NetScience Interview Mail
1999/02/11 Vol.040
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【春山純一(はるやま・じゅんいち)@宇宙開発事業団 つくば宇宙センター
                   先端ミッション研究センター】
 研究:SELENE月探査計画、彗星研究

○NASDAの春山純一氏にお伺いします。
 今回は、月の水探査の話について。
 8回連続予定。(編集部)



前号から続く (第3回/全8回)

[06: 月の「水」と彗星]

○そういう理由もあって極域なんですか。

■そうですね。正直言えば今まで私は、月の水の話が出る前は、溶岩が流れた跡とか、溶岩の質がなんとかリモートセンシングで分からないかとか。月の内部構造、層構造っていうのが、クレーターの中心に中央丘っていうのができるんですけど、それを調べることで見られるんですね。そういう作業をして月の内部構造を調べる。内部構造が分かれば、どう噴火したのかが分かりますから、そこからデータを戻してやる、っていうのはあるかなあと思ってたんです。

○内部構造ですか。ふむふむ。

■それはそれで面白いんですが、いま興味があるのは極域、それも割と低緯度、80度、85度くらいまでもしかしたら水が存在する、ということが分かっているんですよね。できれば今度のセレーネでは、そこらへんの地形から、実際にどこらへんに水がありそうかというのを調べてみたいと思ってます。

○それは確かに面白そうですね。具体的にはどんなところを?

■これまでクレメンタインのデータは、データを何枚も重ねて結果的に、ここは常に暗くなりますっていうところ、それを永久影っていうんですけど、そこをターゲットとする、と言ってたんです。是非そこらへんの近くの構造を調べてみたいんですね。
 あと他の機器を使って。たとえば高度計ですね。水があったら地形が変わるんじゃないかと思うんですね。これから調べることを考えているんですけど。

○地形が変わる。どう変わるんですか?

■水があると、霜になるんじゃないかと。霜が出来ると地形が盛り上がったり、デグレーション、つまり崩れたりした跡があるんじゃないかなと。持ち上げて、それをならすという効果があるんじゃないかなと。それは実験をいろいろやって調べてみないといけないんですけどね。もしかしたら違いは出ないかもしれないんですが。

○ははあ、なるほど。シベリアではでかい霜が成長したりするそうですね。ウソだろうと思って写真を見たら確かにある。それに「ピンゴ」っていう霜で持ち上げられた小山のような寒冷地形があるそうですが(参考:福田正己『極北シベリア』岩波新書)、あんなイメージでしょうか?

■そこまでいくかどうかは分からないですね。一発のコメットではそれだけの量は供給できないと思うんですね。そこも含めて、自分の研究課題としてみようかなあと思ってます。要するに一発のコメットがあたったとき、そのあとどのくらい水が動いていくか、シミュレーションしてみて…。

○なるほどね。
 水を大量に含んだ彗星がバンバン衝突していた時期というのは、だいたいどのくらいと考えておられるんですか?

■40数億年前から次第に減って20億年くらい前まででしょうか。ただ…。シューメーカーレビー見ると、いまでも結構あるんじゃないかと思うんですよね。それともう一つあるのは、そんなに大きなものがあたらなくても、もしかしたら小さい雪玉みたいなのがパサパサおっこってきても、それでも十分水を供給するものになるんですよね。年間、彗星なんかたくさん見えるわけですよね。しかも見えるものっていうのは 結構大きなものなんですよ。しかも太陽系の形成論を普通に考えれば、膨大な数の彗星が存在しうるわけなんで、かなりの量の雪玉が地球にも降ってきてんじゃないかな、と思うんですよ。現代はどうか分からなくても、少なくとも20億年くらい前までは。そうやって、結構水は供給されているんじゃないかな、と思うんです。

○現在も大量の小彗星が地球に落下している、という話もありましたね。

■ええ。あの仮説は崩されつつあるんですけどね。
 一番降ってきてた量が多いのは45億年から30億年くらいまえだと思うんですけども、イベント的に、何億年かの単位で水が供給されることはあったんじゃないかと思います。

○地球の水が、予想されるよりもちょっと重い、重水素の比率が高いっていう話がありますよね。

■ああ、そうです。彗星が降ってくることによって比率が変わっているんじゃないかと言われています。

○だから地球の水は彗星から供給されたものじゃないか、というのが彗星をやっている人達の主張ですよね。
 でも、あれがどのくらい効いているのかというのは、あんまり分からないんじゃないかと思うんですが。つまり僕には、地球内部からの脱ガスとかの過程のほうが重要じゃないかと思えるんですけど。月だと20億年くらい前にはプレートテクトニクスも止まってしまってますよね。ああいうのがどのくらい効いているのかといったこととか、揮発がどの程度のスピードなのかといったことは、どう関わって来るんでしょうか…?

■一番いやらしい、つまり月に水が残りにくいのは、インパクトした瞬間に蒸発しきっちゃうというのが一番まずいでしょうね。彗星の軌道というのはとにかく長楕円なんで、相対速度が凄く速くなるんですよ。ケプラー速度でいうと、ほとんど軌道に垂直にあたってくるようなもんで、だいたい70km/secくらいになっちゃうと思うんですね。そんな速いので当たってきたときに、残らないんじゃないか、というのが嫌らしいところですね。私としてはそこをどう解決していくかが課題ですね。まあ、短周期彗星で落とすっていうのはあるんですけどね。長周期でいきなりじゃなくて、短周期で落ちてくると。

[07: 月の「水」はどこから来たのか]

○じゃあクレメンタインが発見した水らしきものっていうのは、どこから供給されてきたのかということは全然分かっていないんですか。

■分かってないですね。クレメンタインがまず、氷があるだろうと言ったんですね。この間ルナ・プロスペクターっていうのがまた別の手法で見つけたんですけども。
 まだとにかく、供給システムは全然分かってないですね。可能性は3つくらいありますね。脱ガスかもしれないし、彗星からの供給かもしれないし、もう一つはそもそも水じゃない、っていうことですね。

○間違いでした、ってことですか。

■あれはもともと中性子線の分析結果なんですけども、H20じゃないんです。水素しか見ていないんです。水素があるということと、その他のデータから総合的に見て、水が大量にあると言っているだけであって、水素があるだけかもしれないですよね。

○でも水素だけというのはほとんど考えられないんじゃないですか?

■いや、一つはですね、太陽風がありますね。太陽風のインプラントかもしれない。

○ああそうか。…でも、極にだけ溜まるんですか?

■低緯度だと熱によって飛んじゃいますから、それで差がでているかもしれない。
 ただ、中性子線の分析している人達は、いくつかのデータから考えると、水素でのインプランテーションっていうのは言えないんじゃないかといってますね。H2Oのほうが良いでしょうと。ただ私は、そこの所の彼らの論法はよく分からないんで、今度ちゃんと聞いてみるつもりなんですけど。

○職人芸的なものなんですか?

■いや、ちゃんとサイエンティフィックに言いたいようなんですけどね。中性子線っていうのはエネルギーレベルがいくつかあるんですけど、高いエネルギーの中性子線が溜まっている。もっと全域でHの分布が見えているはずなのに、彼らの機器ではそれが見えなかったと。あるいは緯度の効果は見えなかったと。だから太陽風から供給されたものではないんじゃないかというのが彼らの論法なんですが、ちょっとですね、データがはっきりしていないんで、私もよく分からないんです。

○2003年の観測でよく見てやろうというのもあるんでしょう?

■そうですね。でも私思うに、2003年だけでは足らないと思うんですね。2003年はまだ、詳細な観測とか何かをテーマにっていうよりは…、もちろんそれぞれ月をいろんな面から見るというのはあるんですけど、私はやっぱり、氷というテーマだと、着陸してサンプリングまでいかないと、と思います。そうやって調べないとね、氷は無理じゃないかなあと思っているんです。

○ほう…。セレーネの着陸させる奴は、表側の海に降ろすんですよね。

■ええ。それにあれは、観測機器は電波しか積まないんですよ。結構重いんですけど、なぜ観測機器一つかっていうと、正直言うと日本はまだ着陸技術が達成されていないんですよね。だからそこに観測機器のことまで入れてやるのは、開発期間からすると得策ではないと判断されましてね。

○技術開発ミッションとして行う、ということですね。

■そうです。最初僕らはサイエンティストとしては反対したんですけどね(笑)。どうしてもっと色々積まないのかと。でも今考えてみると、それはそれで正解なのかなとも思いますね。きちんと技術開発するところはやってもらって、で、次にきちんとやってもらうと。プロジェクトにかかわる身としては、そっちのほうが楽かもしれないですね。

[08: 月の氷で何が見つかるか]

○極に氷があったとして、どういうものが見つかるだろうと検討をつけていらっしゃるんですか?

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■イベント:
◇LIVE!ECLIPSE、西オーストラリア金環食インターネット中継 2/16
http://www.solar-eclipse.org/

◇大型ロケットの名前・シンボルマーク募集!(宇宙開発事業団)
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/199902/h2a_name_form.html

◇平成11年「種子島宇宙センタースペーススクール」の開催及び参加者募集について
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/199902/school_990203_j.html

■URL:
◇ヒト型ロボットのめざすもの
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue/990203/topi14.html

◇彗星サンプルリターンミッションSTARDUST打ち上げ成功
http://stardust.jpl.nasa.gov/index.html

◇地球環境研究総合推進費
http://www.eic.or.jp/eanet/suisinhi/index.htm

◇惑星間インターネットと火星探査が売りのNASA予算案(ZDnet)
http://www.zdnet.co.jp/news/9902/03/nasa.html

◇生物系廃棄物リサイクル研究会報告の概要について(農林水産省)
http://www.maff.go.jp/recyhp/report/summary.html

◇人工衛星が地上をライトアップ
http://www.astroarts.co.jp/news/990205znamya/index-j.html

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  なおこの欄は無料です。


NetScience Interview Mail Vol.040 1999/02/11発行 (配信数:11,394部)
発行人:田崎利雄【住商エレクトロニクス・ネットサイエンス事業部】
編集人:森山和道【フリーライター】
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