NetScience Interview Mail
2001/11/22 Vol.166
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【牧野淳一郎(まきの・じゅんいちろう)@東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻 助教授】

 研究:理論天文学、恒星系力学、重力多体シミュレーション
 著書:杉本大一郎編「専用計算機によるシミュレーション」 1994, (朝倉書店、東京)(分担)
    Junichiro Makino and Makoto Taiji, Scientific Simulations with Special-Purpose Computers --- The GRAPE Systems 1998, (John Wiley and Sons, Chichester).
    牧野淳一郎「パソコン物理実地指導」, 1999, (共立出版、東京)
    そのほか

 ホームページ:http://grape.astron.s.u-tokyo.ac.jp/~makino/

○理論天文学の研究者で、ずば抜けた性能を持つ重力多体シミュレーションのための専用計算機GRAPE6の製作者・牧野淳一郎氏のお話をお届けします。(編集部)



…前号から続く (第5回)

[13: ブラックホールが簡単に合体できない理由]

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○“高踏的な”説明とは?

■重力で相互作用する粒子が三個あったときに一番エントロピーが高いのはどういう状態かというと、実はそういうのはないんです。全エネルギー一定のままで、いくらでもエントロピーが高い状態が作れちゃうんです。それは、話は簡単です。二つを連星にして近づけてやってもう一個を回すと、いくらでも高いエネルギーを与えられるので、いくらでも高いエントロピーが与えられるんですね。

○……ん?

■ええと、つまりですね。粒子二個とか3個とかでエントロピーが定義できるかという問題もあるんですが、できたとしましょう。で、全エネルギーは一定だとすると。重力だけだとどれかの粒子が無限遠にいっちゃうとかあるんですが、壁があって有限の空間にとどまると仮定します。とにかく断熱壁の中に重力で相互作用する粒子3個を突っ込んでやる。このときには、普通の意味での統計力学は成り立つと思われるでしょ。ずっとほっといたら熱平衡状態になると。

○はい。

■ところが重力というのはそういう力じゃないんです。統計力学がなり立たないというわけではなくて、なり立つとするとちょっと直観に合わないようなことが起きる。
 つまり、普通に考えると、箱の中に粒子があるとすると、それぞれが勝手に動き回っていてどこにあるか分からない状態とういうのが一番エントロピーが高いわけですね、もちろん。要するに分布関数が一様であるのが熱平衡。

○そこまでは分かります。

■ところがですね、重力の場合は違うんです。連星を作ってやってビーって回転させると、そこからいくらでもエネルギーが引っぱり出せるんです。

○え、どういうことですか。

■自分の重心運動のエネルギーをもう一個の星に運動エネルギーとして与えられると。そうするとそれが速度を非常に大きくできるので、分布関数を考えたらエントロピーは6次元の分布関数−−だから位置と速度を両方考えたときの分布関数になるんです。だから二つをくっつけると、位置のほうはもちろん制限があるんですけども、速度のほうはブワーッと広げられるので、実際にはそちらのほうの効果が効いてエントロピーが高くなる。

○……ははあ。

■これはまあ普通の化学反応とか原子核反応と別に違うところはないわけです。そういうのでは温度というか全エネルギーが割合低いところでは分子を作ったり、あるいは複数の核子が集まって原子核を作ったりするわけですね。そのほうがエネルギーが低いからですが、もちろんエントロピーを考えてやると、化学結合のエネルギーを分子や原子の運動エネルギーに変えてやれるので速度空間での分布が広がってエントロピーが増えるというのが結合する理由なわけです。

○はい。

■連星ができるのもこれと全く同じで、重力で結合してエネルギーをとり出す。で、化学反応でも原子核反応でも、基底状態があって結合からとり出せるエネルギーには上限があるんですが、重力では基底状態がないというのが違います。

○うーん、分かったような分からないような。

■つまり、ニュートン力学だけで、一般相対性理論が効かない仮想的な状態を考えて、無限に二つの粒子をくっつけていくと、無限にエネルギーを引っぱり出せるので、エントロピーの極大は存在しなくて、いくらでも大きな値にできるんです。
 で、ということは、3個の粒子があるところで、できるだけ熱平衡に近い状態に持っていくことを考えると、実は二つはくっついて回っていて、一つは弾き飛ばされると。そういった形が一番実現しやすいんです。

○ふむ。いっぱい速度をもらえるから遠心力でどっかへいっちゃえるわけですか。

■そう、遠心力もありますが、そもそも速度をいっぱいもらえますから、速度だけでどっかへいっちゃえるということです。
 いっちゃえるということは、現実には壁がありませんから、行ってしまったらさようならです。ということが、実際には一番よく起こるということになる。これが一番“高踏的な”説明ですね(笑)。

○なるほど。
 じゃあブラックホールが合体できないとすると、限りなく相対論的な速度でグルグルお互いの周りを回っているということですか。

■ええ、だから実際には相対論的な効果が効いてきちゃうので、ある程度まで近づくと、重力波を出して合体できるのではないかと思われるわけです。

○ああ、なるほど。

[14: 重力波]

○でも、もしそういうのが実際に起こっているのだとしたら、重力波の検出ももっと簡単なのでは? 東大でも光干渉計を使ってどうこう、といったことをやってるんでしょ?

■いや、質量が大きな星同士の合体の重力波っていうのは振幅が大きくて受けやすいんですけども、地上の観測では残念ながら受けられないんですよ。というのは、周期が長いんです。

○ん?

■たとえば、太陽質量の10の8乗倍のブラックホールの合体が起こったとしましょう。そのときに出てくる重力波の周期というのは、だいたいそのくらいの質量だと半径が1AU(天文単位)くらいあります。だから少なくとも、波長がそのくらいあるわけです。

○ははあ。じゃあすり抜けちゃうんですね。

■そう。周期が10分くらいある大きな波がどばーっと来るわけです。
 地上でやっている奴は、周期がミリセカンド・オーダーじゃないと受けられない。地上なので安定性とか色々な問題があって、そのくらいのものじゃないと受けられないということなんですけども。だから、そういう大きな振幅の奴は、やってきてても地上の観測器では分からないんです。

○じゃあどうやって観測するんですか?
■いちおうそれを何とか観測しようというのがあります。惑星間空間で干渉計を作って重力波を受けようという計画があって、今も動いているのかな。もともとはESAの計画だったと私は思っていたんですが、今はNASAとESAのジョイントの計画なんですけども、それが上がると受けられるハズだ、ということになってます。(
http://lisa.jpl.nasa.gov/)
 重力波の観測には非常に特殊な性質があります。振幅が距離に反比例しかしないんです。

○振幅が距離に反比例しかしない? それはどういうことなんでしょう。

■普通、波を受けるものは、いわばエネルギーを受けるわけですね。エネルギーは距離の自乗に反比例して減っちゃうじゃないですか。表面積が広がっちゃいますから。

○はい。ま、弱くなるわけですね。

■なので、遠くのものは距離の自乗に反比例して弱くなると。
 ところがですね。重力波の場合はエネルギーではなく空間の変形を検出するわけです。このへん、僕もあんまり理屈は知らないんですが(笑)、とにかく、空間自体がこのくらい伸びたり縮んだりしたという振幅自体を検出すると。そしてこの振幅は、距離の1乗でしか減らないんです。だから非常に遠くにいても、それほど信号が弱くならないという性質がある。だからその観測装置ができると、宇宙の果てまで何でも分かる、ということになってます(笑)。宣伝する人たちはそう言ってます。ただ、いつ観測器が上がるか分からないので。 予定としては 2011 年となってます。

○予定では、ですか。

■一方、地上の重力波の観測というのは、まあ、地上でやるしかないから地上でやってるわけですが、非常に波長が短いものに偏っていて、それはまあ地上でやる以上はどうしようもない。
 特に重いもの同士の合体でできる重力波を考えると、もちろん波長が短いということは質量も小さいということで、振幅自体がシグナルになるので、非常に近くにあるものしか分からない。とにかく何でもいいから重力波を受けたい、という観点からすると、あまりお買い得ではないんじゃないかと僕は思うんですが。
 いまは小さなブラックホールとか中性子星とかの合体しか分からないようなものになっています。だから向こう十何年かはちょっと。

○ふーん、そうなんですか。一度東大の観測装置も見てみたいですが。

■ESAのほうも非常に大がかりな装置ですからね。
 彼らは、普通の中性子星−−太陽質量の1.数倍のところから10の8乗くらいまでの、非常に広い周波数領域に対して感度を稼ごうと言ってます。まあ、打ち上がるころにはその計画も変わってるかもしれないんですが。

○最近、宇宙観測は状況が厳しいようですからね。

■技術的にも割合難しいことになってますからね。もうちょっと簡単なものを作ってやれることをやったほうがいいんじゃないかと思うんですが。

次号へ続く…。

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NetScience Interview Mail Vol.166 2001/11/22発行 (配信数:25,732 部)
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