NetScience Interview Mail
2003/05/08 Vol.230
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【大和雅之(やまと・まさゆき)東京女子医科大学・先端生命医科学研究所】

 研究:組織工学・ナノティッシュエンジニアリング
 著書:図解ナノテクノロジ−のすべて, 工業調査会(2001),
    化学フロンティア(3),化学同人 (2001),
    現代医学の基礎第14巻移植と人工臓器, 岩波書店, (2000)
    日経サイエンス2003年6月号ほか

○東京女子医科大学・先端生命医科学研究所の大和雅之さんのお話です。最近話題となっている、組織医工学(ティッシュ・エンジニアリング)や再生医学といった話題に関する先端をご紹介頂きます。なお、「日経サイエンス」の2003年6月号に、大和先生たちの研究が紹介されていますので、合わせてご覧頂けると分かりやすいかもしれません。(編集部)



前号から続く (第2回)

[03 : 「大網」ってどこ?]

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○ちなみにこの「大網」っていうのはどこの組織なんですか。

■おなかの中にあるんです。胃の下からエプロンみたいに腸の前に垂れ下がっています。

○おなかの中っていうのはどういう……。

■おなかの中に、腸とかおなかの筋肉とかが「癒着する」ってよく言うでしょう。癒着しないように守ってるような組織なんです。例えば卵巣腫瘍とかでオペすると、卵巣腫瘍っていうのは結構おなかの奧まで到達して手術するので、おなかの中を結構いじっちゃうんですね。そうすると、非常に高頻度に腸閉塞とか腸の癒着が起きます。それは胃や腸の表面を被ってセパレートしている大網を切除したり、腸の表面自身を傷付けるからなんです。
 実はこう組織の表面っていうのは、ちょっと専門的になっちゃうんだけど、中皮細胞っていう特殊な細胞がいて、組織同士の表面がくっついたりしないようにしてるんですね。こういう細胞が一過的にざくっといなくなると、すぐ癒着しちゃったり悪いことが起きやすいんですね。だから、女性で卵巣腫瘍を摘出された方は、腸閉塞を起こさないように漢方薬を飲んだりしてますね。

○なるほど。でも、じゃあ、なぜこの組織を張り付るとうまくいくんですか。

■これは単に血管を入れるためですね。で、これじゃなくても別にいいんですけど、これは、おなかの手術をするときには取っちゃうんですね。だからなくてもいいわけ。だけどないと、腸閉塞とかそういうのを起こしやすくなるんですね。だけど、起こしやすくなる頻度は100%じゃないから、取ってもいいじゃないかと。まあ、これはイヌの実験だしね。

○なるほど。

■再生医療・組織工学っていうのは現状ではまだまだ。まだまだ始まったばっかりなんです。

○ええ。

[04: 指の再生]

■その中で最もうまくいったと言っていいようなもののうちの一つとして、この先生がチャールズ・ヴァカンティ先生のお仕事があります。さっきのジョセフ・ヴァカンティ先生の実の弟さんです。全然顔は似ていないけど(笑)。
 これは、彼が『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』っていう医学界では最も権威がある雑誌に載せた論文なんですけど、この患者さん、親指の先に怪我をしてとれちゃうのね、この先の部分が。それを、御本人のおなかの皮膚で再建したわけ。

○ああ。形成外科でそういうことができるそうですね。

■うん。ところがもう骨が入ってないから、ドアノブとか回せないわけですよ。

○ん? 指先に骨がないだけで?

■そうなんですよ。で、大ジョッキがもてないからビールも飲めないわけ。まあ、左手で飲めばいいんだけどさ。困るじゃない。で、この先生が「いい方法があるんだけどやってみない?」とか言うわけね。
 どういう方法かっていうと、これはサンゴですね。これは本物の親指の骨ですけど、サンゴを本物みたいな形に削るわけですね。このサンゴ製のスキャホールドに、腸骨っていうんですけど、ここの腰の骨から細胞を取ってきて培養して増やした後に播種して親指に移植したんですね。

○自分の細胞を?

■自分のです。そうするとこう、くっついてますね。それで、しばらくして何週間かすると力が出せるようになっていて、一応、ビールも飲めるしドアノブも回せると、こういう症例なんですね。

○そんなこと本当にできるんですか。すごいなあ。

■噂では、彼がこれをやったときにFDAの認可を取ってなかったらしいんです。日本ではこういう臨床をやる時に小規模であれば厚労省の認可はいらないんですが、アメリカはFDAの認可を取らないとダメなんです。FDAって日本でいうと厚労相(厚生労働省)ね。

○これは傷害罪とかになっちゃうわけですか。そういうわけじゃなくて? どうなるんですかね。

■そういう傷害罪には当たらないと思うけど、研究室を閉鎖しろっていう命令が出たそうですよ。で、彼は3か月ラボを閉めたの。だけど、一説によると彼は全部知っててやったっていう話があって(笑)。

○まあ、いいかなっていうことですか。

■まあ、いいかなということで。日本はね、薬事法っていうのがあるんですよ。薬事法の規定の中に薬事法の守備範囲を規定している部分があるんですけど、その中で、お医者さんが自分の病院の中で自分で操作して何かやるときには薬事法の外になるんですね。だから、自分で薬をつくって患者に飲ませてもいいし、自分でこういうものを作ってやってもいいわけ。法律が違うんですね。

○なるほど。

■さらにこの先の仕事で現在は近畿大医学部にいらっしゃる磯貝先生がヴァカンティのところに留学しておられた時にされた仕事があります。指ってこう3セグメントあるじゃないですか。この3セグメントを全部作るっていうのをされました。

○それ、関節とかあるんですか、ちゃんと。

■ちゃんとね、こう骨があるでしょう、ここに関節があるでしょう。ここに腱があるのね。一応、それっぽい構造ができてるようなものができました。だけど、神経も筋肉もないから動くわけじゃありません。骨の骨格のところだけできたっていうのがもう論文になってます。

○へえ。それが人間にくっつくんですか。

■それはネズミの背中でやった仕事なので、人間にはやっていません。

○ああ……。そう言われると、それは確かになんかどこかで見たような。

■ええ、よく見ると思います。

[05 : 実際の組織・器官との大きなギャップ]

■だけどね、こういうので成功例とか、まあ、大して成功してないとか言いながらも、1980年代後半からこういういろんな概念が出てきて、軟骨とか骨とか血管とか皮膚とか膀胱とかができたわけですね。
 だけど、こういうのってね、それこそ内科の先生的にはひどく御不満なわけです。

次号へ続く…。

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◇毎日 米IBM、カーボンナノチューブで世界最小の発光素子開発
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http://www.mainichi.co.jp/digital/coverstory/archive/200304/25/1.html

◇日経 触って操作する「水晶玉」の情報端末、日立が開発
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◇東京新聞 大人になったらなりたい職業 男の子一位は「学者・博士」
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◇東京新聞 中央防災会議が地震被害想定公表 同時発生の可能性も 東海190万人、東南海・南海440万人が避難
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sci/20030429/ftu_____sci_____000.shtml

◇河北新報 地球の自転、速くなった 30年前より400分の1秒
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◇ZAKZAK 「ケータイで支払いOK」…、実験進行中 ICカードにクレジットカード機能
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◇ZDNet 「ロボットに敬礼させたい」――SOK、警備ロボット開発ストーリー
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http://www.nasda.go.jp/lib/nasda-news/2003/05/hito_j.html

◇国立天文台 火星ジャーナル
http://www.nao.ac.jp/pio/mars2003/MarsTop.html

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NetScience Interview Mail Vol.230 2002/05/08発行 (配信数:24,925 部)
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