96年11月SF Book Review


読まなくちゃいけない本、読みたい本、どっちも多すぎる。
どんどん「ツンドク」が増えていく…。あー。

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  • ヴォル・ゲーム
    ロイス・マクマスター・ビジョルド著 小木曽絢子訳、東京創元社、880円)
  • 惑星バラヤーの青年ヴォル(貴族)、マイルズ・ネイスミス・ヴォルコシガンが主役の人気スペオペ・シリーズ日本語版最新作。これまで「戦士志願」「無限の境界」「親愛なるクローン」が刊行されている(なお「自由軌道」も同じ宇宙に属する)。
    本書巻末に年譜が付いているが、本作はシリーズの時間軸の中では中編集「無限の境界」収録の「喪の山」の後にあたる。「親愛なるクローン」の事件はまだ起こっていない。主人公マイルズも、「戦士志願」の頃にごく近く、士官学校を出たばかり。まだまだ皮肉屋で無鉄砲で成長期にある。

    このシリーズの魅力は、主人公マイルズにあることは言うまでもない。肉体的なハンデ──胎児期の母親の毒ガス吸引による成長障害で骨に異常がある──を持ち、皇帝の摂政たる父とある種のコンプレックスを抱えた皮肉屋で、それでいて貴族の育ちのせいか妙に素直で正義感旺盛で、未熟ながら卓抜した大胆さと勇気と知性を持つ。バラヤーの正規軍ではぺーぺーだが、自らが(なりゆきで)作ってしまった<デンダリィ傭兵艦隊>では絶大な信用と人気を持つ「提督」でもある。

    キャラクター造形の丁寧さ、そしてそこから生まれる物語の深みや痛快さが、このスペオペシリーズの人気を支えているのだろう。語りがうまいんだな、ビジョルドの。

    さて、ストーリーは例によって例のごとく、主人公がなりゆきで騒動に巻き込まれ、なりゆきと知恵と舌で解決していく。ネタばれになるから書かないが、知りたい人は訳者の解説を読んで欲しい。読まない方が面白いと思うけど。

    なお、ヒューゴー賞受賞作。
    本国での刊行情報はここ


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  • SF&ファンタジー技法百科
    (ジョン・グラント ロン・タイナー共著 森屋利夫訳、グラフィック社、3800円)
  • SF&ファンタジーイラストの技法を解説した本。

    普通の絵画技法の解説から、SF&ファンタジーっぽい絵を描くためのいくつかの方法などが解説されている。例えば、異生物を創造する方法とか。コンピュータグラフィックス使用の技法も幾つか紹介されているのが、今のトレンドを反映している。
    中には、日本のイラストレーターの作品も作例として収録されているのが、大変興味深い。アニメのおかげだろうか?

    それぞれの技法解説の中には<ブレーンストーミング>というコーナーがあり実際の作品にイラストを付けることを想定し、具体的なアイデアを幾つか挙げて「それっぽい」絵を描く方法を提供する。アイデアに詰まった時にめくれば、脳ミソを刺激してくれる視点が見つかるかもしれない。

    絵を描かない人間にとっては、海外のペーパーバックの表紙を飾った素晴らしい作品に接することのできる本である。まあ、今となってはWWWを通じてかなりの表紙絵を見ることが可能だが、画集というのはやはり良いものだ。イラストレーターの視点で物事を見てみるのも楽しい。


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