NetScience Interview Mail 2004/11/25 Vol.300 |
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【泰羅雅登(たいら・まさと)@日本大学総合科学研究所・日本大学医学部先端講座教授】
研究:認知神経生理学
著書:『脳のなんでも小事典』(共著/技術評論社)
『脳のしくみ』(池田書店)
研究内容の参考になるウェブサイト:三次元構造認知の神経メカニズム
○腕を伸ばしてコップを掴むとき、わたしたちは何も考えずに、適切な大きさに手を広げてコップを掴むことができます。どうしてでしょうか。人間がものを見たとき、脳ではどのような処理が行われているのでしょうか。たとえば人間は片目でものを見たときにも立体的に空間を感じることができます。それはどういう仕組みなのでしょうか。
また未知の空間を探索、すなわち知らない場所を訪れたとき、脳にはどのような変化が起きるのでしょうか。
今回からは、運動と視覚、この二つの神経学的基盤に関する研究についてのお話です。同時に、意識と無意識の際(きわ)の問題を探る話でもあります。(編集部)
…前号から続く (第7回)
○時間の話になると、やっぱり普通に興味があるのが、心理的に知覚されている時間とかのことなんですが、そういうものも、もともとは、自分の体を制御するためのタイムシークエンスの必要性とか、そういったところから出てきたものなんでしょうかね? ■研究の対象としては、論文を検索するとそうですね。
○ええ。そうなんですけど、ここへ来る途中、ちょうど『時間を作る、時間を生きる心理的時間入門』(松田文子 編/北大路書房)という本を読んでいたものですから。 最近、いろいろと時間のことが気になるんです。時間と空間認知の関係はどうですか。 ■空間と時間ってすごく関係があるんですよ。 ○ええ。 ■パンパンと二つの刺激を連続して呈示するときに、呈示する空間的な位置関係と、呈示する時間感覚はインタラクションを持つことはすごくよく知られています。時間が空間に影響を及ぼす「τ効果 tau-effect」、その逆、空間が時間に影響を及ぼす「κ効果 kappa-effect」っていいます。 ○それはどんなものですか。 ■呈示距離が離れていると実際の呈示時間の間隔がよりも長く感じるし、逆にのインタラクションもあるんですね。fMRIで見ると時間と空間の情報は同じところで処理されてるんですね。たから、インタラクションもすごく強いんですよ。 ○へえ〜。 ■ただ、時間とか空間に関してfMRIで調べると、必ず、注意に関係していると言われている領域が活動するんですよ。だから、区別が難しいのですが、ただ、時間空間に関しては右半球にしか活動が出てこないんです。一般的な注意は視野依存性があって、一般的な調べ方をすると左右の半球が均等に活動するんですが時間空間に関しては右側がすごく強く活動するんですよ。 ○右のどのへんですか。 ■頭頂葉と前頭葉です。人でも障害例がいくつかって、右の頭頂葉がやられると時間の判断ができなくなるという症例があります。 ○「時間の判断」ができなくなるとは? ■300msとか600msという非常に短い時間間隔の区別なんですが、最初に300msあるいは600ms間隔で2回、音をだす。1秒たってから、また2回音が聞こえるんですが、この時間間隔が最初のときの間隔より短いか長いかを判断させる課題をさせるんです。 ○なるほど。 ■右の頭頂葉がやられてる人は、それができなくなるっていう仕事があるんです。これは非常に短い時間間隔ですけど、うちの親父も脳梗塞おこして右の頭頂葉やられたときに時間感覚がおかしくなっちゃったんです。 ○時間感覚がおかしくなるって、具体的にはどんな感じなんですか? ■人と約束してるとするでしょ。すると1時間前くらいに着替えて待ってるんですよ。「あとどのくらい」って判断がぜんぜんできない。逆に差し迫っているのに準備をしなかったり。生活時間のなかで「あとどのくらいか」という感覚がなくなっちゃうんですね。 ○ふーん……。そういうのがあるんですね。なるほど、時間の感覚ですか……。 ■ええ、だから、時間っていうのは、頭頂葉が関わっているのは確かですね。で、fMRIの結果を見ると空間情報と時間情報がインタラクションしているのも確かだろうと。 ○関係ないわけではないということですね。
○意識の問題との関係なんですが、僕らは、時間というものを感じずには生きられないじゃないですか。 ■僕は時計持ってないですけどね(笑)。 ○そういうことじゃなくて(笑)。「時間の感覚がない」っていう状態が想像できないじゃないですか。 ■でも、知らない間に時間経っていたことはあるでしょ? ○それはありますが、たとえば、そうですね、ロボットみたいな状態というか。なんて言えばいいんでしょうか。ロボットの場合は、制御するときには時間0からはじめて、経過時間Tに応じてタスクを振っていくわけですよね。でも彼らには「連続した現在」があるだけで、「時間が経過していく、流れていく」という知覚は当然のことながら、ないですよね。ダイナミクスだから前の時間にやっていたことが次の時間に影響することは計算していても……。 ■(笑)。
○人間はむしろ逆なのかな、と思うんです。たとえば腕を伸ばしているときのことを考えてみると、ロボットだと1/1000秒単位で区切られた制御周期単位で、制御しているだけですよね。 ■ああ、そういう意味か。だからコンピュータのなかの元クロックみたいなものがあって、それが全てのところで時間の要素として使われているのかどうかということですか。 ○うん、それも含めてですが、そもそも「時間の感覚」があることの意義って何なんだろうか、と思うんです。ロボットの話を聞いてると漠然と思うんですが、そこが、生物とロボットというか機械の根本的な差なんじゃないかなあと思ったりするんですよ。それは空想ですが、あるいは、時間感覚の進化的な側面とか……。 ■それは分かりませんね。 ○人間の意識にのぼる時間分解能ってすごく低いみたいですね。 ■そこをちゃんと測った人がいるかどうか、僕は知らないなあ。 ○先日、NTTの柏野先生と喋っていたときに、柏野先生がパンと手を叩いたんです。で、いま僕がいつ手を叩いたのか、ちゃんとは分からないでしょ、って言ったんです。でも手を叩いたことは分かっているし、言葉のほうも聞き取れている。だから分かっているはずなんだけど、正確にどの言葉のところで手を叩いたのか、意識化することはできない。そのへんはどうしてなんだろうと。 ■なるほど。それは処理系列が違っているということかもしれないですね。 ○その程度の時間分解能しかないのに、なんでこんなに実空間で、リアルタイム制御でちゃんと動けるのか。もちろん意識にのぼってない部分ではもっと時間分解能は高いのかもしれませんが、じゃあどうして意識にのぼる時間分解能が低いのはどうしてなんだろうと思っちゃうんですよ。特にロボットの人たちの話を聞いたあとだと、ものすごく不思議に感じるんです。ロボットはギチギチにやっていてもぜんぜん間に合わないって感じなのに……。 ■うん、でもそれはロボットの制御系やプログラミングの制限の問題がありますからね。 ○そういうことなのか、人間はぜんぜん違うことをしているのか、ですね。 ■そうですね。ヒトはパラレル・プロセッシングして、うまくやっているのかもしれない。 ○そのへんでロボットの先生たちでも2派、今のままでどんどんやってればそのうち生物に勝てるって人たちと、今のものとは違うやり方が必要だという人たちに別れるのかなあという感じがします。
■そうみたいですね。こないだ工学系の人たちと話をして、それはそう思いましたよ。
○話を元に戻して、先生のfMRIの仕事っていうのはどんなものなんですか。 ■3Dに関しては論文になってるんですけどね。陰影で凹凸って分かりますよね。ヒトは上から光が来ているという思いこみがあって、それで凹凸を判断している。 ○はい。
■その陰影で凹凸を判断しているのはどこか、という仕事が一つあります。それはやっぱり頭頂葉で、ランダムドットステレオグラムを見せて活動する領域がやっぱり活動しますと。 ○学習サポートの研究ですか? ■うーんまあそうです。。それとか、あとは高齢者のfMRIとかね。高齢者の脳は決して働かないわけではないですよ、とか。 ○高齢者ですか。それは、どういう実験なんですか? ■前頭葉機能と絡めた話ですが、高齢になると物覚えが悪くなるとか、反応が鈍くなるじゃないですか。そうすると、一番考えやすいのは、年とともに脳の神経細胞がどんどん死んでいってるわけだから、若い人と同じことをやらせたときに脳があまり働かなくなってるからそういう現象が出るんだろうと。 ○はい。 ■ところが、調べてみるとそんなことはなくてね。健常な高齢者の脳だと、若いヒトなんかよりもむしろ活発に脳が働いてるんですよね。 ○そうなんですか? なのになんで反応が遅れるんですか? ■そこがちょっと面白いところで、これはあくまで仮説なんですが、さっきも言ったとおり、脳っていうのはうまく働くとあまり活動しないんですよ。要するに経済性を追求するわけです。 ○じゃあ、たとえば抑制系がうまく働かなくなってきているとか? ■そうそう、そんな感じ。若い人と同じことやらせると、課題の正答率は変わらないんですよ。でも、ボタン押しのリアクションタイムが全然違うんです。 ○へー、どんなふうに? ■高齢者のほうがずっと長い。あとから高齢者の方に話を聞くと、その課題では右と左の二つの押しボタンを使ったんですが、どっちのボタンだろって混乱しちゃう。若い人は全然悩まなくてパンパンと行くんだけれど高齢者はそうはいかない。僕は「脳が混乱している」という言い方をしてるんですけど、高齢者の脳は活発に働くけれどスマートにスッといかないという感じです。 ○なるほどなるほど。無駄な動きをする? ■そう。だからね、活動の中心は若い人とあんまり変わらないんですよ。ピークの位置は変わらない。だけどその裾野がね、ブワーッと広がってる感じです。 ○ほう。それは生理的にはどういうことなんでしょうか。レセプターの数が減ってるとか? ■それは分からない。そういうこともあるでしょうね。機能画像じゃなくて構造的な画像を見るとやっぱり健常な高齢者でも脳室は拡大しているし、前頭葉もある程度萎縮しているわけですよね。そうすると、前頭葉の機能っていうのは無駄なことをさせない、抑制させるっていうのがすごく重要だから、それがうまくいかなくなる。要するにオーケストラの指揮者がいなくなったような状態を現しているのかもしれない。 ○なるほどー。 ■あるいは萎縮が起こっていると言うことは、その領域の抑制性の細胞が死んじゃって局所的な抑制回路がはたらかなくなっているのかもしれません。そのへんは分からない。でも現象としてはたいていそうなんですよ。無駄に働いてるんですよ。
○無駄に働いてるんですか。 ○次号へ続く…。
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