NetScience Interview Mail
2000/09/07 Vol.113
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◆Person of This Week:

【平藤雅之(ひらふじ・まさゆき)@農林水産省 農業研究センター 研究情報部 モデル開発研究室 室長】

 研究:計算生物学、アグリインフォマティクス
 著書:バイオエキスパートシステムズ(コロナ社、ISBN4-339-02277-2)

ホームページ: http://model.narc.affrc.go.jp/

○計算生物学、アグリインフォマティクスの研究者、平藤雅之さんのお話をお届けします。
平藤さんの研究主題は「桃源郷」。
なんだそれ、と思った方は、本シリーズをお読み下さい。(編集部)



[08: 「お得感」のある研究プロジェクトとなるか]

科学技術ソフトウェア
データベース

■で、将来的にはこういうものが宇宙ステーションの中にあって、二酸化炭素を吸収したり食料を供給したりするようになると。

○いまやっている国際宇宙ステーションでは、土を使って栽培するような計画ってあるんですか?

■植物の実験モジュールはありますが、ゲルみたいなものを使ってるようです。栽培するのは一種類の植物だけで、生態系じゃないと思います。いまの宇宙実験は、微少重力下での植物生理的な研究が目的ですから。

○そうですね。

■その次のステップ、数兆円とか数十兆円の規模のときにペイするビジネスは何かということになると、やっぱり一般人が長期滞在して色んなことができるようにする、ということになりますよね。以前、ペプシのコマーシャルで抽選で云々、というのがありましたけど、あれ、かなりたくさんの人が応募したでしょ。やっぱりそれだけのインパクトがあるんですね。

○みんな素朴に好きなんですよね、ああいうのが。
 先日、機械研で行われた<HRP>っていうヒューマノイドロボットの公開のときにも感じました。あれはかなり、遊びに近い研究ですよね(笑)。みんながやってみたいことではあるけども。でもだからこそ文句は言われない。ところがH2ロケットが爆発したら、みんなブーブー文句を言う。
 その差は何かというと、よく分からないけど「お得感」とか「充実感」とかがみんなの基準の中にあって、そこにひっかかるものは許せるんだけど、そうじゃないものは許せない、そういうことでしょ。

■そうですね、「お得感」を与えてないものは、「なにやってるんだ」となっちゃうわけですね。
 この研究では、「お特感」とか「遊び」という保険を意図的に増やそうと思ってるんです。宇宙関連の予算でやってますけども、これは地上でも使えますから。たとえば室内緑化──インドア・グリーナリーの進化した形だ、というビジョンを打ち出せるわけです。

○というと?

■たとえば、この実験システムが成功したベンチャー企業のオフィスにあったとすれば、みんな感心して帰るでしょ。「一ついかがですか?」って言ってそこらへんのイチゴを摘み取って渡されたら「さすがだ、他とは違う!」ということになるでしょう(笑)。

○そうかなあ(笑)。

■ビル・ゲイツがそうやってるところを想像してみて下さいよ。
 観葉植物はいくらあっても、そういう楽しみがないでしょ。メンテも大変です。何ヶ月かに一回、総入れ替えしないといけなかったり。スタジオジブリは観葉植物だらけですね。これだと、一回作ったらもうあとはほったらかしでOKです。

○セットしたら終わりと。水さえやっとけばいいと。

■水やりも自動なのでやらなくていいいです。「あそこの会社に入ったら、桃源郷的生活ができる」となったら嬉しくなっちゃうでしょう(笑)。ほら、犬飼ってる会社ありますよね。あれは犬好きならいいですけど、そうじゃないと困っちゃうでしょう(笑)。だから何を入れるかが結構難しいんですよ。
 ここはちゃんと花が咲いて種までできましたが、どうしても人が受粉に手を貸してやらなくちゃいけない植物もあるわけですよ。それも風媒でできると思うんですけどね。昆虫がいないから、昆虫が受粉のときに手を貸すっていう可能性はゼロです。だからなるべくほったらかしで、いつも何かの実がついてる状態をどうするかというところには、今までの農業技術のノウハウが活きそうです。
 それと組み合わせるのは、複雑系の話ですね。

○生態系の動的安定性をどうやって維持するか。

[09: 人工生態系は、複雑系の実験そのもの]

■これはある意味で複雑系の実験そのものなんですね。<バイオスフィア2>はデカすぎたんですよ。以前,バイオスフィア2に行ってあそこの所長さんに会ったときに,「そのうちデータを交換しませんか?」っていう話をしたんです。すると「うちはもう出してるよ」って言うんです。えっ,と思って後でHPを見てみたら、本当にたくさんある。
 生物系の研究者はデータを出したがらないんですが,その反面データっていうのは巨大になると解析しきれないんでしょうね。

○うーん。

■だから施設が大きすぎても意外と難しいな,という気がするんですね。

○バイオスフィア2はどんなデータを取っていたんですか。

■環境条件や種の数とかです。生態系の普通の調査はやってましたね。

○なるほど。

■あそこが失敗したという評価をする人たちは、意外と表層しか見てないんです。本当は、あの失敗に見えた結果自体が重要なんですね。予想外に二酸化炭素が増大にしてしまって,密閉状態を一時解除したという問題です。
 最初は誰もがあのくらいのサイズがあれば植物による吸収だけで十分だろうと思っていました。ところが、いざやってみると、予想以上に濃度が上がってしまった。つまり直感や常識と違ってた訳です。もしあれをいきなり宇宙空間で作っていたら大変なことになっていたでしょうね。あの規模でもダメだった、ということそのものが、貴重な知見です。

○その辺は彼らの本に書かれてますね。講談社ブルーバックスから出ていた『バイオスフィア実験生活 史上最大の人工閉鎖生態系での2年間』(アビゲイル・アリング マーク・ネルソン著 平田明隆訳、840円。インタビュアーによるブックレビューはhttp://www.moriyama.com/sciencebook.96.12.htm#sci.96.12.01に掲載)。
 そういう話はけっこう書かれてましたが、研究そのものの話はあまり書かれていなかったような。

■ええ。研究の方は施設が複雑すぎてデータ解析が大変なんですよ。だからでかすぎてもダメなんです。ブルーバックスにも載ってましたよね、種の数が減った、という話が。それが分かっただけでも十分じゃないでしょうか。

○なるほど。

[10: バイオスフィア2のビジネスモデル]

■これは実際に行って分かったんですけど、あれの話を聞いて失敗だったと思った日本人ビジネスマンはやっぱりアメリカに負けるなと思いました。

○はい??

■バイオスフィア2って、知的エンターテイメントのためのディズニーランドみたいな施設なんですよ。まず科学的な成果を出して、そのあとは科学的な教育を兼ねたエンターテイメント施設になっているんです。だから今行くと入場料払わなくちゃいけない。

○ふむ。

■僕はそれを知らなくて、大学時代の恩師に所長(コロンビア大)を紹介してもらって「中を見せてくれ」と直接頼んじゃったんです。で、わざわざ向こうに留学してた日本人の学生さんが内部を案内してくれることになったんですね。ところが行ってみると入口に入場券売り場らしき建物があって,彼に聞いたら「今は入場料払えば入れますよ」って(笑)。愕然としました(笑)。

○(笑)。

■つまり、まずはああいうので科学的な成果を出しておいて、そのあとですね。そこが彼らの本当のねらいだったようです。
 アリゾナの何にもないところに、いきなり集客力のある施設ができたわけです。それがツーソンの町にとっては、非常に重要な町おこしになるわけですよ。村おこしで金塊を見せたりしてたのがあるでしょ。ああいった効果があるんです。高速道路を走ってると、「あと○キロでバイオスフィア2」っていう看板を見かけましが,旅行してる人が看板を見て「あ、寄っていこうか」って思うわけですね。

○ふむふむふむ…。

■で、行くとですね、たとえば,昔,ニュースで見たガラス越しに中の人と外の人が手と手を合わせた場所に,あのガラスがあったりすると,やっぱりやってみたくなるんですよね(笑)。アポロ宇宙船の座席とか座ってみたいけど、それはできないでしょ。でもアソコならできるわけです。本物でね。

○なるほどねえ。

■「ああ、ここでみんながミーティングして喧嘩しちゃったのか」とかね。そういう追体験ができるわけです。あの、ディズニーワールドのウソの世界とは、好対照です。全部がリアルで、中に入って追体験できて、それなりの科学的知識を伝えるためのフォーラムもあります。だからあれは、エデュテイメントそのものですね。

○でも、それが商売としてペイするだけの人が来るわけですか。

■平日なのにお客さんはいっぱいいましたよ。

○ふーむ。日本ではどこも苦戦しているというのに。

■アメリカだと、ダメになったらすぐ閉鎖しちゃいますよね。そしてすぐまた研究施設に戻しちゃう。でもなかなか戻さないところ見ると、まだ,お客さんがけっこう来ているんでしょうね。
 お客さん人が減ったころに、次の研究をスタートさせるとか…。そういえば,次期の実験のための改造をやっていましたよ。

○お金も貯まってるだろうし。

■ええ。今までのデータの解析も終わってるでしょうしね。

○ふーむ…。でも、そういうシステムがちゃんと成立しているというのが驚きですね。

■そこが日本との違いでしょうね。たぶん彼らは、ビジネスを総合的にやることとかも含めて、もともとああいうのが好きなんですよ。
 日本だとピューロランドくらいでしょ(笑)。キティちゃんに頼りきっちゃってますが。ところが向こうは、全くのゼロからビジネスを発想する連中がいるわけです。巨大な最先端の研究プロジェクトそのものをエンターテイメントにしちゃうわけですから。

○日本だと生命誌研究館が近いんですか。

■でもデートに行けないでしょ(笑)。バイオスフィア2はデートに行くのにも良いところですよ(笑)。

[11: 植物がどう空間に分布していくかを時間的に追跡したい]

○話を戻して、先ほど伺った以外には、具体的には、どんなデータを取ってらっしゃるんですか?

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■イベント:
◇Mathematicaユーザー会 ワークショップ事例発表者募集  11月3日(祝) 東京電機大学 千葉キャンパスにて   http://www.jip.co.jp/si/mathuser/

◇裳華房ホームページ「今月のキーワード」 秋の研究所等の一般公開
  http://www.shokabo.co.jp/keyword/labo_autumn.html   http://www.shokabo.co.jp/

■ U R L :
◇ランドサット5号による三宅島周辺の観測結果 NASDA
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-p/200008/landsat5_000830.jpg

◇横浜市 市民の暮らし 防災関連情報
  http://www.city.yokohama.jp/me/bousai/index.html

◇日本人の平均余命 平成11年簡易生命表 厚生省
  http://www.mhw.go.jp/toukei/h11-ablif_8/index.html

◇化学同人、編集スタッフ募集案内
  http://www.kagakudojin.co.jp/kagakudjn/inform.htm

◇島魂──三宅島噴火情報&伊豆諸島群発地震情報
  http://www.miyakejima.net/

 *ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


NetScience Interview Mail Vol.113 2000/09/07発行 (配信数:23,219部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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