アルコー延命協会訪問記

By 森山和道
JUN./20/1995
これは、私が'95年にアルコー延命協会を訪れた当時の、備忘録兼日記です。いま読むと、疲れた頭で書いていたのが良く分かる拙い文章ですが、当時の私のインプレッションを大切にして、そのままの形で掲載します。
97.11.17 森山和道 (moriyama@moriyama.com)
<アルコー延命協会(Alcor Life Extension Foundation)>は、やたらと暑い、フェニックスはスコッツデールの空港のそばにあった。外観は普通の平屋建て、色は茶色で何の特徴もない。正面のガラス扉にの文字がある。それ以外には周囲の建物と何ら変わらない。ここで10人の体と18個の頭が冷凍保存されているとは到底思えない。
とりあえず車を止め、機材を降ろしていると、突然扉が開き、ヒゲのおじさんが出てきた。こっちに向かってなんか喋っている。事前に見ていたパンフレットの写真から、社長(President。ただし、アルコーは資金運営でやりくりしている団体なので、普通の意味での社長ではない。代表といったところか。)のスティーブン・ブリッジ氏だと分かったが、何を言ってるのかは私にはさっぱり分からない。カメラマンに聞くと、外観を撮るなら先に撮っていいよ、と言われた模様。幸先のいいスタートに気をよくして早速撮ることにする。
カメラマンは撮影の為の位置決め、コーディネータはブリッジ氏の所に行って打ち合わせ。そこで私は建物の裏に回ってもっと他に面白いもの&アングルはないか探す。
裏に行くとアルコーのロゴ付き救急車?みたいなものを発見。写真を撮る。
表を撮った後、救急車を撮影していると、ブリッジ氏とコーディネーターがやってきた。勝手に撮っちゃだめだ、と怒られる。でもあまり反省はしない。

さて、建物の中に入る。中の壁には写真がいっぱい貼ってある。今までに冷凍された人や、設立者のチェンバレンなどの写真。すぐ右手の足下にはアルコーのロゴ付きの白いタンクが飾ってある(あとで教えてもらったところに寄ると、最初に冷凍に使ったタンクであるとのこと)。

入り口すぐ右手のブリッジ氏の居室に入る。左の壁にはクライオニクスのイメージイラスト。別の壁にはロバート・ゴダード(Robert Goddard、ロケットの父)の写真と、彼の生前の言葉──It is difficult to say what is impossible, for the dream of yesterday the hope of today and the reality of tomorrow?──が掲げられている。なるほど。
ブリッジ氏はいたって気さく。先程我々が勝手に撮影していたのも気にしていない様子。マスコミにも慣れている雰囲気で、我々全員に向かって挨拶してくれた。まず彼の話を聞くことにする。
彼は非常におおまかな話をしたあと、我々にクライオニクスの可能性について講義を始める。非常に流ちょうで、英語不自由の私にも大変説得力があるように聞こえる。
いわく、死んでも脳の細胞はまだ死んでない、完璧に死んでしまったあとでも脳細胞の構造が残っているかぎり、人間のエッセンス──人格・記憶など──は消えていない、私は冷凍されている人々を死んでいるとは思っていない、などなど。
私は、この時一緒にカメラを回しておけば良かったと思った。スタッフは既に毒気を抜かれて、すっかり彼のペース。まず、カメラを回さないツアーに出かけることにする。ドライリハーサルのつもりで回る。

まず手術室。死んだ後とにかく早く急冷するためのタンク、手術台(ニューロサスペンション用に頭を切り放したり、体に保存液を注入する)などがある。それ以外は別にどうということはない。ただの手術室。彼は親切にいろいろ解説してくれたが、私は英語は分からないし、いちいち訳してもらうのも面倒だったので(ブリッジ氏が話をやめないので訳すヒマがないこともあった)、身ぶり手振りと知識から大体の見当をつけた。
その部屋を出ると、次は銀色のでかいタンクが並んでいる部屋に入る。右手にはタンクが4つか5つ、左手には液体窒素を入れているらしきタンク。右手の奥にはコンクリートの箱が二つ。タンクの高さは3Mあるかないかぐらい。コンクリートは、1.3mくらいの立方体に近い。
彼の説明を受ける。なんと左手で時折液体窒素を吹き上げているタンクには、ついこの間死んだ人が入っているとのこと。畜生、なんで電話して教えてくれないんだ?とスタッフ一同思う。
現在液体窒素を注入して、−196度Cまで徐々に冷却している最中だった。まず、シリコンの液体の中につけ、ドライアイスで体を冷やし、そのあと液体窒素を注入していくとのこと。

タンクは、1本当たり人間が4人、頭を下にして入っている。頭の方が重要だから、とのこと。つまり、上の液体窒素がなくなっても頭だけは守ろうということらしい。タンクに触ってみたが、常温と同じだった。でかい魔法瓶のようなもので、真空で断熱されているそうだ。しかし、それでも液体窒素は1日14、5リットル蒸発していくので週1くらいで補充しているらしい。

コンクリートの箱は、見当をつけたとおり、<ニューロサスペンション>の頭が入っているタンクだった。脳だけが保存されているのではなく、頭ごと保存しているとのこと。理由をあとで聞いたところ、「頭は脳を保存していくのちょうどいい入れ物だから」とのこと。私は、「顔」をとっておくためかと思っていたのだが、うん、これには笑えた。

彼は、ニューロサスペンションの方を勧めていた。というのは、万が一地震や火事など不慮の事故がおこったときでも、頭だけなら「持ち運びに便利」だからだ!
後で中を見せてもらう約束をする。(実際に覗いてみると、液体窒素の中に、よくレストラン等にあるでかいパスタ鍋、あるいはゴミ用の小さなアルミ缶のようなものが、ナンバーを打たれて入っていた。ブリッジ氏も「ぴったりのサイズと外観だ」と言って笑っていた)。また、ボディを保存するのに使うタンク一つ造るのに1万7000$もかかるらしい。そんな金があるなら、研究費に使った方がいい、というわけ。

以上がアルコーの施設の全て。たったこれだけである。今新しい施設を建設中とのことだが、まだ建っていないらしい。

とりあえず彼の部屋に帰ってインタビューを撮る。

彼は話し好きで止まらない人のようだった。インタビューを撮り終わるとすでに12時を回っており、忙しいから昼飯を食いたい、とのこと。そこで彼と一緒に中華料理屋にでかける。でもそこは休日。しかたないので、昨日も食ったタコスにする。彼は健康に気をつけているからかどうか知らないが、タコスサラダを頼んだ。

昼飯の席でもぶっとんだ話は止まらない。で、それがまた非常に面白い。以下、私が覚えていることを適当に書く。

アルコーがやってることを変だ、という意見は多い。しかし、普通の死人に対しても、我々は化粧をしたり、内臓に詰め物をしたり(要はエンバーミングのこと)、花を飾ったりする。それだって相当におかしな行為ではないか?
アルコー人は、「将来、銀河系の彼方の宇宙船で会おう」、そういってるらしい。
また、「夏への扉」を地で行くカップルもいるらしい。つまり、二人一緒に解凍して下さい、というカップル。
また、ボブという名前の人物の話も笑えた。
奥さんが先に死んで、その人は冷凍された。ボブは再婚した。またその奥さんも先に死んで、冷凍された。またまたボブは再婚した。この奥さんも死ぬと冷凍される。もちろんボブも死ぬと冷凍される。
さて、みんな死んで冷凍された場合、復活は誰を先にしよう?みんな一斉に蘇生すると、ボブは3人の奥さんを持つことになる!そこでボブはスティーブと一計を案じた。まずボブだけを蘇生させ、宇宙船で宇宙の彼方に逃げる。そのあと奥さんを蘇生させればいいのだ!
まったく、懲りない連中である。

私は正直言って笑いが止まらなかったが、スタッフは完璧に彼の話に乗せられていた。お金は、死んだら生命保険が効くようにしとけばOK(ブリッジ氏の掛け金は月額$60らしい。そのくらいなら普通の人はタバコ代でも払っている、私は束生は吸わない、そう言っていた)。できるかできないか、に関しては、時の流れ、運任せ。しかもどうせ死んでるんだから、失うものは何もない。

質問も止まらない。しかも、あれこれあれこれ疑問がでてきても、ブリッジ氏は明快にしかも理性的に答える。おまけに言ってる内容はぶっとんでいる。
そういう意味で、彼はテレビ向きの人だった。実際、この週もBBCがやってきて何か撮影する、とのこと。ちなみに、<脳と心>のスタッフは2日間粘って撮ったらしい。彼はなんか色々言ってたが、私は英語は分からないのでチキンタコスをバクバク食っていた。

飯から戻って、もう一度カメラを回しながらツアーをしてもらう。帰りに、アルコーで扱っているクライオニクス関係の論文を$35で買う。ついでにドレクスラーのEngins of Creationの原書も買う。しめて$43。領収書と一緒に名刺をもらう。e-mailを交わすことを約束して、アルコーを離れた。

外は、やたらと暑かった。スタッフは、相変わらずクライオニクスが成功するかしない話していた。


独断と偏見のSF&科学書評に戻る
moriyama@moriyama.com