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『日経サイエンス』掲載・森山和道の読書日記・99年7月号

〜香り、匂い、植物、昆虫〜

 花の香りは心を和ませる。アロマテラピーが流行する理由も分かるような気がする。メカニズムははっきりしないが、たしかに何がしかの効果はあるようだ。

 香り、匂い刺激はわれわれの心に影響を与え、気分や行動を変化させる。最近は、体臭と行動の関係なども研究されている。その一方、気分や行動そのものが、匂いの知覚に大きく影響していることもよく知られている。つまり匂い物質の量と知覚は一対一では対応しないのだ。実に不思議である。

 『におい 秘密の誘惑者』はそんな不思議の世界を紹介してくれる一冊。嗅覚器の構造から文化史、心理的影響、嗅覚障害、さらにアロマテラピーまで、においに関する科学的な内容とエッセイ的な内容が入り交じった本である。どんな興味を持つ読者でも、本書のどこかには面白いと感じるところを見つけられることだろう。

 実際に匂いはどのように知覚されているのだろうか。におい分子に結合するタンパクは発見されているし、少しは機序も分かってきた。だが現状では混合臭のメカニズムも説明できないし、においの感受性変動の仕組みも分かっていない。詳しいメカニズムは結局分からない、というのが現状であるようだ。今後の研究に期待したい。

 香りといえばやはり花だ。もちろん、花の香りは人間のためにあるわけではない。では元々は、一体なんのためにあるのだろうか。主として生物学、生態学的なアプローチの成果が紹介されている研究レビュー集『花の自然史』には、一つの考え方が呈示されている。本来は食害の際の忌避物質として放出されていたものが、やがて昆虫にとって食場を示す化学シグナルとなっていき、さらにそれが花粉の送受粉に関与するようになっていったのではないか、というのである。忌避物質が逆に誘因シグナルとなっていったという考え方は、なるほど非常に面白い。真相を明らかにするのはなかなか難しそうだが、本書ではモクレンなどを素材として研究が紹介される。

 本書ではこのほか、色、形、香り、咲く、と題された4部に分けられて研究が紹介される。古生物の視点がないのが残念だが、どの部も研究者たち自身によるレビューが集められており、ユニークで面白い話が満載。

 植物といえば動かぬもの、というのが一般の認識だが、実際には開花を思いだして頂ければ分かるとおり、植物も動く。それどころか植物もわれわれ同様、一定のリズムを持っている。そこで、もう一つレビュー集を。『生物時計の分子生物学』は、タイトルそのまま、進展著しい生物時計研究の現状を伺える本だ。時計遺伝子研究の現状、メラトニン、単細胞生物の時計、各種動物の生物時計を抱える器官の働きなどを解説。生物時計、概日リズム研究の研究成果を伺える。次の課題に対してどうアプローチしていくべきか、そこもはっきり見えているようだ。乗り越えるべき課題は多いものの、入力、発振、出力という3つの機構の不思議が解き明かされる日もそう遠くないのかもしれない。

 最後に、植物とも関係の深い昆虫に関する本を。『昆虫の本棚』は固い本から柔らかい本まで、一冊丸ごと昆虫本ガイドブック。巻末には1300冊の書籍データを収録した目録まで付いている。95年までに刊行された昆虫本なら、ほとんど網羅されているのではなかろうか。めくるだけでも楽しい本である。

もりやま・かずみち
サイエンスライター


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