NetScience Interview Mail
2001/06/21 Vol.148
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【安藤寿康(あんどう・じゅこう)@慶應義塾大学 文学部 助教授】

 研究:行動遺伝学
 著書:『遺伝と教育 人間行動遺伝学的アプローチ』風間書房
    『心はどのように遺伝するか』講談社ブルーバックス
    『ふたごの研究』共著、ブレーン出版
    そのほか

○行動遺伝学の研究者、安藤寿康さんにお話をお伺いします。
 遺伝と環境、その相互の関係はどのようなものなのか? 遺伝的であるとはどういう意味か? 安藤氏は、ある形質が遺伝的であるからといって、決まっているわけではないと言います。では「決まっている」とはどんな意味なのか? そのあたりを伺いました。(編集部)



前号から続く (第8回)

[21: 似ている行動と、心の働き]

○一方でね、いまVTRを見ながら考えてたんですけど、いまインタビュー・メールでロボットの話やってるんですね。2足歩行ロボットの話。 (註 http://www.moriyama.com/netscience/Kajita_Shuji/index.html のこと) この子たちに、体中にセンサーをつけて様々な状況の中での歩行周期とか取って、全く同じだったら面白いですね。

■それはね、やってみたいんですよね。たぶん、かなりはっきり出るんじゃないかと思いますよ。

○でしょうね。歩行の振動子や歩行の制御メカニズムって人間でもよく分かってないみたいですから、そこから「じゃあこれです」って言えるようにならないのかなと思ったんですよ。それこそ微細構造までできるだけ調べて。ここがこう違っていると、こういうふうに歩き方が違います、とか言えるとすごいなと。

■うんうん。

○それだと、僕ら一般人的にも分かりやすいし、測られても平気な感じがしますしね。心とかと違って。歩き方から始まって、身振りとか、目の動かし方のクセとか、表情の違いだとか同じところだとか。

■それはほんと、やってみたいと思いますよ。一連のね、似てるって思われる行動を、コンピュータ上でシミュレーションさせて、どのパラメータが決まればここからここまでの類似性を生み出す、といったことが分かれば、けっこう凄いことです。

○それができると、面白いですね。面白いなんて言っちゃっていいのかな、という気もしますが(笑)。
 それが分かればね、さらに調べることもできるでしょうしね。物質レベルでも。じゃあどこが違うのかといったことも。

■ええ。

○さっきの、レジに並ぼうとして、いったんやめて、隣のレジに並ぶっていう行動がありましたよね。それを双子が二人ともする。ああいうのは、心の働きだと思われているわけじゃないですか。

■ええ。

○そんなことがいちいちプログラムのように書かれているとは思えない。でも、まるで書かれているかのような行動をとることがある。それはいったいなんなのかと。

[22: 「特異的不動点」ふたたび]

■うん。それを「書かれてる」と見なすのか、「創発」とみなすのかということですよ。いろんな遺伝的な要因っていうのが動き出していて、この場でふっと特異的不動点として現れたわけですよ。

○そこがよく分からない。人間の心や行動に特異的不動点が創発して現れるっていうところが。分かったようで分からない。

■そうですね……。
 いま、この双子の似ているところにだけ注目して話を進めてきましたが、似てないところもたくさんあるわけですよ。

○ええ。

■そのなかで、似てないところっていうのは、たとえば立っているときに違う方向を向いていると。そのなかで、ある形、あるフォルム、ある行動がふっと似ることがあると。

○うーん、それはですね、よくイエス/ノーで選んでいって最後はあなたは何とかタイプです、ってやる遊びがありますよね、それに似ている感じがする。
 人間の心がまるであたかもいくつかのステップに分かれていて、それでたまたま同じ選択肢のところに来ちゃったと。そのときは同じ反応をするでしょうと。そういう話に聞こえるんですけど。
 つまりこうです。「あなたはいまお友達とお買い物に来ています。ところがお店のなかにあなたが欲しがっているものがあることに気が付きました。あなたは友達と一緒に買い物を続けますか、それとも友達と離れて欲しいモノを買いに行きますか、選択肢A,B」。そういう形のつまり選択の分岐点、それが特異点として現れているのではないかという感じになっちゃいませんか。

■それはそうじゃない。みんなが一緒に買い物を続けるという選択肢を選んで、あの子だけが違う方向に行ったわけじゃないから。
 むしろ、彼が別の方向へ動いたっていうのはね──。みんなが当たり前のように集団行動を取るときに、違うことをするってところなんです。彼は他のときにもね、そういうことをよくやってるんですね。ふっと、みんなと違うところへ行っちゃう。

○その「ふっと」というところが大事だということですか。

■そうです。それっていうのは、決してプログラムされているものじゃない。

○うーん。じゃあ先生はどっちかっていうとコネクショニストですか(笑)。

■全てが計算されて動いているわけではない、という意味ではコネクショニスト的かもしれないけど。
 この「ふっと」ってところ、これがどこから由来するのかっていうことは、問えないような気がするんだよなあ。

○でも、やっぱり問いたくありませんか?

■でも、これがどこから来るのかというのは、この次、どこで類似行動が起きるのか予測できるっていうくらいの精度というかメカニズムを期待しても無理なんじゃないかと思うんですよ。

○でも、こういうケースってよくあるじゃないですか。友達や知り合いの行動を、勝手に予測することってありますよね。

■はい。

○「だいたいこういうときに、あんたはこういう行動を取るよね」って。

■確かに。あそこであのときあいつはああだったから、多分こういうときにはこうだろうっていう予測はありますね。

○それが分かりやすい形で、双子の行動の場合は現れているんだと考えられないですか。

■えーと、それも今後の研究課題でしょうね。まず、一人の人のなかで、どれだけ一貫した傾向があるかということと、それが、どれだけ自分の片割れの行動を予測するのに役立つか。もし完全に一致したら、いま仰ったようなことは可能かも知れない。
 でも、それ自体は違うかも知れない。その人のなかの一貫行動には、必ずしも遺伝的ではないものもいっぱい入っているでしょうから。

○ええ。

■で、今回お見せした子の例の場合、一貫行動っていうのは、ひたすらカードを集めるってことなんですよ。もう片方の子は、そういう形では一貫行動してないんだけど、たまたまあのときは、カードを集めるっていうことと、衝動的にものにこだわるというところが出てきたら一致したのであって、一人のなかでの一貫行動からもう片方の一貫行動をどれだけ予測できるかといったら、その精度は、個人内で予測できるよりも、遙かに低くなる、かもしれない。わからないです。やってみないと。

○うん、現在では分からないとは思うんですけどね。それこそ、そういったことをどう測っていくのかということは、それこそ行動遺伝学そのものの今後の課題でしょうから。

■そうだと思います。今の方法論だと扱えませんね。

○一方で、僕らが日常的に、直観的にああいうのを見て、「あんたはほんと、集団行動取らないよね」って言うわけでしょ。

■そうそう。

○その実体がもし、ちょっとづつでも分かってきたり、あるいは量的に測ってみて「こういう傾向があります」っていうことが分かってきて、さらに、そういう傾向を取る人のうち何割かは何番目かの染色体のどっかになんとかっていう遺伝子がのっています、っていうことが分かってくると、「あ、そうなの?」って思っちゃいがち…。

■ですね。
 それはね、おいおいやってみたいとは思うんですよ。いっぱい双子を集めて、アンケートをとり、統計的に何かを見るっていうのも一方ではやるんだけど、それだと個人が見えてこないので。個人のなかで一貫した、すごくリアルな場面での行動の観察っていうのを、もう一方でちゃんとやるっていう方法論は、おいおいやってみたいですね。

○進化心理学がどっちかっていうと人間の共通点をドカッと捉えて論じるとすれば、行動遺伝学は…

■個人差ですね。個人の差がどういったところに根ざしているのか。
 ある遺伝子座にそれをもっている人はみんなある行動を取ります、っていうんだったら単純なんですけどね(笑)。

○(笑)。
 まあ、みんな単一の「なんとか遺伝子」なんてのはほとんどなくて、複数なんだ、って強調しますよね。でもね、複数だと確かに組み合わせの複雑さは生じるけども、それだけだと「なんとか遺伝子」ってレベルと変わらないかなあと思いますけど。 ■確かに。それ自体、最初から決めつけるべきことじゃないですね。ひょっとしたらすごく単純なね、単一のものも多いかもしれないし。

○うん。それこそ、プロザック飲んでむちゃくちゃ効いて人生変わっちゃう人もいるわけですからね。

■ほとんどの場合、行動レベルは、顔立ちの美しさ同様、たくさんの要素が組み合わさった、全体の模様というか、そういったものだろうなと思いますけどね。目が綺麗だからといって、顔全体が綺麗だとは限らないし。

○でも、顔の形決めている遺伝子って、そんなに大した数ないかもしれませんよ。遺伝子の数も減ったことだし。多く見積もって3万9000ですか。

■でも同じ顔をした人はいないでしょ。確かに似た人はいるけども、無限の数を産むだけの組み合わせはある。

○遺伝子の数の問題ですけど、個人差に関連している部分っていうのは、ほんのちょっとなわけでしょ。コンマ以下のパーセントですよね、たぶん。どこかで「何個くらい」っていう数字を見たような記憶もあるんですけど…。

■でも人によってはDNAでみると25%くらい違うって言ってる人もいますからね。千塩基対に一つ違いがあるっていうから、それから考えるとかなりですよね。ただし、遺伝子じゃない部分も多いわけですが。理論的にはだいたいどのくらい、ってあるんだと思うんですけど、僕も聞きたいんですよ、そこは(笑)。

○じゃあ、どなたかご存じの方はメールでということで。
 情報論的に見て、ゲノムってどうなんですかって話は僕も聞きたいです。2万だか3万だかって言っても、その情報の展開の仕方でどうなんだ、とか。

■知りたいですね、そこは。そういったところも人間の多様性に繋がってるんでしょうから。

[23: 普遍性を測るものさしをどこに当てるかで、ものの見え方は変わる]

○ええ。
 最後に一つ良いですか? 
 実は前から僕が疑問に思っていることがあるんですよ。人間に対する捉え方の問題なんですけどね。人間って本当に多様なのかなあと。というのは、人間はだいたい同じように見えるんですよ。同じ様なものを見て、だいたい同じ様な反応をする。確かに違いもあるんだけど、でも、おおざっぱに見れば、なんだか似てるなあと。

■うん、それはね、すごくつまんない言い方をすれば、尺度の取り方の違いですよ。みんな目が二つ、鼻が一つ、っていう部分は同じ、そういう意味では多様性は全くない。違っているのは奇形であって、基本的にはない。でも、個人差に着目してみれば、誰一人として同じ人はいない。一卵性の双子だって違う。ましてや遺伝子が違っていたらぜんぜん違う。そういう目でみれば、ものすごく多様でしょ。

○なるほど。

■全てに対してそういうことが言えるんじゃないかな。
 つまんない答えをしちゃいましたね。

○普遍性を測るものさしをどこに当てるのかということですね。

■そう。美意識とかも同じでしょ。

○そういうもんなんですよね。うん、そこが聞きたかったんですよ。

■そうでしょう。こういう形で個人差の遺伝子が分かってくると、どこまで共通、どこから違っているのか、違っているのは何をつくっているのか。基本的に同じものなんだけども、ちょっとした効率性の違いに関わっているのか、それとも全体のシステムが変わっちゃうような大きな違いに関わっているのか、分かってくるでしょうね。

○なるほど。
 本日はどうも、ありがとうございました。

【2001/02/22 慶應義塾大学 三田キャンパスにて】

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*次号からはアブラムシの菌細胞内共生系の研究者・中鉢淳氏のインタビューをお届けします。


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NetScience Interview Mail Vol.148 2001/06/21発行 (配信数:25,548 部)
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