NetScience Interview Mail
1999/10/14 Vol.073
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◆Person of This Week:

【淺間一(あさま・はじめ)@理化学研究所 工学基盤研究部 技術開発促進室】
                極限環境メカトロニクスチーム チームリーダー
                生化学システム研究室 副主任研究員
 研究:ロボット工学
 著書:長田正編著『自律分散をめざすロボットシステム』オーム社,東京,1995.ほか

研究室ホームページ:http://celultra.riken.go.jp/~asama/

○自律ロボットの研究者、淺間一さんにお話を伺います。
 淺間氏はロボカップと呼ばれるロボットのサッカーに出場したり、様々な分散ロボットなどをお作りになっています。
 近い将来、大きな役割を役割を果たすかもしれないロボット。
 その研究現場からのお話、お楽しみ下さい。
 7回連続予定。(編集部)



前号から続く (第6回/全7回)

[16: ロボットのイメージ3種 機械工学、生物、計算機それぞれの立場から]

■「ロボット」っていってもイメージするモノがみんな違うんですよ。だから議論がかみ合わない。

○どう違うんですか。

■どうも大きく分類すると──僕の勝手な分類ですが──3つあるんです。
 一つは我々機械工学屋がいうロボット。要するに多自由度で情報処理能力を持った機械なんですよ。単機能だとロボットじゃないんだけど、多機能でデータ情報処理みたいなのが入ると、状況に応じた動きができるようになりますんで、それがロボットの定義なんですね。
 ところが、人工生命屋さん、生物屋さんが入ってきますとね、彼らはロボットを生物と対比して見るんですよ。我々機械工学屋は、機能の限られた機械に対してロボットという言葉を使う。ところが彼らは生物に対してロボットという言葉を使うので、人工的に動き回るものなんですね。どこが根本的に違うかというと、生物屋さんのロボットは、目的がないんですよ。

○ふーむ。

■我々が機械をつくるときは、かならず機械の使命ってあるんですね。それが目的になるわけです。あるいは目的を持っていなくても、いかに人間が目的を与えるかということが研究となるんですけど、逆に目的がなければ機械は動かないわけです。
 ところが生物っていうのは無目的だから、そういう意味で生物屋さんがロボットやるときは、
「このロボットは、こういうふうにランダムに動き回っているうちにそのうち動けるようになるんですよ」
「じゃあそのロボットは何をもってゴールとするんですか」
「いやゴールはありません」
「じゃあ、うまく動かないロボットはどうなるんですか」
「ああ、それは死ぬだけです」
なんて具合で、ぜんぜん議論がかみ合わないわけですよ。

○なるほどなるほど(笑)。

■要するに生物をそのまんま人工物に置き換えただけの存在、というイメージなんですね、彼らは。

○ふーむ。

■一方、3つ目のロボットというのは人工知能とか、情報処理、計算機科学とかやっているロボットで、彼らのやっているロボットというのは目的は非常にはっきりしているんだけど、問題が解けたか解けないかとかですね、だけど、物理的な側面、身体性みたいなところがかなりないんですよ。生物屋さんはもちろんボディっていうのは非常に大事だと思っているんですけども、計算機屋さんっていうのは計算機に手足を生やしたのがロボットだと思ってますから。コンピュータと常に対比するわけですね。動き回る計算機がロボットであると。

○6足だろうが車輪だろうが関係ないと。

■そうそう。いきなり加速度無限大で動き出しちゃったりしますからね。
 でも我々が一番苦労しているのは物理的なことなんですよ。センサーっていうのは有限の領域までしか測れないし、そこには解像度っていうのがあって、処理するには時間がかかるし時間遅れもあるし、ときどき壊れたりもする、そういう感じのものなんだけど。ところが計算機屋さんがやるシミュレーションっていうのは、どういうセンサーでどういう風に測るなんて過程はなくてですね、いきなり半径3m以内のものはなんでも測れちゃうそういうセンサーがあると仮定しましょう、なんてところから始まるわけですから、これはまた話が通じないわけですよ。

○(笑)。

■2次元空間を動き回るロボットっていうのは、いきなりメッシュで切っちゃってメッシュ上に動きますよ、なんて形になっちゃうわけです。そういう形で、物理的な条件というものが捨象されやすいんです。
 で、そういう人たちが集まって議論していると全然議論が食い違っちゃうわけです。我々は単機能な機械に対比してロボットだと思っているわけですから。

○トイレにある、手を差し出すと自動で水がジャーッと出てくる奴とか、ああいうのがロボットであって、ああいうものがインテリジェントなんだというイメージですか。

■そうそう。自分の意図が伝わって反応してくれるもの。そういう意味でですね、かなり違うんですよ。

○何をもって知能というか、ってところとも結構近いんでしょうかね。

■そうですね。

○パソコンと自動ドアとどっちが賢いかというと、自動ドアのほうがぜんぜん賢いじゃないかというのが先生の…。

■そうそう、近いですね。まあはっきり言えば自動ドアが賢いっていうより、自動ドアを作った人が賢いんですね。そう。

○そういうところを詰めていこうとしているところなんですか?

■うちですか? いやそんな大それたことは(笑)。研究は現実的には遅々として進みませんから。
 やっぱり、みんなそれぞれ興味を持っていることが違いますね。ただロボット工学、機械工学の人でも、かなり生命に興味を持っている人が多くなってきました。いわゆる生物がやっているのと似たような情報処理をやらせたりだとか、似たようなモデルや学習モデルを使ったりとか。脳とか免疫とかね。

[17: 生物とロボット]

■たとえば計測自動制御学会がやっている自律分散システム部会ってのがあって、そこで見学会をやったりディスカッションをしたりしているんですけど、この間ね、東北大学の電気通信研究所の矢野先生──清水博先生のお弟子さんなんですけどね、この人は──のところに行って来たんです。この人はまた生物的なところからやっている人なんですね。非常に面白くて、ナメクジを飼ってるんですよ。

○は? ナメクジですか?

■うん。ナメクジにね、餌をやるんです。あれね、冷やすと忘れるんですって。

○ナメクジの記憶が、ですか?

■ええ。ニンジンとかすきなんだけど、その中にナメクジが嫌いな奴も一緒に混ぜて与えたりするんですよ。そうすると学習してね、ニンジンを嫌うようになるわけ。ところが冷やすと、またニンジンを嫌いだったということを忘れて寄ってくるようになるっていうんですね。
 さらに今度はニンジンをやってキュウリをやって、嫌いな物質を食わすと、当然キュウリに寄りつかなくなるんだけど、ニンジンにも寄りつかなくなると。関連を覚えているんですね。ところがまた冷やすとどうのこうの、という話なんですね。

○へえー。ロボットやっている人がまたなんでそんなことを?

■うん、その人はむしろ生体のメカニズムをやっているサイエンティストの立場に近いんですよ。コウモリのエコロケーションもやっているし、他にはゴキブリもやってるんですね。
 それで研究が始まってね。6足歩行ロボットを使ってやっているんだけど。よく言われるのがね、4本足の動物っていうのはいくつかの歩行パターンを持っていて、ギャロップだとかウォークだとかトロットだとかあるんですね。あれは酸素消費量にそれぞれ最小点があって、走る速度によってどの歩行パターンがいいか、という形で最適化されているというんですよ。で、速度によってどのパターンが出るかは自己組織化されていると。
 で、ゴキブリとかですが、僕が不思議だったのはね、ムカデとかなんですよ。パターンっていうのは自由度に依存しますから、4足6足って話でしょ、ムカデなんかもの凄くたくさんの足があるんだから、凄いたくさんの自由度があるわけです。だからパターンもいろいろなのが出そうな気がするじゃないですか。

○しますね。

■ところが、ムカデっていつも、どんな状況でも同じパターンしか見ないような気がするんですね。自由度が多くなればなるほど同じパターンしか出なくなるように思えるのはなんでなんだ、って話になって。そのときの議論はそこで終わったんだけど、飲みに行ったときに京都大学の土屋先生が実は実験室の近くにたくさんムカデがいて最近研究をやっているんだっていう話になって。
 で、まず僕の立てた仮説は足の神経節が全部繋がっていて、それは機構的にもカップリングしていて前足を動かすと次にそれが後ろの神経節に伝播するんじゃないかと思ったんですよ。でも違うんですよ。あれはやっぱり一本一本独立に動くんだと。

○ふーむ。多脚が難しいっていうのは脚の数が増えてくると制御が難しいから、っていうのもあるんでしょう?

■たぶんそうでしょうね。いかに単純な機構で面白いパターンが出るか、っていうのが面白いですよね、出るとすれば。本当にそういうたくさんのパターンが出るかどうかも分からないですよね。少なくともゴキブリはそういういくつかのパターンが出るそうですから。壁歩いているのを見たらよく観察しないと(笑)。何の話か分からなくなっちゃいましたね。

[18: 時定数が違うものを処理できるようにならないとダメ]

○ビジョンを使うっていうのもそもそも生物のまねじゃないんですか。

■そうですね。だから模倣から入ってきたんだと思いますね。ただ重要なのは、そういうのを使うというのは面白いと思うんだけど、それを適用することによって今までできなかった問題がね、できるようになると「ああ、こりゃすごい」と思うんですけどね。
 ただ昔からロボットの知能というのは何をもって知能というかというと、一番簡単な問題は、衝突回避なんですよ。もちろん衝突回避にもいろんなレベルがあって、決まった道を決まったタイミングで来る奴をどう避けるかという話から、どう来るか分からないとかね。周りは動かない世界だとか動き回る奴がいるだとか、動きにしても一定だとか不定だとか、いろんな仮定によって難しくもなるし簡単にもなるんですけども、結局は衝突回避で、いかに賢いか、という議論をしているだけなんですよね。  そういう意味では、まだまだロボットの知能っていうことの向いているターゲットのレベルが低すぎる気がしますね。そういう意味でサッカーはずっとマシなんです(笑)。

○サッカーロボットでも視覚のフローだとか、自分はいまこの辺りをこう動いているといったことをこれからどう把握させていくかということがけっこう難しい課題なんでしょう? たとえば自分がいまどう蹴っているかってこととかは、いまのあれは捉えてないんでしょう?

■うん、例の自己診断機能っていうのは、自分が何をやっているか、自分はどんな状態かっていうことも含めてなんですけども、そういうものを自分の行動に反映させようという研究なんですね。それは絶対必要ですね。

○実時間、実空間でどう動くか、っていうことでロボカップはあるわけですね。

■ええ。ただ実時間だけではなくて、実時間ではないものもパラレルにあるんですよね。それがどういう風に起こっているかということが大事で。いままで実時間でない、ジッと考える知能があって、それに対していやいや、リアルタイムが重要なんだ、って話になってますけど、そうじゃないんですよね。時定数が違うようなものがパラレルに走っているはずですよね。人間だってサッカーやりながら違うこと考えていたり戦術を練っていたりするわけですから。そういうことができないと、ダメでしょうね。

○できるようになるんでしょうか。

■うん、その辺は割とね。やられるようになると思いますよ。

[19: 問題はハード]

■ただね、メカなんかの技術のほうがクリティカルなんです。ソフトウェアとしてはね、いろんなことが議論されつつあると思うんですけど。依然として同じ様なDCサーボモーターだけ使っていても果たして何ができるかということはあると思うんです。

○ハードがネックになるわけですか。律速になっちゃうと。

■そうですね。あとセンサーですよね。ビジョンなんかはかなりよくなってきましたけども。それ以外のセンサーなんてもう、触覚なんて何十年来ずーっとやっているけどもよくならないし。

○圧電のゴムみたいな奴ですか。

■ええ、そうです。  あと匂いとかね。全然だめでしょ。イヌなんか匂いの情報がもの凄く重要ですよね。

○匂いこそ、この理研でやっているんでしょ。

■らしいですね(笑)。

○匂いなんかはどうも進みそうもないような気がしますね。

■ええ。

○耳なんかにしても、人間ですらかなりのエコロケーション能力を持っているらしいじゃないですか。視覚障害の人は障害物なんかあったら分かるっていいますよね。ああいうのの解析をして、耳だけでね、すすすっといけるようにも本当だったらできるはずですよね。

■うん。耳なんかも進んでないですよね。ただそういう意味でいうと、ハードウェアが出るに従ってそのハードを使った技術というのが出てこれると思うんだけど、それがなしに「人間の耳みたいなセンサーがあったと仮定しましょう」とやって研究やっててもそういうハードはできないから、無意味だと思いますね。だからハードウェアの技術の進歩にうまくマッチした手法っていうのが出てこないと。で、その手法っていうのは必ずしも人間が処理しているモノと同じとは限らないですよね。
 そこが…、面白いところじゃないですかね。

○人間とは違うものだから、違うかたちのもののほうがいいと…。

■ええ、よく飛行機の話が出ますけどね。

○ああ、飛ぶっていう機能を実現するときに鳥をそのまま再現するのはバカだ、という話ですか。

■ええ。車輪もそうですよね。生物は車輪なんてもってないけど、車輪を発明して置き換えたおかげで便利になったわけですよね。

[20: 研究者がベンチャーをやるということ]

○話は全く変わりますが、先生は「有限会社ライテックス」という自律ロボットを売るベンチャー企業の取締役、というもう一つのお顔もお持ちですね。

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■イベント:
◇東北大学金属材料研究所 一般公開 11月12日(金)- 13日(土)
http://koho.imr.tohoku.ac.jp/young99/index.html

◇ICC ビエンナーレ 10/15日 - 11/28 NTTインターコミュニケーション・センター
http://www.ntticc.or.jp/special/biennale99/index_j.html

■URL:
◇エウロパには硫酸の氷原が広がっている(JPL)
http://photojournal.jpl.nasa.gov/cgi-bin/PIAGenCatalogPage.pl?PIA02500

◇JPL Picture Archive : Galileo images of Io
http://www.jpl.nasa.gov/pictures/io/

◇太陽放射が気象に与えている影響を調べるトリアナ(Triana)衛星
http://triana.gsfc.nasa.gov/home/

◇渦巻き銀河の成長の秘密はバルジにあるかもしれない(ハッブル宇宙望遠鏡)
http://oposite.stsci.edu/pubinfo/pr/1999/34/pr-photos.html

◇天王星と海王星はダイアモンド鉱山(CNN)
http://www.cnn.com/TECH/space/9910/01/space.diamonds.reut/index.html

◇高解像度の画像でも、火星の古代の海岸線が見つからない
 MOC Image Tests of the Mars Ocean Hypothesis
http://mars.jpl.nasa.gov/mgs/msss/camera/images/grl_99_shorelines/index.html
HIGH-RESOLUTION IMAGES SHOW NO EVIDENCE OF ANCIENT OCEANS ON MARS
http://www.msss.com/press_releases/shorelines/

◇HLA(ヒト白血球抗原)の遺伝子型はAIDSの進行に影響を与える(nature BioNews)
http://www.naturejpn.com/newnature/bionews/pe/hla.html

◇99年度ノーベル賞
http://www.nobel.se/announcement-99/

 *ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


NetScience Interview Mail Vol.073 1999/10/14発行 (配信数:18,974部)
発行人:田崎利雄【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス事業部】
編集人:森山和道【フリーライター】
tazaki@dware.co.jp
moriyama@moriyama.com
ホームページ:http://www.moriyama.com/netscience/
*本誌に関するご意見・お問い合わせはmoriyama@moriyama.comまでお寄せ下さい。
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○当メールニュースでは、科学に関連するイベントの一行告知、研究室URL紹介などもやっていきたいと考えています。情報をお寄せ下さい。
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