本題。
    なぜか人類の臓器が崩壊していく時代。人工臓器市場は総合メーカー・ライトジーン社が一手に握っていた。だが、人類支配を企んだライトジーン社は権力闘争と介入によって強制解体された。そして騒乱の後、各臓器メーカーが乱立し、人工臓器を巡って怪事件が勃発する時代が到来した。

    主要登場人物は、いまはなきライトジーン社につくられた二人の人造人間のうちの一人にしてサイファ(弱い超能力者)の菊月虹(キクヅキ・コウ)、彼とお互い利用し利用されている仲の中央署刑事第四課課長・申大為(シン・タイイ)、新米刑事のタイス・ヴィー。そしてコウの兄・五月湧(サツキ・ユウ)にして現在は性転換したメイ・ジャスティナ(MJ)の4人。

    主人公・コウは、アル中ではないがウィスキーのフラスクを手放さないタイプの中年男である。つまり『ブレードランナー』的サイバーパンク・ハードボイルドの記号をそのまましょったような男なのだ。他のキャラクター達も極めて類型的な造形である。こういう安易な設定にも関わらずキャラクターたちがペラペラの紙人間に落ちていないのは、さすが神林長平というべきだろうか。背景世界もそうだ。この手の話を素人が書くと、ハリボテセットみたいな雰囲気になりがちなのだが、本書のそれはそうではない。ちゃんと重さがあり、奥行きがあり、時間が息づいている。

    僕が一番好きなのは『エグザントスの骨』かな。下巻裏表紙にある「『遺産』の実態」というのは大したことなくて(というより予想どおりで)ちょっと拍子抜け。でもまあ、正しいエンターテイメントでしょう。


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  • 造物主の選択
    J・P・ホーガン 小隅黎訳 創元SF文庫、800円)
  • ホーガンファン待望、『造物主の掟』の続編がついに訳出。なぜこんなにかかったんだろう、という苛立ちはおいといて、まずはめでたい!

    帯には「造物主、襲来! 天下無敵のインチキ心霊術師、今度の相手は機械生命たちの造物主!」とあって、そうか、今度はあれの造物主がやって来るのかな…? ザンベンドルフはまだイカサマやってんのか、でも「今度の相手」ってどういう意味だ…?と思いながら読み進める。

    で、感想は。
    まさかこういう方法でやってくるとは&なーるほど、そういうことね。いや冒頭、モラベックに献辞が捧げられているところから、すぐ気が付くべきではあったんですけど。
    まさに、この帯のとおりの内容です。見当を付けて下さい。一言でもいうとネタバレしそう。いやー、そうか、こういう方法での続編があったか。やられたかも。

    見るもの全てが目新しかった前作に比べると、テンポは若干たるい。前半はこの分量はいらないでしょう。だが、後半、第3部からはがぜん面白くなる。前作を読んでいる人間なら(いや読んでいなくても)抱腹絶倒。読んでいる間は顔がゆるみっぱなしだ。思わずにやついてしまう。

    テーマの一つはネットワークなんだけど、『内なる世界』なんかよりは、ずっとよくできているのではなかろうか。ただし、ハードSF的な面では特に見るべきものはない。このオチもちょっといただけないような気がするなあ。ホーガン節が健在なのは嬉しい限りだが。

    主人公のいかさま心霊術師ザンベンドルフほか登場人物達も健在だが、僕個人はタロイドの<禁断の設問者>サーグや、<聴聞者>グルーアクの方に懐かしさを覚えてしまった。本作では地球人側が描かれることが多く、ちょっと残念。でも笑えること間違いなし!の一作。ラストがちょっと…。もうちょっと紙幅を割いて、ちゃんと書いて欲しかったような。

    解説:牧眞司。続編から読んでもいいとか言ってるけど、これほど前作からぴったり繋がった話に対して何を言ってるんでしょうか。もちろん、前作『造物主の掟』から読んで欲しい。

    おまけ。献辞を捧げられているモラベックには『電脳生物たち』岩波書店という著書がある。HPはここ


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  • スタープレックス
    (ロバート・J・ソウヤー 内田昌之訳 早川文庫、800円)
  • なんだ今頃『アーヴァタール』+『知性化戦争』かあ?またぁ?と思ってしまうカバー裏の粗筋だけど、ううむ、これは結構やられました。やるなあ、ソウヤー!
    現代の正しいスペースオペラではないでしょうか、これは。ただのドタバタオンリーでもなく、古くさくもなく、SFならではの楽しいガジェットやアイデア、スケール、異星人に溢れている。素直に楽しめるエンターテイメント。

    でも平たく言っちゃうと、地球人+イルカ+ブタに似た6本脚のウォルダフード族+統合生命体イブ族の乗った探査宇宙船スタープレックス号は、<ショートカット>と呼ばれるジャンプポイントを使って宇宙の脅威に出会うのだ!って話なんだよな。これに暗黒物質の謎、銀河系形成の謎、宇宙戦争、宇宙全体の運命を握る100億年の時間スケールのプロジェクトなど、ハードSFっぽい(この「っぽい」ってところがポイント)アイデアを、視覚的に展開してくれている。つまりバクスターばりなんだけど、あれほど「ハード」ではない、ということ。あくまで本作はエンターテイメントなのだ。

    時間軸の違うシーンが交互に入るのにやや混乱するが、それはまあそれ。もう一度繰り返すけど、良い意味で何にも考えず、素直に楽しめる1作。いい感じです。
    …しかし、ガラスマンは何のために出てきたんだ?

    もう一つ。SFを訳すんだったらさ、<ヘイフリック限界>のことくらい知っててくれ>訳者。解説者も知らないみたいだな。あーあ。


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