『日経サイエンス』掲載・森山和道の読書日記・98年10月号

〜科学技術立国の技術を巡る状況〜

 今月はちょっと視点を変えて技術系の本を選んでみた。

 小学校高学年〜高校生向けとなっているが大人も十分楽しいのが『夢をかなえるエンジニア』。5人のエンジニアが登場し、自分の仕事と夢を語る。

 中でもやはり一番面白かったのは、ホンダの2足歩行ロボットの開発者、広瀬真人氏へのインタビュー。入社初日に「アトムをつくってみないか?」と言われ、2日目にアンドロイドの漫画を描き、3日目には社長に叱りとばされたという話は(技術には全く関係ないが)抱腹絶倒。どういうわけかホンダはあまりマスコミのインタビューを受け付けてくれないので、こうしてある程度まとまった形で読める本は貴重である。

 もちろん、その他の技術者─宇宙ステーション、FCEV、CDやMD、飛行機のエンジン整備─へのインタビューも面白い。何にでも興味を持ち「できる」という信念を持つことが重要、という言葉は、研究者のみならず普遍的な重みを持った言葉ではなかろうか。

 飛行機はエンジン整備も大変だが、操縦ミスによる事故も多い。『ハイテク機はなぜ落ちるか』はコンピュータ化の問題点を指摘する一冊。著者はコンピュータ化そのものを問題にしているのではない。人間─機械系としての視点を忘れた自動化を問題にしているのである。

 本書によれば、過度に進んだ自動化とそれを使うように押しつける教育の結果、パイロットは「飛行に必要な情報を機械系から与えられたものだけに頼り、視界などの外部ソースを活用した基本的なナビゲーションを行わなくなった」という。その結果「航空機と地面との関係についての知覚と認識を失い、乗機が危険な状態に陥っても、気がつかなくなった」のが、事故へと直結していると説く。人間の弱さをサポートするはずの技術が、弱さを増強してしまったのだ。

 昔書かれた他の航空評論家たちの本も読み直してみると、この指摘は10年前から全く変わっていないことに気づく。違う点は、より人間が機械と密接な関係を持ちつつあるということくらいだ。人と機械がぶつかる場として、ハイテク事故機のコックピットは象徴的だ。飛行機だけに留まらない、<人間─機械>系全般において見られる問題点、あるいはそのシステムのデザインを示差する本でもある。

 機械に頼り、機械の恩恵を受け、機械に悩まされる現代。事故は予想外に起こるから「事故」と呼ばれる。ある程度の事故は必ず起こる。現代は、そのリスクを取っているのだ。とにかく今は、こういう時代なのである。日々大量の特許が獲得され、シャトルが宇宙を飛び、重油が流出し、犯罪集団が毒ガスを作り、環境ホルモンの危険性が叫ばれる時代だ。

 現代への視点を鍛えるための一冊として『ニュースの裏には「科学」がいっぱい』を挙げよう。お気楽なタイトルとはちょいと違う、歯ごたえのある21の科学技術エッセイである。

 上っ面しかなでられなかったシャトルの宇宙実験。国産開発を阻む外圧にやたら弱い政治家たち。科学者達はオウム事件の時、どのような声を上げるべきだったのか。ニュースには一体どんな背景があり、どう読むべきだったのか。科学の視点でニュースを鋭く分析し、返す刀でマスコミを叩き斬る。納得できる内容は思わず頷けるものばかりだった。

 今日、科学を知ればニュースが分かる、というより科学を知らねばニュースを解くことはできない。だが「科学」は政治経済の動向や社会事件とは全く違うものように扱われている。浮き世離れした、まるで別世界での営みのように。ところがこの国は「科学技術立国」を自称している。

 人の営みが無関係であるはずがない。全ては一つのシステムを織りなしている。

もりやま・かずみち
サイエンスライター


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