「DOS/Vmagazine」掲載書評『ビジュアル博物館76 未来』

1999年6/1日号掲載

『ビジュアル博物館76 未来』

マイケル・タンビーニ著 伊藤恵夫 日本語版監修 2800円  ISBN:4-8104-2532-0 発行:同朋社 発売:角川書店

 幼い頃に学校の図書館で、あるいは新聞のお正月特集で見た、明るく光り輝く未来はどこへ行ってしまったのだろうか? いまの子ども達は天空にそびえる建造物や縦横無尽に張り巡らされた高速道路、宇宙に飛び立つロケットのイラストを見てワクワクすることはないのだろうか? 否、もちろんそんなことはない。目を前に向けさえすれば、未来は常にそこにある。

 本書は「未来の社会や経済について、交通や環境について、通信技術やロボット工学の進歩について、そして宇宙開発や遺伝子工学について、各界の学者の研究を紹介しながら『前向き』な予測にチャレンジ」した本である。

 ビデオ葉書、テレビ時計、超計量自動車、火星の居住地、ロボット、超超高層ビル、遺伝子工学など主に現在の技術の延長上にあるもの、既にその可能性の一端が見えている未来テクノロジー。「人格の移植」といった当分実現の見込みがなさそうなものもあるが、その一方でVR技術の応用による微細手術、体内にチップを埋め込んで神経損傷を補助したりといったことは既に行われているし、昆虫のように動くロボット、自動化された高速道路のように、実現寸前のものもある。将来的には、もっともっと色々なものが現実になってくるだろう。もちろん未来のワークステーションやVRシステムなどといったものも紹介されている。

 一方、予測できない発展もあるだろう。世界中に張り巡らされたコンピュータ・ネットワークが、現在のような形で実現することになろうとは、いったい誰が予測し得ただろうか。だがこのような、予測できないものの現実化こそが面白いのかもしれない。

 科学技術万能の時代は確かに過ぎ去った。問題も多い。だが、技術がもたらそうとしている未来は、必ずしも暗いものばかりではない。コンピュータ技術の驀進ぶり一つをとっても明らかだ。確かに鉄腕アトムはまだできてはいない。だが今やギガビットを日常的に扱い、かつてのスパコンレベルのマシンパワーが家庭に入ってくる時代である。将来は計算処理そのもののコストはさらに低下し、タダ同然になるという予測もある。そんな時代が来たとき、僕らの生活はどう変わるのか。そう遠い時代の話ではない。近未来があっという間に現実になる世界に僕らは生きているのだから。 

 本書中には「未来の武器」といった物騒なものまで登場するが(実際、ウェアラブル・コンピュータのアプリの一つとして検討されている)、めくっていると、とにかく楽しくなってくる本である。こういう未来を作り、暮らしていくのは我々自身なのだ。まあ、東京のカプセルホテルの写真が「未来のホテル?」として、皮肉な形で掲載されているのには思わず苦笑してしまうけどね。


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