ホテルをテーマにしたアンソロジーといえば僕にとっては菊地秀幸『古えホテル』なのだが(これは名作幻想小説集である。未読の方は是非一度)、ホテルにはとにかく色々な物語がある。ありとあらゆる客が訪れ、迎えるスタッフにもドアマンだのポーターだのフロントだのコンシュルジュだのがいて、さらにグランドホテルともなれば、ホテルから出なくてもいいほどショップやレストランが集中している。そういやショッピングネタはなかったような。やっぱ偏ってるような気もするなあ。
毎晩少しずつ読んでいったので、特にどれが、という作品はない。あった気もするのだが忘れた。すいません。
やはり多かったのが幽霊ネタ。
本書にはあまり関係ないのだが、なぜかホテルには幽霊物語が似合う。つまり場所という文脈に縛られた幽霊だ。それはなぜか。やはり人は、場所に対しても何か物語を必要とするからだろう。何かとにかく、歴史なり時間の流れなりを考えずにはいられないのだ。そして、物語が生まれるのではないか。
各短編を読みながら、そんなことを考えていた。
でもやっぱり、最後のは蛇足だと思う。「同人誌」だから仕方ないのかもしれないけど…。
なお『極微機械ボーア・メイカー』の続編にあたるが、読んでなくても読める。読めるけど、読まなくても良い。他の本を読んだ方が良いのでは。
解説:森下一仁氏。いやー、どんな作品にでも良い点を見つける氏の腕には、ひたすら感服するしかありません、一読者としては。ざっとしたストーリー紹介(というか本編に入るまでの話)については、そちらをご覧下さい。多分、そっちを読んでからのほうがストーリーも理解しやすいと思う。だからと言って面白くなるわけではないのだが。
中身はやっぱり凸凹しているのだが、本書をめくっていて思ったのが、特に古典的作品の場合、気に入るかどうかは翻訳の力が大きいなあ、ということ。昔は平井呈一氏の名訳で読めたのだが。まあ、多くは語るまい。どうせ買う人は買うわけだし。