『技術と経済』1998年12月号掲載書評

「知」の頂点 日本の学術をリードする人々
講談社刊
98年9月1日
398ページ 定価2200円
著者 加藤寛一郎(かとう・かんいちろう)
評者 森山和道

 インタビュー集。対象は、吉川弘之:日本学術会議会長、野依良治:名古屋大学大学院理学系研究科長、佐藤勝彦:東京大学大学院理学系研究科教授、筏義人:京都大学生体医療工学研究センター教授、安西祐一郎:慶應義塾大学理工学部長、松原謙一:国際高等研究所副所長、伊賀健一:東京工業大学精密工学研究所所長、中根千枝:民族学振興会理事長、大崎仁:日本学術振興会理事長の9人。著者曰く「一〇万人に一人の頭脳」の持ち主たち。ちなみに著者自身も東大名誉教授で学振の理事。
 ある意味で「内輪の人間」にインタビューした本である。そんな印象がどうしても抜けなかった。それにはインタビューのやり方にも理由がある。インタビュアーがやたらと 相手に感銘を受けてしまうのだ。
 私見であるが<インタビュー>というのは基本的に質問であって、イエスマンになってはならないと思う。世間で言う「偉い人」同士の対談やインタビューだと、こういう表現がやたらと多くなりがちだが、それもやっぱり違うと思うのだ。また、最初から答えを予期した質問が多すぎるように思った。
 「一〇万人に一人の頭脳」という表現も、いささかどうかなと感じた。人の頭にランクを付けるというのは、はっきり言って旧時代の発想である。学術の基準で見て「できる」人が必ずしも「一〇万人に一人の頭脳」の持ち主とは限らないと思うがどうか。
 いうものの、インタビューを読むのが好きなら、それなりに楽しめるとは思う。インタビューの良いところは、相手の人柄やしゃべり方、そしてその下敷きとなっている考え方まで透けてみえることだ。いまの学術のあり方を作ってき、またこれからその基盤を作っていく人達の話を聞くことは勉強になる。
 「学術至上主義」が当然のことと考えているらしい著者ら(「一〇万人に一人の頭脳」なんて表現そのものが、その気持ちを表している)の考え方は、今の世の中ではもう受け入れられなくなるだろうと思いながらも、ある意味では、これが科学の古く美しい姿かもしれないなあ、と感じた。
 おそらくここに出てきた人達は、世の中の不況だとか、一般学生が何を考えているかだとか、その凄まじい実態をほとんど知らないだろう。それでも、こういう人達が研究を進めているのも確かに本当なのである。こういう科学者たちが世の中には常に必要なのだ。

もりやま・かずみち
サイエンスライター


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