NetScience Interview Mail
1998/07/16 Vol.012
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【河合隆史(かわい・たかし)@早稲田大学 人間科学部 助手】
 研究:立体映像、ヴァーチャル・リアリティ、医用情報工学
 著書・論文:インタラクティブ性に関する一考察,現代のエスプリ,至文堂(1996年)
       外科手術教育用二眼式立体映像システム,日本コンピュータ支援外科学会会誌,4巻2号
    ほか

○河合隆史氏へのインタビュー3回目です。今回は受け手にとっての「現実感」についてお話を伺います。4回連続。(編集部)



前号から続く (第3回/全4回)

[07:薬師如来立体映像]

○以前、薬師如来の立体映像などを作っておられましたよね。ドイツなどで見せていたやつのことですが。あれはどういう動機でなさってたんでしょうか?

■ああ、3年前にボンで公開したものですね。あれは早稲田大学のプロジェクトという側面が大きかったんですけど。
 もともとの動機としては、立体映像として表現するのに適しているのはどんなものなのか、ということを考えたんです。たとえば、水族館なんかは最適なものの一つなんですよ。現実世界の水族館は、水槽の表面があって、その奥に魚が見えているじゃないですか。それを、撮影条件を変えてやれば水槽の中に視点を持ってこれるわけです。ソフトとしては、かなり多く作られていますよね。
 で、なぜ仏像を選んだかということなんですが、まず映像効果として、画面のエッジが見えないほうが良いな、と思ったんです。そういう意味では、もともと暗いところにあるモノがいいんじゃないかと。それと、そこから動いていかない、最初から静止しているモノが良いんじゃないか、と、そういう風に割と理詰めで考えていったんです。彫刻のようなもので、暗いところにあるもの、そうすると仏像だ! ということになったんですね(笑)。
 最近ヴァーチャル・ミュージアムがいろんなところで作られるようになってきましたが、文化財を鑑賞する一つの方式として、どれくらい有効なのかを検証する、というのが本来の目的でした。日本で作ったものを海外に持っていったのも、そういう理由からなんです。

○で、どうなんでしょう、有効なんでしょうか(笑)?

■当然かもしれませんが、立体的な造形を表現するのには大変有効ですね。空間を切り取って、そのまま再生するということを目指して作りましたので、特に再生サイズに気を配りました。それと、分類としてはシアター型っていうんでしょうか、それらしい雰囲気、実際にその場にいるような雰囲気を出すにはどうすれば良いのか、ということを考えて、他の感覚刺激を随伴して呈示しました。バイノーラルの立体音響や環境芳香ですね。そういう演出がやはり有効だと分かりました。

○読経の音や、お香の香りが、リアル感を演出するわけですね。

■それと、これは実験的な検証は行われていないんですが、画像呈示面の周囲に実物体を置く、例えば寺院だと柱みたいなものスクリーンの両端に設置すると、立体感が変化するという説もあります。これは、私の最も興味のあるところなので、いろいろ検討しようと思っています。
 今は、スペインの修道院に挑戦しています。今度は、できればもっと視野を広げてみたいですね。周辺視がかなり重要だと思いますので。

[08: 下意識とリアリティ]

○周辺視ですか。人間は、意識上に登ってこないところ、下意識の状態がいろいろな処理をしていて、その結果が意識にはっきりは登ってこないんだけど、「なんだか違う」という感覚になっているという話がありますよね。CDが発売された時にも話題になった話ですが。そういうことと関係する話なんでしょうか?

■そうですね。例えば、バリ島のジャングルのような、自然性の高い地域の環境音には、音としては聞こえない成分、50kHz以上の高周波が豊かに含まれているそうですね。そういう音を聞かせると、快適性を示唆するアルファ波が増加するといわれています。放送教育開発センターの大橋力先生は、そういった生理・心理的な反応を「ハイパーソニック・エフェクト」と呼んでいますね。

○そういうものが視覚にもあるんでしょうか。多分あるんでしょうけど。

■そうですね。最近だと、先ほど少し話の出たTVアニメを見ていて倒れるというのがありましたね。あれ、ビデオを頂いて、見てみたんですが、画面の中心というか、注視しているところが点滅しているわけじゃないんですよね。どちらかといえば、背景なんです。周辺視とまではいかなくても、かなり近づいて見ていると、周辺に近い部分が明滅しているわけですよね。それが直接的な原因とはいいませんが、周辺視って、特に平衡感覚とかには重要だといわれているんです。例えば、普段は意識しませんが、鼻の頭って常に見えているじゃないですか。これが見えなくなると、まっすぐ歩けなくなるという説があります。

○まっすぐ歩けなくなる? 本当ですか?

■いや、なくしたことがないんで実際には分からないんですが、そういう話です(笑)。だから、常に意識はしていなくても、非常に大事な目印とか、そういうものがあるんじゃないですかね。

○じゃあ、立体視の映像を作るときに、鼻の陰を人工的に作ってやると、よりリアルに見えたりするもんなんでしょうか?

■どうなんでしょうね。多分、視距離が問題になると思いますが、映像でそれを再現することは考えたことがなかったです(笑)。面白いかもしれませんね。
 いま思いついたのですが、瞬目(まばたき)とかも面白いかもしれませんね。TV番組の評価などで使われているのでご存じだと思いますが、興味があるとか、注目するときには瞬目の回数が下がるといわれています。そして、そういった状態の後には、瞬目の回数が一時的に増加するそうです。例えば、瞬目を誘発しやすいカットを、作品のクライマックスの前後に挿入してみると、効果が上がるかもしれませんね(笑)。もっともフェアではないし、危険でもありますが。

○面白いですね。こういうことを含めて考えられるのが、VRやメディアアートの研究の面白いところですね(笑)。

[09: 都合の良い現実感]

■うん。アートとか、リアリティとか、考え始めると難しい問題ですが、そこが面白いともいえますね。

○そうですね。お金をバンバンかけて、CGやいろいろな機械を使ってみせるものよりも、普通の映画の方がよっぽどリアリティを感じる時ありますよね。そうすると、いったい何のための研究なんだろう、という気がします。VRのアプリケーション、マイクロ・サージャリーとか外科手術教育用とか、応用分野は分かるんですよ。そのままですから。技術として「役に立つ」ということは、見れば分かります。でも、それがなんなのか、という気がするんです。

■まあ、あった方がいい技術ではありますよね。

○河合さんは外科手術教育用の立体映像教材も作っておられますね。どうなんですか、あれの効果というのは。

■それが、けっこう面白い結果が出ているんです。千葉大学第二外科の中郡聡夫先生と共同で行っている研究なんですが、この教材自体は1996年の日本外科学会で公開しました。その後、SD法の評価用紙を用いて、千葉大の学生さんを対象とした実験を行っているんです。
 教材の中身ですが、比較的容易な手術の様子を、執刀医の視点で観察するというものです。収録時には、執刀医の頭部の位置にダミーヘッドを設置して、立体映像と立体音響を同時にレコーディングしました。呈示するときには、収録時と同様の位置関係を保持するために、ディスプレイを水平に設置しています。
 それで、実際に教材として使うのにあたって、3種類の条件を設定したんです。
 1つめの条件は、水平のディスプレイで、そのまま呈示するというものです。
 2つめは、実際に手術台のセットを作って、マネキンの患者さんの腹部にディスプレイを組み込むという条件です。手術台の周囲にもマネキンのお医者さんを立たせて、執刀医の位置だけ空けておきます。そして見る人は、空いている執刀医の位置に立って、ディスプレイをのぞき込む、という演出にしたんです。
 3つめは、2つめの条件に加えて、ディスプレイの角度を調整して、執刀医の姿勢で見るようにしました。実際の執刀医というのは、手術中は、かなり過酷な姿勢を強いられているんですね。だから、教育効果を期待して、同様の姿勢を取らないといけないようにしてみたわけです。この条件に比べると、2つめの条件は、手術台としての演出はされていますが、別に苦しい姿勢を取ったりしなくてもいいわけです。
 そうすると、2つめの条件が一番評価が高かったんです。

○評価が高かったとは?

■一番見やすく、分かりやすかった、というんです。実際に執刀医の姿勢をとるよりも、楽に見られるものの方が評価が良かったんですね。姿勢の制御を加えると、がくっと評価が下がりました。これの方が現実には近いんですけどね。
 つまりですね、リアルなものというよりも、「都合のいい現実感」ってあるじゃないですか。そちらを高く評価した、ということです。
 都合の良いモノを作るということは普通いいことなんですけど、教育面を考慮すると果たしてそれが良いことなのかどうかというと、それは分かりませんよね。確かに2つめの条件の方が分かりやすいという評価を得たわけですから、そういう意味では教育効果は高いといえますよね。でも実際に医者になって、いずれ実物で手術しなくちゃいけない。その時に初めて過酷さを知ることになります。そういう意味では、教育効果は低いと思うんです。
 そういう意味で、VRならではの都合の良さというものを、どの辺に設定して作ればいいのかなあ、というのは悩むところですね。

○面白いですね。「リアル」よりも「都合のいい現実感」を選ぶわけですか。

■そうですね。VRが話題になった当時は、「現実と仮想の区別がつかなくなる」といった問題が取り沙汰されていましたが、むしろこちらの方が重要な問題と思いますね。

○学生ではなく、実際に執刀経験のある人の評価はどうだったんですか?

■予想していたことですが、実際に執刀経験のある人の評価は、イマイチなんです。わざわざ立体映像にする必要性を、彼らは感じていなかった。要するに写真やビデオを見ても、頭の中で十分立体的に再構築できる経験があるわけですよ。一方、経験のない人には、血管と臓器の位置関係などは、2Dの教材では分かりにくいわけです。なおかつ楽で、面白さを感じる方が、高く評価されたわけですね。

○人間の生来的な性質かもしれませんね。都合の良い現実感を選ぶというのは。

次号へ続く…。

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 ユーザーが知っておくべきネットワーク社会のセキュリティ技術について.
 
http://www02.so-net.ne.jp/~shokabo/

■イベント:
◇国立科学博物館「大恐竜展〜失われた大陸ゴンドワナの支配者〜」7/11〜10/11
 http://www.kahaku.go.jp/kahaku-asa/dinosaur/dino-top.htm

■URL:
◇家畜クローン研究の現状(農林水産省、畜産情報ネットワーク(LIN))
 http://www.lin.go.jp/maff/clone.htm

◇先端産業技術研究
 http://ss.s.affrc.go.jp/docs/sentan/entry.htm

◇コンセンサス:サイエンス・フロンティア X線天文衛星「あすか」が伝える宇宙の活動
 http://www.sw.nec.co.jp/con/science/july_aug.html

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編集人:森山和道【フリーライター】
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