NetScience Interview Mail
1998/10/22 Vol.025
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◆This Week Person:

◆This Week Person:
【中澤港(なかざわ・みなと)@東京大学 大学院医学系研究科 国際保健学専攻 人類生態学研究室 助手】
 研究:人類生態学
 著書:大塚柳太郎,片山一道,印東道子(編)『オセアニア(1)島嶼に生きる』
    東京大学出版会, 東京, pp. 211-226(分担執筆)
    ほか

 ホームページ:http://www.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm

○今回から人類生態学の研究者、中澤港氏にお伺いします。
 中澤氏はオセアニアをフィールドとし、同時にシミュレーションなどの手法を用いて人類集団を研究対象としています。
 第一回の今回は、人類生態学とはなんぞや、という問いから始めます。6回連続予定。(編集部)



○まず、「人類生態学」とはなんぞや、ということからお伺いしたいんですが。

■それは一番難しい質問ですね(笑)。

○ええ、多分、これがアルファでオメガの質問だろうとは思うんですけど(笑)。逆に今日は、それを教えて頂ければ十分だとも思っているんです。よろしく御願いします。

[01: 人類生態学とは何か]

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■人類生態学、Human Ecologyっていうのは、一般的には、世の中でいま起こっている環境問題とか人口問題とか言われているもの──ヒトが作りだした環境汚染物質が地球上に溢れているとかですね──そういう問題を解決して、ヒトを生き延びさせていかなくちゃいけないので、これまでヒトがどうやってうまく生きてきたのかを、包括的に理解することを目標にしています。

○え? ちょっとピンと来ないのですが…?

■ヒトはもちろん環境を汚しながら生きていくわけですけれども、これまでは何とか生き延びてきたわけです。もちろん話は簡単じゃなくて、人間が生きていくためには環境からものを取り出して食べるわけですが、食料を取り出すときにはそれぞれ固有の技術を使って取り出すわけで、そういうことも考えなくちゃいけない。
 簡単には、なんていったら良いんでしょうね…。

○…環境にインパクトを与えながらでないと人は生きられないですよね。

■ええ、生きられないですね。また排出しているものっていうのも、何をどう環境から持ってきたかで変わってきますよね。
 だから、「ヒトが生きている」っていう状態を考えるためには、あるいはヒトが生きていく上でどう生きていけば良いのか、それが人類の生存にどう影響するのか、持続可能なのかどうなのかということを考えるためには「全体の系」として、「人と環境の全体の系」として考えないと、人類の生存は難しいんではないかと。そこで「全体の系」として考える学問としての役割が、人類生態学に期待されていることなんです。

○うーん。でも、いまあるほとんどの学問はそういうことを考えていると思うんですけど。つまり、「持続可能な社会」を築いて維持するためにはどうすれば良いのかとか、人間とはどういう生活をしているのか、個体がどういう生活環を送り、「人類」という種全体としてはいったいどういう生き物なんだろうかということは、みんな究極の目標として掲げていると思うんですよね。

■ええ、そうですね。

○逆にそれを「人類生態学」という看板をつけてドーンと持ってくるというのは、どういうものなのかなと思ってしまうんですが。例えば人類生態学というのは人口学とか文化人類学とか疫学とか生態学とかの手法を使ってやるそうですね? その一つ一つの取り組みや手法は分かるんですが、なぜそれらをくくるのか。というか、どういう枠でくくって「人類生態学」という名前をつけているのかな、と思ってしまうんです。その辺は、どういう形になっているんだろうかと。ある意味ではなんでもかんでも人類生態学になっちゃうじゃないですか?

■そうですね。見方によってはそうですね。
 実際、人類生態学なんてあるのか、という批判は、常にいろんな方面からあります。環境という文脈から切り離した因果関係なんてものは人類生態学の方向性じゃない、とか、逆説的な定義はできるんですけど、これが人類生態学が扱う範囲です、って形で枠を決めるのは難しいです。
 だいたい、人類生態学って名前のついている講座は、日本には2つか3つしかないんです。ここと、杏林大、それと前は琉球大にあったんですが組織改革でなくなってしまったんで、2つですね。それと、山梨県環境科学研究所っていうところにできたんですけど、それもここの講座出身の人が行ってできたものなんで、「人類生態学」といってやっているのは、ここだけかもしれないです。

○そうなんですか。

■前の教授の──退官後に環境研の所長をされて、今は環境ホルモンの学会の代表をされてますが──鈴木継美先生が「人類生態学っていう学問はこれから作っていくものだ」って仰っていて、僕はここに来たときには「人類生態学」っていうのはあるものだと思っていたんでショックを受けました。そういう意味では、「あるのか?」と言われると結構困るんですよね(笑)。

○(笑)。

■ここの研究室でも、僕の捉え方と、他の先生方との捉え方は違いますから。

○どう違うんですか?

■人間と環境全体の系として捉える、という点は一緒なんですけどね。
 ごく大雑把にいってしまえば、鈴木先生だと、鉄とか亜鉛とか微量元素の循環を追うわけです。どう循環しているか、いろいろな元素がどう共役したり拮抗したりしているか、どこか一カ所に滞ったりせずに、システムがうまく動くかに注目しますし、今の教授の大塚柳太郎さんは人類学出身なんで、ヒトの人口とか出生数とか死亡数とかがどういう風に変化するのか、どういう形で変わって人の集団は存続してきてるのか、どういう技術や文化によって、土地の人口支持力がどう変わるかといった形で研究しています。

○なるほど。

■で、僕はどうかというと。「地球上全体の」なんて考えても、ヒトと環境の相互作用の数とか具体的なデータなんか、取れないじゃないですか。だから割と地域にまとまった、生態学で言う個体群単位で考えて、コンピュータ上でシミュレーションしようと思っているんです。

○具体的には、どういうことですか?

■つまり地域集団を調査するわけですが、ヒトっていうのは、一人一人の個人が産まれて、いろんな意志決定をして、環境からいろんなものを取りながら生きていくわけですよね。そのヒトたちは一人では生きていけない。役割分担をして、それぞれby chanceで相互作用しながら生きていくわけです。だから環境もモデルにしちゃって、その相互作用のモデルを作って、全体をシミュレーションしてやるわけです。主に考えてる要素は栄養と人口と病気なんですけど。
 つまりシミュレーションをして、ある地域のヒト個体群の生存をコンピュータの上に再現してやろうと。

○シム・ヒューマンって感じですか(笑)。

■ええ。で、そうしたときに、例えば、ある条件を変えたら、シミュレーションの結果はどう変わるか、見るわけです。…具体的に言わないと分からないですよね(笑)。

○ええ、御願いします(笑)。

[02: フィールド調査 〜パプア・ニューギニアのギデラ〜]

■いまだと、パプア・ニューギニアの人たちと、ソロモン諸島の人たちのモデルをやっています。

○パプア・ニューギニアですか。

■ええ。
 パプア・ニューギニアの南側に<ギデラ>っていうヒトたちが住んでいて、13個の村に分かれているんですが、この人達はいろいろなルールを持っているんです。

○ルール? どんなものですか?

■例えば結婚に関して言えば、隣の村とか自分たちの村のなかで結婚することが一番多くて遠くの村と結婚することは少ない、そういうルールがあるんです。
 また、「氏族」って訳すんですけど、「クラン」っていうのがありまして。父系クランとか母系クランとか、世界にはいろんなクランのシステムをもっているのがありますが、ギデラの人達は父系のクランで、子供は父親のクランに入るんです。
 そのクランがいくつかあるんですが、クランは二つの半族に分かれています。一つの半族には蛇のクランと、トカゲのクランと、なんとかのクランとかが入り、もう一つの半族にはまた別のクランが入るわけです。で、結婚は、同じ半族の中でしてはいけない。なおかつ、できれば、自分が半族Aにいて半族Bの女の人と結婚する場合、半族Bの(その女性が属するクランの)男の人に、半族Aの(自分のクランの)女の人を世話する、という約束をしないといけないんです。姉妹交換婚っていうんですが、結婚に関してもこういう複雑な──まあそうでもないけど(笑)、いくつかのルールがあるわけです。最近だとお金を払わないと結婚できないとか、そういうのもあります。

○へえー。

■食べ物に関して言うと、主にサゴヤシっていう椰子の木があるんですけど、それを切り倒して、髄を掘ってですね、水をかけて絞って、でんぷんをとりだして、焼いて食べるんです。これは「半栽培」で、植えるけど、あとはほっとくんです。湿地に植えて、あとは20年くらいほっておいて、切り倒して食べるわけです。
 他にはタロイモとかヤムイモとか芋類、それからバナナ、甘くない奴を焼いて食べるとかしています。
 バナナとか芋は焼き畑農耕です。森林とかを切って焼いて、焼けたところに植え付けるわけですが、それも最初にヤムイモをうえて、次にバナナとかを植えて、っていう風に、土地が段々痩せていくんで植える順番が決まってます。
 あとはハンティング。前は弓矢だったんですが、最近は散弾銃です。ワラビー──カンガルーの一種ですが、それを獲るんです。ワラビーにも何種類かいて、グラスワラビーとか、ブッシュワラビーとか、そういう有袋類と、あとはブタとか鹿とか、白人との接触で持ち込まれたものですね。正確に言うとブタはもうちょっと違うんですが(ふつうブタといってイメージされる肌色のブタは白人がもちこんだものですが、ニューギニア高地のヒトたちが家族同様に一緒に暮らしているイノシシのようなブタは──低地まで野生化したやつが広がっていますが──、少なくとも5千年以上前に既にニューギニアにいた証拠があります。現在、5万年くらい前にアジアからスンダランド…当時はニューギニアとオーストラリアは地続きの大陸だったのです…を通って来た人たちが 連れてきたものという説が有力です)、とにかくヒトによって持ち込まれたものも獲ります。
 単位面積あたりどのくらい食べ物が摂れるか、っていうのはスキルによってちょっと変わりますけど、ほとんど安定してます。

■次に人口ですが、まず産まれてくるところについては、世界のいろんな人の産む数を調べると、産児制限をしていない人だと、生涯に産む子供の数ってポアソン分布するんですよね。家族計画っていうか産児制限している人達だと負の二項分布っていう形になるんですけど、ギデラの人は不思議なことに子供0の人が一番多いんですよ。子供を産まない人が多いんです。

○子供0? なぜですか?

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

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◇『表面の世界』 荻野圭三著,本体価格1700円+税
 液体・固体の表面に起こる,内部とは違った特有の面白い性質・現象を解説する
 裳華房ポピュラー・サイエンス 
http://www02.so-net.ne.jp/~shokabo/

◇『高分子の物理』 シュプリンガーフェアラーク東京 本体価格:4,800円
 物理学・化学において高分子科学を志す者が標準的な教科書として用いるのに最適の書
 http://www.springer-tokyo.co.jp/content/j19703.htm

■URL:
◇高知県吾川村からの天の川ライブ中継(11月13日〜12月13日)
 http://www.media-i.com/www/Miklyway/index-j.html

◇SETI@home 自宅で地球外生命探査
 http://www.vacia.is.tohoku.ac.jp/~s-yamane/articles/setiathome/home_japanese.html

◇粘菌に学ぶ新しい情報処理理論(NECコンセンサス・サイエンス・フロンティア)
 http://www.sw.nec.co.jp/con/science/oct.html

◇環境関連サイト情報の検索
 http://www.eic.or.jp/eic/db/robotkensaku.html

◇環境白書
 http://www.eic.or.jp/eanet/hakusyo/1998/mokuji.htm

◇ソニーの<エンタテイメント・ロボット>ホームページ
 http://www.sony.co.jp/TechnoGarage/robot/index-j.html

 *ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


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