NetScience Interview Mail
2001/06/07 Vol.146
NetScience Interview Mail HOMEPAGE
http://www.moriyama.com/netscience/

NetScience Interview Mail : Free Science Mailzine
科学者インタビューを無料で配信中。今すぐご登録を!
電子メールアドレス(半角):
【その他提供中の情報】
| 新刊書籍情報 |
| イベント情報 |
| おすすめURL |
etc...


◆Person of This Week:

【安藤寿康(あんどう・じゅこう)@慶應義塾大学 文学部 助教授】

 研究:行動遺伝学
 著書:『遺伝と教育 人間行動遺伝学的アプローチ』風間書房
    『心はどのように遺伝するか』講談社ブルーバックス
    『ふたごの研究』共著、ブレーン出版
    そのほか

○行動遺伝学の研究者、安藤寿康さんにお話をお伺いします。
 遺伝と環境、その相互の関係はどのようなものなのか? 遺伝的であるとはどういう意味か? 安藤氏は、ある形質が遺伝的であるからといって、決まっているわけではないと言います。では「決まっている」とはどんな意味なのか? そのあたりを伺いました。(編集部)



前号から続く (第6回)

[15: 遺伝の法則に従った背後霊?]

○じゃあこれからは、御本で呈示されていたような心のモデルをどうブラッシュアップしていくかということですか。

■個別のレベルではさっき言ったワーキングメモリーとか事象関連電位とかとパーソナリティの関係、それの遺伝的な構造はどうなっているかを探っていくってことになりますね。当面はね。なんていうんでしょう、論文に書くことはそういうことです。

○神経回路へ行く一歩手前の段階を詰めていくと。

■そうですね。

○いま、レセプターのサブタイプの個人差とかがいろいろ出てるじゃないですか。それでしばしば、半ば冗談、半ば本気で言ってるんですけど、将来、「あなたはd5-h6-b8-c9....型です」とかって言われるようになるんじゃないかと。レセプターのサブタイプがバーッとリストされていて、あなたはだいたいこういうタイプです、と。それは自分のパーソナリティを紙の上で表現したものになるのかなあという気もしてるんですけども。いわば肝臓だとか膵臓だとかの調子が健康診断で出てくるみたいに。

■うん、調べることはできるでしょうけども、本当にそういう時代が来たならば、いまの血液型占いとそんなに変わらないような結果しか社会にはもたらさないと思いますね。つまり、そこそこ信じるけども、半分は「へっ?」って思いながら行動してると。だからそんなに深刻な事態にはならないでしょう。

○うん、僕もそう思うんですけどね。

■血液型や四柱推命よりは、ちょっとは当たる確率が高いかもしれませんけどね(笑)。でも占い師のほうが当たってるかもしれないじゃないですか。

○まあ、彼らは人間を読む技に長けてますからね。表現型を見てるし(笑)。

■中国何千年かの智恵が詰まってますからね(笑)。

○それこそ、ああいう占いでいうところのいくつかのタイプが遺伝子で特定できると面白いですけどね。まあ冗談ですが(笑)。

■うん(笑)。逆にいえばその程度のことだってことですよ。そういうことです。
 以前ね、ある哲学屋の人から言われたんですけども「安藤さん、遺伝子遺伝子っていうけどね、それって背後霊で説明するのとどう違うんですか」って言われて(笑)。うん、背後霊っていってもいいんですよ、って。ただその背後霊っていうのは、遺伝の法則に従った背後霊なんですよねって(笑)。

○(笑)。その程度のことなのに、なぜいろいろと嫌がる人がいるんでしょう。自分の遺伝子や、それに基づいて性格傾向を調べられることに。なぜ我々は、そこを探られることを嫌がるんでしょうか。

■遺伝子っていうのがね、なにか、今までに見たことがないすげーものだという思いこみがあるんじゃないでしょうかね。サムシンググレートとかね。そのイメージが強いのかも知れない。
 ある意味、確かにサムシングレートですよね。私も本で書きましたけども、いまゲノムが全部読み解けようとしているというのは、人類史上、最大の出来事だと思う。それでB.C.(Before Chromosome=染色体以前) A.D.(Anno DNA=DNAの御年)というのを考えたんですけど。これって感動しませんでした(笑)?

○いやー(笑)。

■この表現は絶対にうまいと思ったんだけど、誰も誉めてくれないんですよ(笑)。
 生命を司るものを、遺伝子、DNAっていうものを通じて人間が理解できるようになるっていうのはかなり画期的なことだと思うんです。でも、それ以上に人間が生み出してきた智恵っていうのは侮りがたいところがありますからね。そこを超えるかどうかは分からない。

○ふむ。

■だから、いま松原洋子さんや森岡正博さんや佐倉さんらと勉強会をやってて、こないだ出た話なんですけど、遺伝子がこれからいろいろ読み解かれることによって「人間が幸せであるってどういうこと?」とかですね、そういった、昔から説いてきたことに対して新しい答えが必要かというと、それはきっとそうじゃないと。

○そりゃそうでしょう。

■つまりある意味で、何が幸せかとかは、今まで議論してきたことで既に出尽くしている。人間ってそもどういう存在なのかとかはね。基本的な枠組みっていうのは既に検討されつくされていて、それが遺伝子っていう概念が出てきたいま、それで今まででてきたものをどう読み直していくということは必要かもしれないけど、根本的なところはそもそも変わらないと思うんです。そういう意味では、ジョン・ホーガンが『科学の終焉』っていったように、全て終わっているのかもしれない。

○なるほど。重箱の隅をつついて読みかえているだけじゃないかと。

■うん。ある意味ではね。

○確かに読み替えは読み替えなんでしょうけど、その読み替えが面白いって部分もあるわけでしょ。科学がもたらす知識が面白いって人もいるけども、ここからここまでは分かったけど、ここから先は分かりませんってこともあるわけだし。

■ええ。そうですね。

[16: 遺伝教育]

■最近は学校でも遺伝のこととか教えてないみたいですね。

○ええ。中学校でちゃんと遺伝のことを教えるってことはまずないし、高校でも生物とっている人は少なくなっていってますから。メンデルって名前は知ってるかもしれないけど、減数分裂ってなんのこと、って人も増えてますよ。
 だから僕らみたいな人間が一般向けの原稿を書くときもややこしいんですよ。行動っていうものが、神経の働きに端を発するということが了解できていないことが圧倒的に多いので…。

■そうですか。霊魂みたいなものが動かしているとか(笑)?

○それはどうか知りませんが、霊魂があると思っている人は多いかもしれませんね。科学な人たちには理解しがたいかもしれませんが、多いですよ。

[17: 社会構造と遺伝 〜社会行動遺伝学への挑戦〜]

■ためになる話はしなかったですね(笑)。

○いまやってることはなんですか、それはどんな問題意識からやってるんですか、問題点はなんですかといった定番的な質問はしませんでしたからね(笑)。まあ、そこは本を読んで下さいということで(笑)。

■私はあの図のことを質問してくれたのが嬉しかったですね。一番自分がオリジナルだと思っている図なんですよ。誰も言ってないし、理解してくれないんだけど、本当にこういうことがあるんじゃないかと。つまり、いっぱい色んな要因があると、そこでふっと何かが現れてくる。

○うーん、僕はそこがよく分かんないんですよね。特異的不動点みたいなものがあるんじゃないかという考え方そのものは非常に魅力的だなと思ったんですけども、いっぽうで、じゃ、これは具体的に何なんだろう、ということが気になっちゃった。

■じゃあそれをお見せしましょう。双子の似ている行動を示すビデオがあるんです。一昨年、「たけしの万物創世記」(TV朝日、番組そのものは終了)で、双子でなにかやりたいんだけど、という話があったんです。

○ああ、やってましたね。番組は見ました。

■そこで僕は、前からやりたかったんだけど自分ではお金も技術もなくてできなかったことをやろうと提案したんです。

○それは?

■まず双子をいっぱい集めます。そして、その双子のペアを全く別々にして、長期間共同生活させると、どうなるか。
 一人一人の行動が似てるということは、社会のなかでの行動が似ているということですね。だから社会関係が同じような社会が出てくるのではないかと。だからほっとくと同じ文化が出て来るんじゃないかと思ったんです。

○ふむふむ。

■結局、文化とか制度とかって言われているものも、ある程度は遺伝の影響を受けているということを本当に実証できないだろうかと考えたわけです。頭のなかでは「社会行動遺伝学」と呼んでいるんですけどね、まだ絵に描いた餅ですが。

○ほう。SFみたいですね。

■ええ、SFにあるらしいですね、そういうのが。
 ただ、それを実験するためには長期間大勢を集めないといけない。しかもずっとビデオを撮りっぱなしにしないといけないでしょ。何がどこで起ころうか分からないから。そしたらTVがそれをやってくれるっていうんでね。

○なるほど。

[18: 双子の行動と社会状況]

■で、実際やってくれた映像があるんですが(以下、ビデオを見ながらのやりとり)、これ、朝、新宿で集まって、これから富士五湖に行くバスのなかなんです。だから会ってまだ一時間経ってないところで、自己紹介が終わったばかり。そして何かゲームしようよ、っていうところです。
 一人の女の子を見ていて下さいね。

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■新刊書籍・雑誌:
◇文一総合出版の雑誌「バーダー」 初の生態学的特集!「川に育まれる森と鳥」7月号
 
http://www.bun-ichi.co.jp/birder/birder.html

◇オンライン書店ビーケーワン 科学書売場 週間ランキング(5/28〜6/3)
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_top.cgi?tpl=dir/01/01080000_0025_0000000042.tpl

◇裳華房 自然科学系の雑誌一覧−最新号の特集等タイトルとリンク−
http://www.shokabo.co.jp/magazine/

■イベント:
◇名古屋大学生物分子応答研究センター”第8回公開実験講座・2001”バイオサイエンスを体験する
http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~nubs/shakai.html

■ U R L :
◇ほっ、ほっ、ホ〜タル来い!@nifty
http://www.nifty.com/hotaru/

◇CNN。 NASA極超音速飛行の実験失敗
http://cnn.co.jp/2001/TECH/06/03/nasa.supersonicflight/

◇AstroArts 長谷田さん、新星の可能性のある変光星を発見
http://www.astroarts.co.jp/news/2001/05/31vsolj061/index-j.shtml

◇宇宙研 金星大気探査計画
http://www.ted.isas.ac.jp/~venus/

◇金色の銀河
http://www.cnn.com/2001/TECH/space/05/31/hubble.gold.galaxy.reut/index.html

◇Woman's Medi Navi 女性による女性のための医療と健康の情報サイト
http://www.e-medinavi.com/

◇厚生労働省医薬局食品保健部 遺伝子組換え食品ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/index.html

◇かっぱえびせん公式ホームページ・リニューアル
http://www.kappaebisen.com/

◇理化学研究所
 孤発性アルツハイマー病の原因解明に大きく前進 − 分解酵素の低下がアミロイド蓄積を促進することを実証 −
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2001/010521/index.html

◇Kaden魂 ロボットは人を癒せるか? http://www.smilennium.co.jp/kaden/robot/index.html

◇岡山理科大学 総合情報学部 地震危険予知プロジェクト
http://www.pisco.ous.ac.jp/

◇スペースパーソンNo.42 「0.5秒間に何が起こったのか/ロケット再起をかけたH-II8号機の事故原因究明
 ─宇宙開発事業団 宇宙輸送推進部 岡田 匡史─
http://spaceboy.nasda.go.jp/spacef/sp/j/spacep_j.html

◇科学技術者のための総合リソースガイド・NetScience
  http://www.netscience.ne.jp/

 *ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


NetScience Interview Mail Vol.146 2001/06/07発行 (配信数:25,344 部)
発行人:株式会社サイネックス ネットサイエンス事業部【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス】
編集人:森山和道【フリーライター】
interview@netscience.ne.jp
moriyama@moriyama.com
ホームページ:http://www.moriyama.com/netscience/
*本誌に関するご意見・お問い合わせはmoriyama@moriyama.comまでお寄せ下さい。
◆このメールニュースは、
◆<科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス>
◆[http://www.netscience.ne.jp/] の提供で運営されています。

○当メールニュースでは、科学に関連するイベントの一行告知、研究室URL紹介などもやっていきたいと考えています。情報をお寄せ下さい。
本メールニュースの発行は、インターネットの本屋さん・まぐまぐを使って行われています。
メール配信先の変更、配信の中止は、以下のWWWサーバーで行って下さい。
 http://www.moriyama.com/netscience/
原則として手作業による変更、中止は行っておりません。
なお、複数による閲覧が可能なアドレス(メーリングリストなど)での登録はご遠慮下さい。
必要な場合には、発行人までその旨ご連絡下さい。
(配信先変更の場合は、現アドレスをいったん削除の上、新規にアドレスをご登録ください)