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2001/10/18 Vol.161
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【牧野淳一郎(まきの・じゅんいちろう)@東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻 助教授】

 研究:理論天文学、恒星系力学、重力多体シミュレーション
 著書:杉本大一郎編「専用計算機によるシミュレーション」 1994, (朝倉書店、東京)(分担)
    Junichiro Makino and Makoto Taiji, Scientific Simulations with Special-Purpose Computers --- The GRAPE Systems 1998, (John Wiley and Sons, Chichester).
    牧野淳一郎「パソコン物理実地指導」, 1999, (共立出版、東京)
    そのほか

 ホームページ:http://grape.astron.s.u-tokyo.ac.jp/~makino/

○理論天文学の研究者で、ずば抜けた性能を持つ重力多体シミュレーションのための専用計算機GRAPE6の製作者・牧野淳一郎氏のお話をお届けします。GRAPEってなに?という方は、今週号をお読み下さい。(編集部)



○まず、重力多体シミュレーションのための専用コンピュータ・GRAPE6の完成おめでとうございます。1024個のLSIで、約35万個の演算機を同時に動かせるとか。 これまで最速だったアメリカのローレンス・リバモア国立研究所の計算機の2.5倍の性能である32テラフロップス(1秒間に32兆回の計算をする)を達成したそうですね。
(リリース:http://grape.astron.s.u-tokyo.ac.jp/press/2001-grape6.html

■そうです。球状星団や銀河など、天文シミュレーションを行うための計算機がGRAPEです(オフィシャルサイト:http://www.astrogrape.org/)。一つ一つの星を粒子と見なして、多数の粒子の相互作用を計算します。

○そういう凄いコンピュータを前にして、バカみたいな質問からで恐縮なんですが、GRAPEの名前の由来って何なんですか。“short for GRAvity PipE”の略だということはサイトに書いてありますが……。

■ああ、名前はですね、実際につけたのは杉本大一郎さん(現在は放送大学教授)なんですよ。分かりやすいキャッチーな名前で、何らかの意味を持つ言葉にしたいと。
 GRAPEのプロジェクトを始めたのは1988年の秋くらいからですが、最初は名前がなかったんです。90年の6月だか7月くらいに、これで行こうと。それまでにも名前の案はいくつか出していたんですが、いまいちだったんです。

○たとえばどんな名前があったんですか。

■単に「近田パイプ」とか。

○近田パイプというのは?

■近田さんというのが、一番最初にこういうタイプの計算機を提案した人なんですよ。でも、もうちょっと格好いい名前をということになりましてね。それでいろいろ考えたんですが、APPLEってのもあるから、こっちはGRAPEで行こうと(笑)。

○なるほど(笑)。

[01: 特定の目的に特化した計算機を作る 経緯その1]

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○僕が一番最初にGRPAEについて聞いたのは、立花隆さんの『
電脳進化論 ギガ・テラ・ペタ』(朝日文庫)のなかでした。

■ああ。

○あの単行本が出たのが1993年ですが、近田パイプっていわれるような、特定の目的に特化した計算機を作るっていうのは、どういう経緯で出てきたものなんですか。

■ええ、取りあえず僕の観点から話をしますね。杉本さんの観点とは違うんですけども。
 1985年くらいのことなんですけど、僕が修士に入ったときに球状星団の進化を考えるということになったんです。球状星団は大きさがだいたい数十万個から数百万個の星から出来ている星の集団です。それがどう進化したかを考えるとすると、ガス近似とか流体近似とか、分布関数をどうこうするとか色々あるんですが、本当は、一個一個の軌道を計算して出したいと。ていうかそれをしないと本当には何が起こるか分からない。
 僕が修士に上がるころに杉本がちょうどそういう問題意識を持っていたんです。そこで僕が修士に上がっていきなり計算−−「N体計算」っていうんですけどね−−をやらされました。

○はい。

■それで、東大のセンターに最初にスーパーコンピューターが入ったのが83年で、僕が修士に上がったのは85年くらいだから、だいたい安定して動くようになっていたんです。それを使って計算したんですけど、今ひとつね。大したことはできない。
 それは、その当時やりたかった計算だと、星の数、粒子の数が少なくとも一万個くらいは欲しいというのがあって。で、当時実際にできたのはどのくらいかというと1000個くらいしかできなかったんですね。球状星団の計算の場合ややこしい問題がありまして、普通はこういうN体問題の計算というのは、重力なので一個の星の動きは他の全ての星と関連していると。それをまともに計算するとN個あるからNの自乗回計算しないといけない。
 実際にはこれが進化のタイムスケールの問題というのがあって、球状星団の星というのは中をぐるぐる回っています。ぐるぐる回っているだけだったら構造は変化しないんですが、どう言ったらいいんだろ。

[02 : 星の数に比例して、衝突が起きるまでの時間が大きくなる]

○じゃあ取りあえず球状星団について教えて下さい。

■はい。球状星団の中の星は、重力だけでしか相互作用しないわけです。普通の気体分子みたいに衝突するというわけではないんですが、たまたま近くを星が通ると重力でわりと大きく曲がると。それが積み重なっていって、気体分子でいえば、いわば熱伝導にあたるようなことが起こって構造が進化すると。そういうことなんですね。

○ええ。

■で、具体的にはどういうふうに構造が進化するかというと、そもそも最初、球状星団がどうやってできたかということは分かってないんですが(笑)。

○そうなんですか。

■ええ(笑)。
 いま、我々の銀河にあるような球状星団はほとんど球形で、多少は楕円形になっているものもありますが、球からのずれがせいぜい10%〜15%くらいなんですね。

○イメージとしては、地球みたいに軸があって、その周りを回ってるんですか。

■いえ、球状で本当に丸いので、いろんな星がそれぞれ勝手な方向でぐるぐる回っています。だから銀河系とかとは全然違うんです。銀河系は軸があってそのまわりを星が運動していますが、球状星団は適当に丸いものがある。

○じゃあ、地球の周りを回っている色んな衛星がありますね。あんなイメージですか。

■そうですね。そっちのほうが近いです。それが、なぜそういうふうにできたのかはあんまり分かってないんですが、基本的な話でいえば、球状星団の星が少ない系というのは、熱平衡状態ではないんですが、まあそれに近いような方向に進化できるんです。熱力学的な進化ができる。

○というのは?

■というのはですね、先ほど言ったような、星の近くをたまたま星が通って軌道が変化するような現象は、星の数が少ないほど起きやすいんです。

○え?

■逆に聞こえるんですが、そうなんです。「近い」っていうのは要するに相対的な概念で、たまたまそばを通ったときに大きく曲がれば「近い」と。そう考えるわけです。おおざっぱにいうとどのくらいかというと、球状星団なり銀河なりがあるとすると、だいたい、1/星の数 くらいの距離まで近づくと大きくまわるんですね。計算すると出て来るんですけどね。

○ふーん。なるほど。要するに少ないほうが影響を受けやすいと?

■そう。少ないほうが影響を受ける範囲が広いので、そんなに近くまでいかなくてもくくっと曲がるということです。

○ふむふむ。

■だから、おおざっぱにいうと、星の数に比例して衝突が起きるまでの時間が大きくなるんです。
 というわけで、現実の天文学の対象としてみると球状星団は非常に速く進化して、銀河なんかは宇宙年齢くらい経ってもほとんど進化しないと。そういうことが出てくるわけです。
 で、もっと小さい散開星団だとかはもっとずっと短くて、熱力学的的な進化は1000万年とか一億年くらい。球状星団だと10億年から宇宙年齢くらいの間に進化してきたということになります。銀河だとこれがどんどん伸びて10の17乗年とか18乗年とかになっちゃうんです。だから銀河とかは熱力学的なところとは関係ない世界にいるんですが、球状星団や散開星団は熱力学的な進化をすることになる。

○ふーん……。

[03:専用化するとどんなことができるか 経緯その2]

■それでシミュレーションの話に戻しますが、結局、星の数を10倍にすると計算量がステップあたりで粒子の自乗になるという話があったわけですが、もう一個、いま申し上げたような理由で進化がゆっくりになるから、長い計算をしないといけないと。それで3乗になっちゃうんです。だから10倍大きい計算をしようと思うと、実は1000倍早い計算機がいるという話になる。

○なるほど。

次号へ続く…。

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