NetScience Interview Mail
2001/03/22 Vol.137
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【梶田秀司(かじた・しゅうじ)@機械技術研究所 ロボット工学部 運動機構研究室】

 研究:2足歩行ロボットの制御
 著書:『歩きだした未来の機械たち −ロボットとつき会う方法−』ポプラ社

ホームページ: http://www.mel.go.jp/soshiki/robot/undo/kajita.html

○二足歩行ロボット、その制御の研究者、梶田さんにお話を伺います。
ロボットブームではありますが、技術的な話はほとんど触れられていないようです。
素人でも、もうちょっと詳しいことが知りたくなりました。(編集部)



前号から続く (第9回)

[27: ヒューマノイドは本当に介護や危険な場所での作業に使われるのか]

科学技術ソフトウェア
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○ロボットの論文で、高齢化社会がどうしたとか、介護がなんだとか、危険な場所で作業させるんだとか、頭にいろいろ書いてありますよね。そういう論文はやっぱり多いんですか。

■ええ。

○あれって、それぞれの研究者の方は、どの程度本気なんでしょうか。確かにニーズは明らかにあると思いますが。

■ええ。テクニカルな問題はクリアできますからね。
 結局、ヒューマノイドは、用途を限定すると専用機に負けちゃうんです。だから人間と同じあらゆることができる、というのが前提なんです。

○はい。2足歩行とかも同じなんじゃないですか。この歩行パターンならできるんだけど、こっちはできません、というのだと困りますよね。それこそ人間ができる歩き方ならみんなできる──それこそ、スキップもできればジャンプもできる。

■本来ね。そうですよね。
 それは難しいけど「ヒューマノイド」って言った瞬間、それをやらないと嘘つきになっちゃいますね。

○技術者の方もそれが目標なんですか。いや、それを目標にしている人がいるのかどうか。

■うーん…。

○梶田さんご自身はどうですか。

■僕ですか。そうですね。HRPの残りの2年半で、それを目指したいなと思ってるんですけど。まあ、できることは限られてますけどね。

○まあ、2年とかの短期じゃなくても問題ないんですよ。たとえば20年後。20年後に、人間ができることはみんなできる2足の足を作りますっていうのは現実的な目標なのか夢物語なのか…。

■うーーん……。できるような気はします。気はしますけど。20年真面目にやれば、できるような気はします。

[28: ロボットの用途]

○ホンダのあれ、P3とかは、アミューズメントとして使われているわけじゃないですか。ヒューマノイドなんか作っても何にもならんよ、と言っていた人もかつてはいたわけですが、現在の人は、「何にもならん」ことにお金を払うようになったわけですよね。

■そのとおりですね(笑)。

○というわけで、研究者の方がはっきりアミューズメントを全面に打ち出して研究するのも、僕はありだと思うんですが。もちろん、高齢化社会がどうしたこうしたという話も大いに結構なんですけど。

■うん。確かにアミューズメントは大いにありだと思います。ただ、それだけでは寂しいですね。

○まあ、カラクリ人形を面白がっているのと近いですからね、いまのレベルだと。

■そうですね。「ロボット研究者は現代のカラクリ師じゃないのか」ということを仰る先生もいらっしゃいます。

○カラクリ師なんですか。

■うーん…。カラクリ師的な面もありますけどね…。
 ヒューマノイド・ロボットっていう形が役に立つとすれば、とにかく人間と同じことができて、遠隔制御が出来て。人間が行けない状況にも人間の形で人間のとおりに活動できるものを作らないといけない。それができれば間違いなく用途はあります。たとえば全国の各消防隊に一体、真っ赤に塗られたヒューマノイド・ロボットが備えられるということに、当然なると思うんです。それができれば。
 ただそれ以外の用途は、僕は思いつかない…。残念ながら。

○うん。あとは兵隊くらいでしょうね。

■それはやりたくないですから。当然、誰もがね、思ってるんですけどね。
 介護に関しては、人間そのものの形をしたロボットが使われるということは僕は考えにくい。もう少し、介護用に特化したものになるんじゃないか。ただしヒューマノイドの研究からスピンオフした技術が使われる可能性はありうるかな。
 ほら、ジョン・ヴァーリィの『
ブルー・シャンペン』(早川書房)っていうSFがあるじゃないですか。あのなかで全身麻痺の人を介護するというか世話をするスーツ。まああそこまで行かなくても、なにか似たようなものが開発されないだろうか。そういうことは思いますね。

○はい。

■結局機械の話なんですけど、こういう華奢なメカでトルクをどれだけ出せるか。そこがよくなってきてるんですよ。先にもお話しした、ホンダのロボットにも使われているハーモニック減速機っていうのがあるんですが、20年前はパワー不足だったんですが、いまはそれなりのトルクを出して、壊れなくなった。だからたとえば、普段はイスの格好をしてるんだけど、それが人間を抱えて立ち上がるような、そんなメカが出来るかもしれません。

○なるほど。先端技術のユーザーとしてのロボット業界があって、それがいろんなところを引っ張る、という効果はあるかもしれませんね。これは立花隆氏が今は亡き「サイアス」連載の最後で言ってること同じですが。彼は物理学が引っ張る、と言ってたんですけどね。

■そうですね。ロボットが物理学みたいにエスタブリッシュされた業界になると良いんですけどね。

○うん。確かにそうなんですよ。ただ、そうなんだけどなあ…っていう感覚が僕のなかにはあるんです。確かにそういうのは、実際にもそうだし、僕らライターが便利に使う言い回しでもあるんです。でも、それだけだとなあ…。

■ああ、たとえば素粒子だとどうして反重力ができないのかとか、そんなことより核融合はどうなったのかとか、そういうことですか。

○ええ。まあそういうことですかね。スピンオフじゃなくて直接的なこと。まあ、素粒子物理の場合、「究極を求めて」っていう大目標がありますよね。だからまだ良いんです。ところがロボットの場合、どうもその大目標がよく分からないんですよ。

■ああ、なるほど。

○たとえばATRの川人先生なんかはロボットを作ることで脳の仕組みを知りたいと、はっきり仰ってますよね。だから分かりやすい。生産技術の人も分かりやすい。でも工学の人はいったい何を目指しているんだろうかと。特にヒューマノイドなんてそうじゃないですか。敢えて困難な茨の道を歩いているわけでしょ(笑)。いったい何を目指してるんだろうかと思うわけです。梶田さんご自身はどうなんでしょう。何ができれば満足ですか。

■うーん。僕の目標はね、最初はP2のデモで床を傾けてもバランスするっていうのがあったでしょ。ああいうのをやろうと思っていたんですよ。ところがあれは実現しちゃったから、いまは、人間と同じ、あらゆることができるようになれば満足かな。究極の大目標は人間と同じ事ができる足をつくる。

○ですよね? じゃあ、どうして人間の足と同じ構造の足を研究しないのかなと思っ ちゃうんですよ。

■そうですね(笑)。確かに、ちょっとずれた研究していますね。

○その辺の微妙なところ、まあ、気持ちの部分が、よく分からないんですよ。

■うん、正直に言えば、ロボット屋の棲み分けの本能が働いてるところありますね。 あいつがああいうのやったら、こっちはそういうのやらないとかね。

○うん。工学の人にはそういう人多いですよね。

[29: HRP]

  ○ただこれは、ホンダ以外の人が2足を研究していくとき、今後どういう形でやって いくんだろう、という疑問でもあるんです。

■ああ。そうですね……。
 いまは僕は膝のあるヒューマノイドのあるロボットの開発を進めてるんです。それはやっぱり、人間ができるあらゆることができるものを目指しています。NHKに出てたホンダのP3改良型を目にした瞬間、かなり考え方を変えなくちゃいけなくなったんですけどね(笑)。最終的におみせできるものが、がっかりさせちゃうものになるとまずいですから。

○がっかりはみんなしないと思うんですよ。「またロボットか」と思われちゃう可能性はあるでしょうけど。

■うん。しかも、税金を使ってやってるわけですからね。

○本当は梶田さんではなく、東大の井上先生にお伺いすべきことなんでしょうけど、HRPはいったいどうなるんでしょう。舘先生のコックピットはあれはあれでいいんでしょうけど。
(HRPのオフィシャルサイト
http://www.mstc.or.jp/hrp/main.html
 や、編集人による日記
  http://www.moriyama.com/diary/2000/HRP/HRP.html を参照)

■HRPのボタンのかけちがえは、技術を最初のレベルでフィックスしておいて、ソフトで何とかやりましょうと言ってるところです。ハードもどんどん良くなって行くんだ、ということをみんなあんまり真剣に考えてなかったところですね。そういう意味で「Σプロジェクト」にちょっと似てるところがあります。

○「しぐまぷろじぇくと」って何ですか?

■通産省が音頭をとったプロジェクトです。ソフトウェアクライシスっていう話がありましたよね。ソフトの技術者が足りなくなるっていうから、みんなで共同で、ソフトを共通化して、共通仕様でブロックみたいに組み立てることでソフトができるようにしようというプロジェクトがあったんですよ。
 これがもう、知る人ぞ知る大失敗というか、悲惨な結果に終わりましてね。プロジェクトが終わるころにはコンピュータソフトの世界は遙かに先に行ってしまった。そういうものだったんです。それの一番の間違いは、ソフトウェアの技術を、1985年前後のUNIXの技術でフィックスしちゃった。それをベースに考えようとしていたんだけど、もちろんコンピュータの技術はどんどん先に行っちゃうわけです。一番進んでいたころですからね。

○うん。だいたい国のプロジェクトって、そういうときに立ち上がるんですよね、また。

■ええ。それで気が付いたら、ほとんど誰も使わない成果しか残らなかった。それとまさに同じ事がヒューマノイドで起ころうとしている気がするんです。

○なるほど(笑)。

■だから………。そういう意味で、最初の考え方では、HRPはホンダのP3を買ってきて、それを3年間かけてソフトを開発しようと思っていたんだけど、3年後にはP3が過去の遺物になっていそうですよね。だから手としては、ホンダさんから新しいのを買って、また使うと。まあ、いまうちで買ったP3っていうのは、今度出るという(注:当時、1000万円前後でP3改良型が売りに出されるというニュースがまわっていた)奴のn台分くらい払ってますからね(笑)。でも、それはしょうがないものとしてね…。そんな、いつまでも古い物を使っていたら逆にまずいような気がする。
 もう一つは、自前で作らなくちゃいけない。

○はい。

■実はね、HRP2を作るっていう話も無理矢理だったんですよ。通産省の上のほうからは凄い反発があった。彼らは、ホンダのロボットでいいじゃないかと。それを井上先生が通したんです。

○それはまた、通産省の人たちの言い分も分からないですね。

■いやまあ、ホンダは技術を持っているし、HRPが掲げているのはソフトの開発なんだから、敢えてロボットを新しく作る必要はないでしょうと。

○で、いまは設計中なんですか。

■ええ。設計を始めたばっかりです。

○梶田さんが今やっているのは、その一部?

■はい。足の部分。

○あれ? 前にお伺いしたときには直接の当事者じゃないっていうお話でしたが、じゃあ今はバリバリ当事者なんですね(笑)?

■ええ、当事者も当事者です。ホンダ以外のところでは、予算的には一番恵まれた状況にあるかもしれません。まあ、ヒューマノイドはカネかかりますからね。
 考え方としては、人間ができるあらゆることができることを目標にすると。ホンダのP3にしろPXにしろ、あれは、人間ができるあらゆる動作ができるようには設計されてないんですよ。あれは相変わらずイスには座れないし、あんな大きなバックパック積んでるから、いろんな制約があります。ヒューマノイドが目指す方向としては、人間ができるあらゆることができないといけないから、まずバックパックがなく、イスに座れて、転んでも受け身が取れる。寝返りがとれて、ちゃんと起きあがることができる。ということを目指します。
 どこまでできるか分かりませんが。

○ふーむ。ホンダのロボットでも床に置いてあるモノを取る、っていうのが放送されてましたね。

■ええ。番組では開発中っていう雰囲気を出したいのか失敗してるところを出してましたが、あれ、多分できてるんじゃないかと思うんですよ。

○そうでしょうね。演出でしょう。あれ見てたときにも思ったんですけどね、人間だと、前につんのめってこけそうになったときにも、足をとっさに前に降り出すことができますよね。あれはできないんですかね。

■それは大丈夫でしょう。できると思います。そこは作りこめばできるでしょう。

○うん。作りこめばっていうのはもちろんなんでしょうけど、もうちょっと、ナチュラルに。そりゃ、万が一こけそうになったら足を前に出せとか、膝をつけとか、そういう命令を書くことはできるんだろうなという気はするんですけど…。

■はあはあ。それがいろんな、あらゆる局面で、我々の常識で通用するあらゆる状況で書けるかということですね。

○そうですね。バランスが崩れそうになったら、こういう形でバランスを取れというのを、一個一個教えなくても、とにかく「なんとか」バランスを取ってくれないのかなと。

■それは、2足歩行の延長線上ですね。たとえばP2のデモで、押したら後ずさりしたでしょ。あれはまさにそれをやってるわけですよ。

○はい。

■結局、歩行というのは、転びながら、倒れないうちに足を出すということですから。だから、できる。できると思います。

○なるほど。あとは、足で間に合わなかったら膝、膝でダメなら手をつけとか、優先順位をふってやっとけばいいのかな。

■そうですね。

○じゃあこれはどうですか。人間は、荷物を持っていて転びそうになったとき、パッと荷物を手放して手をついたしますよね。アクションそのものの優先順位を変えちゃってるわけですが、それには対応できるのかどうか。

■うーん。どうでしょうね。

[30: これからの二足歩行]

○もうちょっと現実的な質問を。具体的にはHRP2の新型ロボットは、どういう目標を持っているんですか。

次号へ続く…。

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NetScience Interview Mail Vol.138 2001/03/29発行 (配信数:25,026 部)
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