ワイアード1月号(3.01号「情報サブウェイ」)
掲載書評「自然の中に隠された数学


カオスの秘宝、生命のリズム


「私たちはパターンの織りなす宇宙に住む」。本書, 第一章・冒頭の言葉である。
 音符を使わずに音楽を記すのと同じくらい, 記号を使わずに数学を表現するのは難しい。だが, 著者は成功した。数学者の目で見た自然界を, 数式を使わずに伝えてくれる。
 なぜ, 自然界にはパターンがあるのだろうか。なぜ, 対称性は破れるのか。なぜ, 対称性の破れたところにパターンが現れるのか。そもそも, 対称性とは何か。こういった疑問に「数学者の見方」を通して明解に答える。やがて話は, カオスやフラクタル, 複雑系へと, 流れていく。「枝分かれした複雑性の巨大な樹木を通って単純さがいったんは崩れ, どういうわけか後に再び, 適切な規模において相対的に単純なパターンが見出される」のが自然現象である。
 著者は, 我々の宇宙のはたらきを理解するために「パターンをパターンとして」扱う「形学」なる学問を提唱する。多様性に逃げ込むことなく, 一様性に落とし込むことなく。これが現在の科学の, 一つのテーマであるらしい。
 なぜ, 数学者は宇宙の働きを理解したいと考えるのか。その頭脳の中に, 自然界を表現したいと考えているからではないだろうか。逆にいえば数学とは, 一つの宇宙を創り出すことなのだ。数学者の頭の中には宇宙がある。その宇宙には, この世界とは似ても似つかないものもあれば, この世界と寸分違わぬ事を目指している宇宙もある。それが, 数学の世界なのだろう。

words 森山和道

http://www.maths.warwick.ac.uk/(イアン・スチュアートが教鞭を執るウォーウィック大学数学科)
http://www.maths.warwick.ac.uk/maths/people/staff/ins.html(イアン・スチュアート)

自然の中に隠された数学
草思社(サイエンス・マスターズ5)
著:イアン・スチュアート
訳:吉永良正
1,800円(税込)
ISBN4-7942-0720-4


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