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2001/06/14 Vol.147
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【安藤寿康(あんどう・じゅこう)@慶應義塾大学 文学部 助教授】

 研究:行動遺伝学
 著書:『遺伝と教育 人間行動遺伝学的アプローチ』風間書房
    『心はどのように遺伝するか』講談社ブルーバックス
    『ふたごの研究』共著、ブレーン出版
    そのほか

○行動遺伝学の研究者、安藤寿康さんにお話をお伺いします。
 遺伝と環境、その相互の関係はどのようなものなのか? 遺伝的であるとはどういう意味か? 安藤氏は、ある形質が遺伝的であるからといって、決まっているわけではないと言います。では「決まっている」とはどんな意味なのか? そのあたりを伺いました。(編集部)



前号から続く (第7回)

[18: 双子の行動と社会状況]

■で、実際やってくれた映像があるんですが(以下、ビデオを見ながらのやりとり)、これ、朝、新宿で集まって、これから富士五湖に行くバスのなかなんです。だから会ってまだ一時間経ってないところで、自己紹介が終わったばかり。そして何かゲームしようよ、っていうところです。
 一人の女の子を見ていて下さいね。ゲームの順番が、と誰かが言い出したとき、率先して場を仕切って、指差して「1,2,3,4、、、と」いきなり順番を決めちゃったでしょ。他の子はまだおとなしいんですけどね。この子が年齢は一番下なんですけどね。
 で、ちょうどその頃、もう一つの組みでも同じ様なシチュエーションになってましてね、やっぱり仕切ってるわけです。

○ふむふむ。

■やってること一つ一つは違うわけです。片方は誰かが順番決めようよといったのに応じてやっているのに対して、もう片方は自分から率先してやっている。だから狭い意味では違う。でも、行動として、心理学的に何か共通する成分っていうのがきっと関わっている。

○ふむ。

■これは非常に単発的な例でしょ、こんなの双子じゃなくても別のところから探し出してこれるだろ、と思われると思うので、別の子の例を見せましょう。
 3日目の夜、みんなでバーベキューをやるっていうので、みんなで食材を大きなスーパーマーケットに買いに行く、というシチュエーションです。
 みんなで協力して買ってるんですが、一人だけみんなから離れて、別の方へ行って、自分の財布からお金を出して、買い物をしちゃう。スナック菓子を二つ買う。そのおまけの野球のカードが欲しいんですね。他の子は団体行動だから「そんなことしていいの」って感じなんだけど、この子は一人だけ悪びれもしない。さらに調子にのって、もう一回買いに戻る。都合三回買いに行っちゃうんですね。
 いま、レジに並ぶときに、すっと左側のレジに並ぶようなそぶりをしてから右側のレジに並んだでしょ。その動きも覚えておいて下さいね。

○ええ。

■こういう行動をした。この一時間後に、この子の片割れが、やっぱりスーパーにみんなで買い物に行ったときに同じ様な行動をします。
 みんなは買い物に行っているのに、すっと一人だけみんなから離れていく。ただ、前の子と違うのは、買うものが最初から決まっていたことですね。でも他の子に言われても、やっぱり悪びれもしない(笑)。そして同じように、すっと左側のレジに並ぶようなそぶりをしてから右側のレジに並ぶと。で、この並んだレジは双子の兄弟と同じ所なんですね(笑)。

○なるほど。
 ああいうところですよね、僕らが「双子って似てるよね」ってふだん言ってるのは。ああいう何気ない行動が、妙に、おかしいくらい似ていることがある。それは何なのか。

■そう。何気ない行動なんですよね。で、この子も、いったんレジに並んだあと、また戻って、同じモノをもう一回買う。ここも同じ。

○ふむ。

■集団からすっと離れて、自分のものを買う。しかも同じモノを繰り返し買う。7,8分の一連のエピソードなんですけど、それがほとんど同じなんですよね。

○うん、僕がいま拝見してて思うのは、同じ一人のキャラクターが、違うロールプレイングゲームをやっているように見えます。

■そうそう。まさにそうなんですよ。

○で、じゃあ、そのキャラクターっていうのはゲノムなの、っていうと、それもまたどうだろうっていう感じがしますよね。

■うん、それこそがまさにゲノムの意味論なんですよ。これを説明するときに、もちろん同じ家庭環境で育ってきたってことも考えられるけど、この場合ね、無駄な買い物をするっていう行動、少なくとも誉められて強化されるようなものじゃないでしょ。なのにこういう行動をやるっていうのは単純に学習したっていうものじゃないし、この二人が共通してやっているということは、やっぱり遺伝的なものが関わっている可能性が高い。

○ゲノムの発現状況がだいたい同じ様な感じだということでしょうか。その結果としての神経回路も。将来的には、それが特定されていくようなことになるんでしょうか。

■神経回路網だけの話ではなくて、「この」社会状況ということも考えないといけないでしょう。つまり、頭の中だけに行動があるわけではない、脳のなかだけに行動があるわけではない。そういう意味で、この双子の類似性っていうのは、彼らの頭の類似性+これまでの社会の履歴の類似性が全部あわさっているわけです。

○ええ。

■でもとにかく特異なこの二組が別の子と違ってここでこういうことをやったっていうことは、遺伝的同一性ってことをヌキにして語ることはできないということです。

[19: 遺伝子、ゲノム、全体が生み出す「あるかたち」]

○何か似たものがあると。じゃあその実体は何なんでしょうか。そういう類似性がどうして発生するんだろうか。いまは取りあえず遺伝子っていう便利なものがあるんで、遺伝子のせいにしてるけども…。

■ええ。見れば分かるけどもこういう行動は単一の遺伝子によるものではない。ある限られた、だけど有限の数の遺伝子セットでもないと思うんですよね。

○どういう意味ですか?

■うん、僕は遺伝子全体が生み出している、「あるかたち」、だと思っているんです。

○なんとなく仰りたい意味は分かるんですけども…。発現状況だとか神経回路や外からの刺激とか、全てを含んだ1セットですよね。

■ええ、だけどそこに関わっているのは遺伝子たちが与えているものであって、それは社会科学者たちがいう歴史だとか文化だとかだけではない。で、それを表す概念ってないんですよ。

○うん。なんとなく分かりますけどね。遺伝子っていう言葉のイメージすら人によって違いますよね。DNA=設計図という言い方があまりに定着しちゃってるせいなのか、DNAがしょっちゅうほどけたりねじれたりしているダイナミックなものだというイメージは、ほとんどの人にない。中村桂子さんらはよく<ゲノム>という言い方をしますが、あれは多分、非常にダイナミックなものをイメージして仰っている。そのイメージがゼロなんですよ。そのへん。そういうイメージがね。

■そうですね。生きて働いて、働きながらぼろぼろと色々なことを表現してくれて、表現のスタイルっていうのは状況によって変わるんだけども、変わり方っていうのは遺伝子が持っている「顔」が、表情を変えて出ているんですよね。

○うん。

■ていうことを表現するときに、どういう言葉を使えばいいのか。「遺伝子」っていう言葉だとなんか中途半端だし、「素質」っていうのとも違うし。「ゲノム」っていうのは全体を表す言葉ではあるんだけど、それにもなんか動きがないんですよね。

○ええ。業界の人にしか伝わらないでしょうね。だからみんな「遺伝子のシンフォニー」だとか言って誤魔化すんですよ(笑)。

■音楽だと多少は動きが表現されるかもしれませんね(笑)。

○でも音楽もねえ…。音楽って、音楽をやっている人にとっては、ポーンと一つの音が鳴ったあと、その残響も含めて、次の音がそこに重なって、シンフォニーができてるっていうイメージがあるでしょ。でも、音楽やってない僕みたいな人間だと、楽譜みたいなイメージで、それこそ1ステップ1ステップで区切られている感じがしちゃうんですよね(笑)。時間的履歴があるようでないイメージになっちゃうところが気になりますね。
 ま、これはそれこそ「言い方」の問題でしかありませんが。

■でも、言い方が物事をかなり規定しちゃいますから(笑)。しかも誰が何を言ったか、それが社会でどう使われるかっていうことが、それが取りも直さず、科学がいかに社会で使われるかっていうことそのものですから。

○そうでしょうね。慶応大学の先生が「心は遺伝子で決まっている」なんていうと、それこそね…(笑)。

■そう、「決まっている」なんて言ってない、影響はしてるけど決まってないって言ってるのにね。

[20: 双子の行動 カラオケ合コンの場合]

■これは3日間くらいの実験だったんだけど、ビデオは、「たけしの万物創世記」のなかではあまり使われなかったんですけどね。
 そのあとで、TBSの「回復スパスパ人間学」で双子をやったのはご覧になりました?

○いえ、見てないです。

■そっちが結構面白くてね(笑)。やっぱり似たような実験だったんだけど。ただし、そんなに長い時間じゃなくて、2時間か3時間くらいの合コンだったんですよ。

○ははあ、なるほど。

■全く同じ部屋を作って、カラオケってやる奴だったんだけどね。2卵性の双子と1 卵性の双子をそれぞれ集めて、そのなかでどういう行動が起こるかと。
 やっぱり一卵性のほうはね、全体の進行がシンクロしてるんですよ(笑)。一人一人の役割も同じだしね。ホステス的に世話してる女の子がいれば、もう片方の部屋でもそうだし、ただ黙ってひたすらムシャムシャ食ってる奴の相方はやっぱり食ってるしね。歌のノリとかも似ていて、なかには選んだ曲も同じなら、間違い方まで同じっていうのもありました(笑)。

○へー(笑)。

■ところが2卵生は雰囲気が全く変わってしまっていて、一方は盛り上がったけど、もう一方はいま一つで、座っている場所とか配置とかも違っていたんです。

○うん、なるほどね。
 それはまさに、僕らが日常的に知っている双子の面白さですよね。それだとやっぱり、心は「どこまで」遺伝するのか、って気がしちゃうんですけど。

■しちゃいますか?

○え、しませんか? やっぱり、かなり遺伝してるんじゃん、って思っちゃうんですけど。

■うん、だからかなり遺伝なんですよ。我々は、別々に育った双子がいないから気が付いていないだけで、やってることはかなり遺伝的なのかもしれない。

○なるほど。自分の双子がもしいれば、同じ様な考え方をしているのかもしれない。同じことをやっているってことは少ないでしょうが、社会のなかでは比較的同じ様な役割を果たしているのかもしれない。

■うん。

○それだとやっぱり、どこまで? 8割くらい?とかって言いたくなりますよねー。

■(笑)。

○そこらへんがすっきりしないんですよね……。

■不満ですか(笑)。

○いや、不満というかなんというか……。

■まあそうなんですけどね、それをどう語るかが問題なんですよ。たとえば○割遺伝です、って言っちゃうわけにはいきませんからね。

○居酒屋トークじゃないですからね。

■うん。社会的な行動っていうのはすごく規定性を受けるけども…。社会的じゃない行動ってなんでしょうね(笑)?

○(笑)。

■そこがね。そういう具体的な部分でどう出てくるかっていうことは研究されてないんですよ。たとえばいま番組のなかでやったようなことは、行動遺伝学者は誰もやってないですから。科研費を取ってちゃんとやりたいですよね。本当に、集団のなかでどういうことが起こるか。
 そうすると、本当の意味で、遺伝によって規定されているところと、遺伝を超えて文化だと言えるところ、つまり同じ遺伝的素質を持った人たちが、なにか大きなイベントが一方だけに起こると、社会構造がガラッと変わっちゃったりだとか、社会のなかでの役割がガラッと変わっちゃうと、それは、遺伝ではない、と言えるじゃないですか。ここから先は文化だと言っちゃってもいいと思うんですよね。社会科学者が言いたがるような、遺伝を超えた文化ってことも、ちゃんと示すことができると思うし。

○なるほど。

■そういうことをやると、もうちょっと具体的なレベルで、自分の行動っていうのが、社会のなかでどの程度遺伝によるものなのか、それが社会をどう形作っているのか、けっこう具体的に言えるようになるんじゃないかなと思うんですね。

[21: 似ている行動と、心の働き]

○一方でね、いまVTRを見ながら考えてたんですけど。いまインタビュー・メールでロボットの話やってるんですね。2足歩行ロボットの話。この子たちに、体中にセンサーをつけて様々な状況の中での歩行周期とか取って、全く同じだったら面白いですね。

■それはね、やってみたいんですよね。たぶん、かなりはっきり出るんじゃないかと思いますよ。

次号へ続く…。

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NetScience Interview Mail Vol.147 2001/06/14発行 (配信数:25,417 部)
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