NetScience Interview Mail
1998/06/11 Vol.007
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◆This Week Person:

【丸山茂徳(まるやま・しげのり)@東京工業大学 理学部 地球惑星科学教室 教授】
 研究:地質学、地球史
 著書:「46億年 地球は何をしてきたか?」岩波書店
    「生命と地球の歴史」共著、岩波書店
    ほか
研究室ホームページ:http://www.geo.titech.ac.jp/maruyamalab/maruyamalab.html

○丸山茂徳氏へのインタビュー、今回は2回目です。
 今回は主に、地球がかつて氷河に覆われていたころの時代のイベントについて伺います。(編集部)



前号から続く (第2回/全4回)

[02: 地球史7大事件] (続)

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○プルームの挙動が、地球全体の気候などに、大きな影響を及ぼしているわけですね。

■そうです。影響を受けているのは単に気候だけではありません。
 地球は水の星と呼ばれますが、地球を形成するモデルを作ると、海水の量は本来ならもっと多いはずなんです。ですが、どこかへ行ってしまっています。どこへ行ったか。
 それはマントルの中にあるのです。注入溝はプレートの沈み込む海溝です。プレートが濡れ雑巾みたいに水を含んでいて、そのまま沈み込んでいくことにより、水がマントルに蓄積されているのです。

○ある時点からマントルの中に水が蓄積され始めたわけですか。それまで、水がマントルの中へ注入されなかった理由は?

■7億5000年前までは地球の内部は暖かかったんですよ。水がマントル内部で安定して存在できるほど冷えていなかった。だから当時はマントルまで海水が注入されることはなかった。ところが、マントルの温度が下がってきたことにより、水がマントル内部に運ばれるようになった。その結果マントルが再び融けるようになり、地表へマグマが吹き出し始めたわけです。それによって地表が暖まり、酸素が増えた。このおかげで、現在の我々大型生命体の人類がいるわけです。

○と、仰いますと?

■というのはね、8億年前くらいの地球は、氷の星だったんです。氷河が赤道まで押し寄せてきていた。地球全体が氷河に覆われたわけです。地球は、ほとんど氷の星になりかけていたわけ。その理由は簡単でね、地球が冷え続けてきたからですよ。ところが、ある時にその氷が溶けたんです。

○地球はかつて氷の星になりかけていた。でもある時点でその氷が溶けた。なぜですか?

■うん、なんで氷が溶けたのか、昔は分からなかったんですが、その理由は最近解けたんですよ。それが先ほどのマントルへの海水の注入開始です。さっき言った事の繰り返しですが、もう一度説明しましょう。
 硫酸銅というのを知ってますね。あれは青い結晶ですが、それは水を含んでいるせいなんです。火で結晶をあぶると白くなります。それと一緒で、水というのは液体の水、あの状態と、鉱物の中に結晶水として閉じこめられる状態があるんです。温度が下がっていくと、水は結晶水として鉱物の中に入り込むことができるようになります。
 地球の温度が下がっていくと、マントル内部で水が安定な状態として存在できるようになるんです。そうすると、マントルの融点が下がって、マントルが溶けて、マグマができやすくなるんです。そういう効果を水は持っています。そうするとその溶けたマグマが地表へ吹き出す。マグマというモノは熱いものだと思っているかもしれませんが、地球内部から熱が出てくるわけですから、これで地球の中は冷えます。ですが、地表は暖まります。その結果、氷河期が終わったのです。
 当時の地球はどんどん冷えてきて、氷漬けになってた。生物はほとんど死に絶える直前。本当にもうぎりぎりの状態だった。ところがちょうどその時に、地球の中で含水鉱物が安定になったので、地球の中に水が入るようになった。地球の中に水が入るようになったので地球内部の熱がくみ出されるようになり、氷が溶けた。
 そして、その周辺でエディアカラ動物群といったような大型の生物が発生した。これがわれわれの仮説です。

○その時に多細胞生物が進化したと考えておられるわけですか。

■そう。それは酸素が大量に大気の中へ放出されたからです。
 現在の大陸は地球表面の3割くらいありますね。でも陸地のほとんどは低地ですね。海水準が600m上がったら、地表面積は30%から5%くらいになってしまいます。観測の結果、当時の海水準というのはそのくらいあったということが分かってます。つまり、地表面積は5%くらいしかなかったのです。そうすると、どういうことが起こるか。
 光合成というのは酸素を出しますね。そのおかげでいま酸素が20%もあるわけです。でも本当だったら、光合成生物の死骸を酸化するのに、せっかく増やした酸素は使われてしまって大気の中にはたまらないんですよ。でも酸素はある。地球上の酸素を増やすためには、死骸を酸化しないようにどこかへ隠してしまわなくちゃいけない、ということになる。そのためには、大量の泥と砂で、死骸を埋めてしまえばよろしい、ということなる。堆積岩の中へね。
 つまり、酸素濃度が増えたと言うことは、大量の堆積岩ができたということなんです。ところが、堆積岩ができるためには大きな陸地面積が必要です。堆積岩は浸食によってできますから。そのためには海水がどこかへ行ってしまわなければならない。どこへ行ったか。マントルの中です。

○含水鉱物になってマントルの中に保持されているわけですね。

■そう、安定な状態になって。どうしてそういうことが起こったかというと、地球が冷えて、ある温度を通過したからですよ。
 で、具体的にどのくらいかということを実験で調べた。それはどうやって調べるかというと、プレートが沈み込むときに出来る変成岩というのがありますね。地上に残された大量の変成岩の形成温度圧力を片っ端から調べるわけです。その結果、深さ30キロの温度を調べると10億年前は800℃あった。5億年前は300℃になっている。このように、地球はどんどん冷えているわけです。
 地球の冷え方というのはね、断続的なんですよ。ある時点から急速に地球は冷え始めたんです。それは、マントルの中に水が入り込み始めた頃、つまり10億年まえから7億年前くらいですよ。そうしてその水がマントルを溶かすことによって、地球の中の熱を結構うまく汲み出しちゃっているわけ。その間は結構地球は暖かい。ただしそれは表面的なことです。地球内部からの熱は逆にどんどん逃げて行っているわけですから。
 うまく汲み出せなくなったら、後は地球は冷却の一途でしょう。プレートが沈み込んでいっても、火山活動がなくなったら、あとは地球は氷漬けです。地球ができたときに閉じこめられた熱の総量は減っているわけです。今はうまい具合にマントルの中に水が注入されるようになってマントルが溶けるようになり、その熱が地表に出てきて、地表を暖めているわけです。地表には大気という毛布がありますし。
 だけど、とにかくどんどん冷えているんですから。氷漬けになるか、海水がなくなった時点で生命は終わりですね。

○つまり、地球が冷えることにより、ある時期に含水鉱物の安定域がマントルの内部でわーっと広がって、そのおかげで我々生き物にとっては快適な時代になったということですね。

■そうです。
 このように、全ては関連しあっているんです。マントルの中でプルームが落っこちたり上がったりする影響で大陸が離合集散し、地球の内部の熱が不連続に放出される。そして気候がかきまわされる、というのがこれまでの地球の歴史です。
 生物の歴史も、固体地球の進化のことを考えずには語れません。

次号へ続く…。

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