01年5月Science Book Review


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  • 日本のタンポポとセイヨウタンポポ
    (小川潔(おがわ・きよし) 著 どうぶつ社 1600円 ISBN 4-88622-314-1)
  • タンポポは頭状花(とうじょうか)である。小さな花があつまって一つの花に見える花のことだ。タンポポは、その花を包んでいる緑色の部分を総苞片(そうほうへん)という。この層は二重になっていて、内側を内総苞片、外側を外総苞片という。一般的に外総苞片が垂れ下がっているのが外来種、垂れ下がっていないのが在来種といわれる。ただ、タンポポは変異が大きく、分類は難しいという一面も持っている。

    さて、在来種のタンポポが、外来のセイヨウタンポポに駆逐されつつある、という話を聞いたことがある人は多いと思う。本書は、その説に異を唱える。つまり駆逐ではなく、人間によって土地に手が加わった結果、その環境により適していたセイヨウタンポポが増えつつあるというわけだ。

    本書はもともと学術論文をベースとしており、一般向けに書き改められてはいるが、それほど読みやすいわけではない。それでもなかなか面白く、読ませる一冊である。


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  • ヒトゲノム 解読から応用・人間理解へ
    (榊佳之(さかき・よしゆき) 著 岩波書店(岩波新書) 700円 ISBN 4-00-430728-7)
  • ヒトのDNA配列には個体によってわずかに違う部分がある。多型とよばれるものだ。この多型をDNA配列上の目印として利用することで、連鎖解析という遺伝学的手法でゲノム配列を調べることができると分かったのは1980年のこと。その後、日本は一度ヒトゲノム解析で頂点に立てる可能性があった。だが技術的に未熟であったことや足並みが揃わず大型予算が獲得できなかったことなどで、結局やや出遅れてしまった。それでも日本は大きな役割を1991年から本格的に始まったヒトゲノム解析計画のなかで果たした。

    本書は、そのなかの中心メンバーの一人であった第一人者の著者がヒトゲノム解析計画とはどんなものであったか、今後どう展開していくのか語った本。マイクロサテライトマーカーを使った遺伝子地図において重要な貢献を果たしたフランス、日本生まれのcDNAプロジェクトなど、各国の事情なども紹介されつつ、どんなかたちで研究が進められていったか、よく分かる。ヒトゲノム計画に関する本は多数出版されているが、どれか一つと言われれば私はこの本を強く推す。フレキシブルに予算を使うアメリカと、政府の予算だけを頼りにしていた日本との違いには、他分野の人でも感じるところがあるだろう。

    日本の最大の貢献は21番染色体の全解読である。理研グループが50%、慶應義塾大学グループが20%、ドイツが30%の成果を出し、 年に完全解読したものである。21番染色体はアルツハイマー病や白血病、筋萎縮性側索硬化症などに関連する遺伝子がのっている染色体である。また、この染色体が余分にあるとダウン症になる。長腕側には遺伝子の存在しない「遺伝子砂漠」と呼ばれる領域があり、これもサイエンス的には非常に興味深い。

    ゲノムは「設計図」であると同時に、詳細な手順書でもある。しばしば誤解されているのを感じるのだが、遺伝子は、体を成長させるときにだけ読み出されるのではない。生物が生きている限り、ゲノムは働いている。必要なときに必要な遺伝子を必要なだけ働かせながら、私たちの体は維持されている。この遺伝子のはたらきの調節メカニズムはどうなっているのか。部分的には分かっているが、まだまだ解析が必要とされている。だが、徐々にヒトの遺伝的特質を遺伝子構成全体から論じられる時代が到来しつつある。

    たとえば生活習慣病など多くの遺伝子と環境要因が関わると考えられる病気でも、兄弟姉妹を用いた「罹患同胞対解析」という連鎖解析や「相関解析」といった集団遺伝学的解析手法で病気に関係のある遺伝子を見つけることができる。

    将来的には、細胞のなかで発現している遺伝子産物(タンパク質)同士の間の相互作用を網羅的に調べて、その結果をコンピュータ上に再現することができるようになるかもしれない。そうなると、コンピュータの上で薬剤の開発や、副作用など生体の反応を調べることもできるかもしれない。今後はさらに、言語や知能など、人間を人間たらしめている特質もゲノムから調べられていくだろう。我々は、なぜ我々がこうなっているのか、知り得る段階に至りつつあるのだ。


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  • じしゃく忍法帳 磁石とエレクトロニクスのはなし TDK編
    (吉岡安之(おがわ・きよし) 著 日刊工業新聞社 1600円 ISBN 4-526-04723-6)
  • TDKのウェブサイトで連載中の<じしゃく忍法帳>から30編を選び、加筆したもの。


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