NetScience Interview Mail
1998/05/28 Vol.005
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【金子邦彦(かねこ・くにひこ)@東京大学 大学院 総合文化研究科 教授】
 研究:非線形物理(カオス、大自由度カオス)、複雑系、理論生物学
 著書:「複雑系のカオス的シナリオ」津田一郎氏と共著、朝倉書店
    「カオスの紡ぐ夢の中で」小学館
    「生命システム」青土社(『現代思想』誌での論考、対談をまとめたもの)
    ほか
研究室ホームページ:http://chaos.c.u-tokyo.ac.jp/index_j.html

○金子邦彦さんへのインタビュー、今回で5回目、最終回です。
 複雑系科学の今後、科学という営みに対する考えかたなどを伺いました。(編集部)



前号から続く (第5回/全5回)

[13:歴史観・文明観]

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○先生はエッセイの中で、高校生の時に歴史の偶然性と必然性についてレポートを書いたことがあるとお書きになってますね。個々人の動きは予測不能だけれども集団としては予測できる、そして時には、個々人の偶然の動きが大きな歴史の流れを変えることもある、というようなものだったそうですが、まるで、アイザック・アシモフのSF「ファウンデーション」シリーズに出てくる<心理歴史学>のようですね(笑)。

■ええ、あれは高校生の時、気体分子運動論や統計力学からの類推で考えたんですね。個々の運動は分からなくても、全体の動きは分かる、というような、そういうことから歴史の理論化ができないか、と。それと、そういうことだけじゃない部分もあるんじゃないか、と。安定な時はそういう見方でいいんだけど、不安定な時、時代の変わり目の時とかは個別の運動が全体に大きな影響を与えることもあるんじゃないかなあ、と。まあ、高校生の時に考えたことなんで大したことはないんですけど、そういう見方で歴史を見ることもできるんじゃないかなと今も思いますけどね。

○「歴史」というのを「進化」などに置き換えてみることもできるようにも思いますけど、そういうものは記述できるもんなんでしょうか。

■一般的な歴史については、かつてトインビーが試みて失敗したために誰も省みなくなってしまったわけですけど、でも文明が興隆して壊れる、とかそういう中に、法則とはいわないけど、やっぱりある程度のパターンっていうのはあるようにも思います。まだまだ先の問題ですけどね。経済史をやっている安富さん(名古屋大学情報文化)という人がそういう方向をやれる人なんじゃないかと思うんですけど。
 歴史の理論っていうのはありうるんじゃないかなと思います。
 普通の歴史の本を見ると、凄く一方的な連鎖の矢で説明しますよね。でも実際にはそういうことではなく、もっとがごちゃごちゃ込み入った因果のネットワークの中から結果的に安定したものとして出てくるわけですから、そういうことを記述できたら面白いなとは思いますね。いまのところ夢の段階ですけどね。

[14:Algorithmic Chemistry・人工化学]

○この分野で、他に先生がご注目なさっている研究はありますか。

■例えばサンタフェ研究所には、ウォルター・フォンタナという人がいるんですけど、彼は分子の反応の過程などを数理の論理過程に置き換えて、そこで生成される構造を探す、ということをやってます。どういうふうに反応が進むのかといったことを微分方程式で解くとか、そういうことではなく、反応の関係の総体を捉えるような試みです。

○「反応の関係の総体」とは?

■可能な化学反応のクラスというのはすごくたくさんあるんですよ。その中で、どういう構造をとりうるか、という理論です。だからダイナミクスの理論というより構造の理論です。彼は「Algorithmic Chemistry」と呼んでいます。凄く抽象的な理論なんですが、僕は最近のサンタフェの研究の中では、もっとも独創的な面白い研究だと思っています。普通の紹介本には全く出てませんが。
 最近、サンタフェ研究所もだいぶ雰囲気が変わってきました。かつては誇大宣伝をしすぎてした感があったんですが、逆に最近は、地道になりすぎているくらいにも思いますね(笑)。

[15:複雑系と経済予測]

○経済とかはどうですか。本屋さんにはいっぱい積んでありますね(笑)。初期値のちょっとした違いで大きく変わっちゃうんだから、理屈上、無理じゃないかと思うんですが、どうなんでしょう。

■全部のエージェントが合理的に動くと思ってやった計算ではうまくいかない、それは当たり前といえば当たり前ですよね。普通の人はそんなことくらい知っているわけで(笑)。具体的にじゃあ有効な方法は何かというと良く分からないですよね。アクセルロッドがやった<囚人のジレンマ>の繰り返しゲームでの協力の進化は重要な成果だと思います。ただ経済についてその路線で、ダブルオークションゲームなどを行なったのがどこまで成果を挙げているかと言うと…。

○たぶん、複雑系のなんとか経済学っていう本を買う人が期待していることは、予測してくれ、っていうことだと思うんですが…。

■予測すると、その予測したものそのものが経済にまた影響しますからね。だから無理ですよね(笑)。

○その辺、どう割り切って研究しているんでしょうか、あの辺の人達は。

■あれは経済予測というより、株価予測とか、ファイナンスとかですよね。あれはもう学問というより、頑張ってお金を儲けて下さいということでしょう(笑)。

○そうですね(笑)。

[16:科学は文化である]

○先生は「科学は文化である」とあちこちで仰ってますね。いまポピュラー科学雑誌は商業的にかなり苦戦しています。先生はこの状況に対して、どう思われますか。

■基本的に日本の科学ジャーナリズムは、科学は文化だということを伝えてないですよね。それはやっぱり凄く貧しいですよね。本当の面白さが伝わってないと思います。
 科学者の側の問題もあります。本当に楽しいんだ、それ自体が楽しいんだということを感じてやっている人が、むしろ減っているのかもしれませんね、科学者の中でも。
 若い世代の科学者に、そういう姿勢が減っているようにも思います。もっと独自の考えを出してやっていかないといけないと思います。ある方程式を解いたり、なんとか遺伝子を見つけました、っていうのは、基本的に試験で良くできた、というのと変わらないわけです。そうじゃなくって、もっと自分の新しい世界観というものと繋がるような研究を出していくべきだと思うんですが、そういう科学者も減っているし、そういうジャーナリズムも減っている、そういう悪循環なのかもしれない。
 例えば、ジェームズ・グリッグの「カオス」(新潮社)という本は、いろいろ問題もありますが、面白いですよね。ああいうレベルの本が、どうして日本ではあんまり出ないんでしょうかね。例えば島田一平さんらの研究から、日本のカオス研究が発展してきた過程というのは非常に面白いし、科学者の個性を見ていくだけでも面白いんですけどね。文化レベルの違いといえばそうなのかもしれないですけど、残念ですね。

○そうですね。
 本日はどうも有り難うございました。

【1998/04/17、東京大学駒場キャンパスにて】

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*次号からは、<全地球史解読>の丸山茂徳さんのインタビューをお送りします。


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