NetScience Interview Mail
1999/04/01 Vol.047
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【深尾憲二朗(ふかお・けんじろう)@国立療養所 静岡東病院 てんかんセンター】
 研究:精神病理学、てんかん学
 著書:『講座 生命'97』所収「死のまなざしとしてのデジャビュ」、哲学書房
    『講座 生命'98』所収「他者を真似る自己」、哲学書房

○てんかんの研究者、深尾憲二朗氏にお伺いします。
 9回連続。(編集部)



前号から続く (第2回/全9回)

[03: てんかんの原因遺伝子と回路異常はどこに]

○具体的には何をコードしている遺伝子が怪しいと言われているんですか?

■やっぱりイオン・チャンネルか、何か神経伝達物質のレセプターだとみんな思っているんですけどね。
 カルシウム・チャンネルやクロライド・チャンネルとカップリングしている何とかレセプターだとかみんな思っているんだけど。それは遺伝子のプローブが作られているものがあちこちにあって、染色体のここらへんにあるということを知っているもんだから、ある症候群の家系について連鎖解析か何かでそれを含んだところがどうも怪しいということになると、話が合ってきてみんな喜ぶわけですよ。

○…。

■一方で、てんかんの動物モデルで一番研究されているのは、キンドリングと呼ばれている側頭葉の海馬とか扁桃体から起こる発作のモデルなんだけど、それは側頭葉てんかんが薬物治療によっては治りにくいてんかんで、しかも手術によって治ることがあるからなんですね。特に海馬に特異な病理的な変化があるということで、それが動物実験によって再現できるんじゃないかと。発作を起こすモデルを作って、ある段階で殺して、脳をスライスして見てみるわけです。
 そして人間の側頭葉てんかんの病歴と比べてね、たぶん赤ちゃんのときにひどい痙攣が起こって、その時に海馬の回路が壊れてしまって、その後繰り返し発作が起こるようになるんじゃないかとみんな思っているわけですね。それは側頭葉てんかんに関しては非常にもっともらしい仮説なんですよ。しかしじゃあその前に最初のひどい痙攣を起こす遺伝子の異常はあるのかというと、それはよく分からないんです。

○ふーむ。

■その分野はかなり研究者の数も多くて、盛んにやられているんだけど、言うほどにはね、臨床に近づいてない。動物モデルは動物モデルで閉じてしまっているところがあって。

○実際に臨床現場にいる先生の感覚だと、ということですか。

■うん、やっている人は本気でやっているんだろうけど、もう一つね…。側頭葉てんかんの病歴も一通りではないしね。たしかに子供の頃に長い引きつけを起こしていることが多いんだけど、そうとも限らないしね。

○なるほど…。

■まあ、遺伝子との関係はね、てんかんの人が子供を産んだらやっぱり発作を起こしたということがあるんですね。だからやっぱりあるんだと思いますよ。だけどね、たぶん、かなり多因子だと思うんですよ。非常に多くの遺伝子が絡んでて、たまたま、ある組み合わせになったときに出て来るんじゃないかと。しかもその組み合わせもおそらく一つじゃない。そういうものだろうと思いますね。

○抑制系の回路を作っているもののどこかが壊れているとそうなるんですかね?

■GABA系とかね。分からないですけどね。

○ふーむ。てんかんって、子供の頃によくなるそうですね。でも大人になってくると、だんだん出なくなっていく。それはやっぱり成長の過程でそういう回路ができあがっていくからだろう、と考えられているんですか?

■そうですね。
 あのね、脳波の検査の時に過呼吸ってやってもらうわけです。スーハースーハー、わざと息を激しくやってもらう。そうするとね、中にはバーッと脳波の状態が変わってくる人がいるんです。それはてんかんの患者さんではなくても、ある年齢までは脳波って変わりやすいんですよ。それがだんだん大人になるに従って、あんまり変わらなくなってくるんですが、てんかんの患者さんはいつまでも変わりやすいままなんです。そういうことがあるんで、みんな、そうは思っているんです。

[04: 細胞レベルの発作と、脳全体の発作]

○しかし、それは一体何を示しているんですか。その脳波は実体としては何を示しているんでしょうか?

■分からんのですよ。抑制系が発達してくるという言い方で、多少は具体的なイメージが浮かぶけれどもね。実験系でね、やってることと今ひとつ…。
 てんかんも、いまのニューロサイエンスのテーマの一つだというわけで、基礎研究の人たちがたかってくるわけですよ。アメリカでも日本でも。一つの細胞で、なんとかチャンネルがどうしたこうしたということをやっているわけですよ。でも、それを抑制するっていうことと、脳全体が発作を起こすっていうことは同じだろうかと。僕はすごく違和感があってね。無関係とは思わないけど。
 ああいう、深呼吸したときに脳全体が一秒に何回か振動するっていうようなものすごく大きな反応が、細胞一つのものから本当に説明できてるんだろうか。「抑制系」っていったときの「系」ってどういう意味なんだろうかな、とかね。

○なるほど。

■薬理の人たちは、すでに分かっているニューロンの繋がりを問題にするでしょ。なんとか系がなんとか系を活性化してっていう形でね。でもそんなこと言うと、全部繋がってしまうんですよね。だからむしろ、全部繋がってしまうのが、どう抑えられているのかということの方が大事だと思う。

○ううん。

[05: 律動が周りを巻き込んでいく]

■それと、実際の発作の広がり方っていうのはね、これは部分てんかんと全般てんかんでおそらく違うんだけど、部分てんかんの患者さんが手術を受ける場合の検査の過程で、僕らは頭蓋内脳波で発作の広がりをある程度見ることができるんです。
 それで見ると、発作活動というのはじわじわ隣に広がって行くんですよ。

○え?

■つまり、狭い範囲でまず始まったものが、ズワーッと周りに広がって行くんですよ。
 発作活動というのはつまり律動的な強い電気的振動ですね。もともとはそんなものはなくて、ザラザラしたバックグラウンドのノイズしかないわけですよ。そこに、忽然と妙な律動が出現すると。その律動が、周りを巻き込んでいくんです。で、またその律動が、遅くなったり、場合によっては速くなったりするんです。非常に不思議なんだけど、それが、てんかん現象なんです。
 つまり何が言いたいかというとね、セロトニン系が賦活されたからとかドーパミン系が賦活されたからとか、そういうことじゃないと思うんですよ、てんかんというのは。もちろんそういう薬理学的なことが起こってもおかしくはない。でも僕らの実感としては、てんかんというのは律動がね、引き込みっていうのかなあ…。

○心筋細胞がだんだん同期して律動していくようにですか?

■うん、そうそう。本当にそうなんです。

○でも、実体としてはセロトニン系がとか、ドーパミン系が、という話ではないんですか? それとは違う要因によって同期していくんじゃないか、ということですか?

■そうそう。薬理学的な、セロトニン系がといった場合は、解剖学的にはこれこれこういう構造があって、こっちはドーパミン系で、あっちはセロトニン系でという形になっていて、外から血液を通じて与えると、パッと働くと。そんなイメージでしょ。
 そうじゃないんだと思うんですよ、てんかんというのは。ニューロンが、もともと持っている可能性が出て来るんじゃないかと。暴力的な律動をしてしまうというのはね。

○もともと皮質のニューロンというのはそういう同期する性質を持っていて、それがポッと出てくるのがてんかんではないか、ということですか?

■そうです。そういう同期現象についてのミクロのメカニズムは要するに分かってないわけですよ。

○でもクスリを与えると治ったり収まったりということはあるじゃないですか。そういう話はあるけれども、本質とは違うんじゃないかということですか?

■うん。動物にてんかん焦点を人工的に作って、そこから細胞を取り出すとたしかにジャジャジャッといわゆるseizure(発作)の活動が起きるんだけど、それとね、僕らが脳波で見るような一秒に何回か、3Hzとか5Hzとかの活動が脳全体で起こってくる、あるいは一部から脳全体へバーッと広がっていくことが、どう関係あるのかはよく分からないんですよ。それは、セロトニン系が動員されたからだとかいうことではないんだと思うんです。
 少なくとも部分てんかんで見ていると、隣を巻き込んでいくんですよ。この部分が発作を起こすと、次はその隣、その次はまたその隣と、巻き込んでいくんです。

○いわゆる解剖学的な繋がり、線維とは関係なく巻き込まれていくんですか。

■うん、関係ある場合もあるでしょうね。離れた皮質に跳ぶこともあるんですよ、たまにね。跳ぶときにはたぶんどこかの線維を伝わっていくんでしょうね。

○ふーむ。

■その繋がりというのはね、みんな分からないんですよ。最近、optical dyeですか、興奮した細胞が光って見える染料があって。あれでネズミの後頭葉皮質を見た研究があって、それだと、コラムを一回りした興奮が隣のコラムをまたくるっと一回りして巻き込んでいくという形でしたね。あっちのほうが、合ってるんじゃないかと思うんですよ。コラムみたいな単位はあるんだろうと。

○話がちょっとずれちゃいますが、コラムという構造は、結局のところ実際にあるんですかね?

■いやー、僕には分からないですけどね(笑)。少なくとも後頭葉皮質にはあるでしょう。

○人によって言うことがあまりに違っていて、僕らみたいな立場の人間がどちらを信じれば良いんだろうかと。あるところにはあってないところにはないんだろうなとは思うんですけど。

■そうでしょね。
 あのね、繰り返しますけど、発作は律動、リズムができるということが一番大切なんですよ。臨床てんかん学の中ではこれが一番重要なことです。僕らはそのリズムを作り出す実体を想定してペースメーカーという言い方をするけどね。ペースメーカーはどの部位にある、とか。
 しかもこの律動が、一秒に何回かという非常に遅い律動なんですよね。もちろん速くなると、普通の脳波では目に見えなくなってしまうだけかもしれないけども。だけどね、目に見えるくらいの律動のときに発作が起きるということが重要なことだと思うんですよ。それとミクロの細胞がseizureを起こすということがどう繋がるのか、いま一つ分からない。

[06: 律動はなぜ重要なのか]

○すいません、今ひとつよく分からないんですが、発作が起こるときに律動が起こるということは、どうして大事なんですか?

次号へ続く…。

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NetScience Interview Mail Vol.047 1999/04/01発行 (配信数:12,168部)
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