NetScience Interview Mail
2000/06/29 Vol.104
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【橋本公太郎(はしもと・こうたろう)@東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻 助手】

 研究:燃料化学・反応化学
 著書:吉田忠雄,田村昌三監修「化学薬品の混触危険ハンドブック 第2版」
日刊工業新聞社、1997年(分担執筆)

ホームページ: http://www02.so-net.ne.jp/~hashi/kohtaro/index.html

○今回からは、ディーゼルエンジン燃料や反応化学の研究者、橋本公太郎さんのお話をお届けします。
最近「悪者」として扱われることの多いディーゼルですが、こういう時期だからこそ、逆に現場の研究者の方はどんなことをどんなお考えで研究なさっているのか、例によって色々と伺ってみました。
化学の話だけにいつもよりカタカナが頻出し、ちょっととっつきにくいところもあるかもしれませんが、環境問題とも関連する話です。お楽しみ頂ければ幸いです。
(編集部)



○本日はよろしくどうぞ。環境問題と関連して燃料電池などが注目される一方で、ディーゼル・エンジンへの風当たりが非常に強い昨今なので、敢えて先生に話を伺ってみたいと思いました。
 でもディーゼルエンジンは、ガソリンより気化性が悪い燃料でも使えるし、熱効率も高くて、燃料消費量も少ないんですよね。必ずしも悪いところばかりではない。

■ええ。

[01: ディーゼル・エンジン燃料研究の概要]

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○では、どんなことをやっているのかということから伺えますか。

■はい。私は学生のころから「ディーゼル燃料のセタン価向上」というのをやってました。また環境問題とも絡むんですけども「ディーゼル・エンジンのLPG利用」ということもやってます。今日はそういったお話をしたいと思います。

○よろしくどうぞ。

■はい。ディーゼル・エンジンは排ガスのなかに「PM」──粒子状物質というものが排出されますので、そちらのほうを削減しないといけないということになってます。

○はい。最近、問題になっているやつですね。

■ええ。PM削減についてはエンジンとか後処理とかからのアプローチももちろん行われているんですが、燃料からできることもあるのではないかと言われいます。そこで燃料としてLPGに注目しているわけです。
 というのはどうしてかと言いますと、PMの大部分は黒煙なんですね。黒煙のできやすさは芳香族の量によるんです。芳香族のベンゼン環、あれがどんどん集まって環化して縮合して「すす」になるんですね。たとえば軽油なんかは、すす、黒煙が出やすい。

○はい。

■ところがLPGは硫黄や芳香族を含んでいません。クリーンなんですね。そこでCが3つ(C−C−C)とか4つ(C−C−C−C)とか、C−C−Cと直線状に連なるタイプの炭化水素が主成分なんです。こういうタイプだとすすが大幅に削減されることが期待されているんです。

○すいません、分からないんですが、どうしてC−C−C−・・・という形をしているタイプの炭化水素はすすにならないんですか。

■それはですね、すすはどうしてできるのかという問題に関連しています。
 すすができるときにはCとHの関わりが問題になるわけです。
 同じ発熱量の燃料でも、CとHの比を見たとき、Hが多いほうがすすになりにくいんです。もう一つは、普通はバラバラになったものが環状にくっついてすすになるんですが、芳香族はバラバラにならずにいきなり環状の構造をつくっていっちゃうと。だからすすになりやすいと言われているんです。実験的にも証明されているんですが…。

○うーん、ぜんぜん分からないですね(苦笑)。伺っているうちに分かってくるんですかね。

■そうだといいんですが(笑)。

○あとでおいおい、詳しく説明をして頂くことにしましょう。

■はい。取りあえず話を先へ進めます。
 とにかく、Hの比が多く、鎖状の構造を持つLPGを燃料に使えないかということで研究をやっております。
 ただLPGの問題点として、着火性が低いということがあるんです。これを我々は「セタン価が低い」と表現します。ですからセタン価向上剤を入れてセタン価をあげられないかということをやっています。

○要するに、火がつきにくい燃料に何かを混ぜて、火をつきやすくしようということですか。それが先生のご研究だと。

■そういうことです。

[02: 石炭液化]

■もう一つ、セタン価向上剤の応用として、石炭液化油への自動車燃料への応用というのもやっています。
 石炭液化については、日本の国家プロジェクトとしてNEDOがやっているんですよ。試験的にですね、鹿島にプラントを作りまして。石炭を液化して最初に出てきた油をアップグレーディング(精製)して燃料油を作っているんですが、でもどうしても、石炭液化油の軽油の留分っていうのはセタン価が低いんです。

○「りゅうぶん」ってなんですか。

■ご存じだろうと思いますが、原油っていうのは幅広い沸点の物質の混合物なんです。それぞれの成分を留分というんです。

○なるほど。

■軽いほうからガス、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油といったものですね。こういうふうに分けられるんです。もちろんそのまま使うわけじゃないんですが、このように沸点によって分けられると。

○はい。

■同じように、石炭を液化した場合にも、いくつかの留分に分けられるんです。
 石炭液化油からの軽油には、石炭からつくったためにベンゼン環を持つ芳香族を多く含むんです。いくら飽和させて精製してやってもやはり環状になってしまって、セタン価が低くなってしまうんです。そのためそのままでは使えない。そこを何とかしようという研究です。どんな向上剤を入れればいいのかと。

○なるほど。
 素朴な気持ちなんですけど、いいですか。

■はい。

○「石炭液化」って、まだやってたんですね(笑)。

■そうですね(笑)。 ○僕らが小さい頃、15年以上前くらいに、夢の技術として語られていた話ですよね、当時、「いまやってるんです」という記事だったですけど。

■そうなんです、まだやってるんです。  実は私も最近までそうやってまだやってるっていうのを知らなかったんですけど。

○業界の方でも?

■ええ、そうなんです。石油業界にとっては関係ない話なんですよね、石炭液化って。

○そうなんですか?

■ええ。石油業界からすればライバルですからね。でもやっぱりアップグレーディングしたり、石炭を液化したあと脱硫、脱窒素していくために石油の技術が使われるらしくって。

○石炭液化はどういう経路で行われてるんですか。

■NEDOが、昔からの続きで、石油の代替燃料っていう話でやってるんです。もう一つは、石炭がいっぱい採れる国へこの技術を移転することによって、彼らが自前の経路で自前の石炭でやれるようにということでやってるんですね。

○技術周りはどうなんでしょう。あの塊を、どうやって液体にするんですか。

■鉄の触媒を使いまして、水素をたくさんくっつけて、水素化するんです。

○??

■石炭を細かくしていきつつ、それに芳香族とかでCHの少ないものにHをたくさんくっつけていくという過程ですね。

○高圧反応か何かで?

■そうそう。そうです。

○もうちょっと過程を教えていただけますか。

■はい。石炭は分子が大きく、かつ炭素と水素の割合が炭素の方が大きいという性質を持つ物質です。そこで、水素の割合を多くしつつ、かつ、一つ一つの分子を小さくしなくてはいけないんですね。
 そこで、石炭に水素をくっつけて分解するのですが、その水素は別の溶剤の水素を利用するのです。この溶剤の水素を鉄触媒を使って石炭にくっつけて、石炭を液体にするのです。水素を失った溶剤は、回収して、別のプロセスで水素をくっつけて、また石炭の液化に使うのです。溶剤のリサイクルですね。

○なるほど。

[03: セタン価 1]

○では、ここまで出てきたことで一番基本かつ肝心なことだと思うんですが「セタン価」について教えて下さい。

■はい。私の研究をとおして基本的なことからお話しします。
 セタン価というのはディーゼル燃料の着火性の指標なんです。まずディーゼルエンジンというのは「圧縮着火機関」といいまして、ピストンが上がっていってなかの空気を高温高圧にしたところに、燃料が液体のまま噴射されまして、それが気化して空気と混合します。その混合気がピストンによる圧縮によって空気と化学反応を起こしまして火がつくと。こういう仕組みになっています。これを圧縮着火機関と言います。

○混合気を圧縮することによって着火するわけですね。ガソリンエンジンのような火花着火ではなく。

■はい。ですから燃料が噴出されてから火がつくまで時間がかかるわけです。これを「着火遅れ」と言うんですけども、これが長いと着火性が低いわけです。  着火性が低いと、いろいろと問題が起こります。ですから着火性をあげるための研究が行われているわけです。

○いろいろな問題とは?

■ディーゼルエンジンは通常だと、燃料を噴射して気化して混合したところにピストンが上昇してきて、ボンと着火して圧力が上昇します。その後、まだ空気と混ざっていない燃料と空気が混ざっていって燃焼が広がっていって、だらだらと圧力が維持されるんです。そういう二段階になってます。

○噴射してしばらくしてからボンといって、そのあと燃料と空気が引き続き混合を続けながら、燃焼が広がるということですね。

■そうです。通常だとそうなります。
 ところが燃料を噴射してから火がつくまでに時間がかかりますと、噴射されて気化した燃料が空気と混ざりすぎるんです。そうするとどういうことが起こるか。  いきなり全体がボンと燃焼しちゃって、圧力が急激に上昇し過ぎちゃうんですね。その結果カンカンカンと音がする<ディーゼルノック>と呼ばれる現象が起きたり、エンジンを損傷したりします。それを起こさないようにするためには、着火性がよくなくてはいけないんです。

○なるほど。いくら爆発だといっても、むやみやたらと爆発させればいいというわけではないんですね。ある程度の爆発じゃないと、まずいと。

■そういうことです。一見、全体が混ざったところで着火したほうがいいんじゃないかと思われるかもしれませんが、それだとまずいんです。ある程度混ざったところでさっさと火がついてもらわないと困るんです。そのため着火性が求められているわけです。

○必要以上に混ざるまでに火がつかないといけないと。意外と微妙な過程なんですね。

■そのとおりです。  ですので、着火性が重要なんですが、ディーゼル燃料の着火性はセタン価という指標で表されるわけです。

[04: セタン価 2]

○はいはい。ではセタン価のより詳しい説明をお願いします。

次号へ続く…。

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  http://jem.tksc.nasda.go.jp/astro/ascan/ascan_rep0005.html

◇火星に水の流れ出たあと?
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◇科学技術振興事業団 個人研究推進事業における成果について
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◇「染色体を均等に分配するために働く蛋白質の分子機能を解明」 科学技術振興事業団
  http://www.jst.go.jp/pr/announce/20000623-2/index.html

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