NetScience Interview Mail
2000/09/21 Vol.115
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◆Person of This Week:

【平藤雅之(ひらふじ・まさゆき)@農林水産省 農業研究センター 研究情報部 モデル開発研究室 室長】

 研究:計算生物学、アグリインフォマティクス
 著書:バイオエキスパートシステムズ(コロナ社、ISBN4-339-02277-2)

ホームページ: http://model.narc.affrc.go.jp/

○計算生物学、アグリインフォマティクスの研究者、平藤雅之さんのお話をお届けします。
平藤さんの研究主題は「桃源郷」。
なんだそれ、と思った方は、本シリーズをお読み下さい。(編集部)



[15: 農業用機械のAIをやっていた時代もあった]

科学技術ソフトウェア
データベース

○研究は何をやっていたんですか?

■なにやってたかなあ…。

○なにやってたかたなあって、いったい(笑)。

■いや、忙しいんですよ、ここ(農業研究センター)にいると。色々な研究をしているんです。
 …あのときは、農業機械のAIをやってましたね。機械に人工知能を積んで、それをどう動かすかとか、その知識ベースをどう組むかとか。

○なるほどなるほど。

■やっぱり情報分野ですね。

○どんなロボットだったんですか。

■農業用ですよ。エキスパートシステムとか,トラクターを完全無人で動かすにはどうするかとかですね。画像で障害物を認識させないといけないし、人が現れたらそれを避けたりしないといけない。また自分の位置を常にモニターして、畑の端まで行ったらちゃんと戻ってくるとか。それを制御するためのコアとなるAIのソフトを作ってたんです。

○もともとはAIの研究を?

■えーっと、もともとは,生き物の計測制御とモデリングです。ああ、そうそう、別のもやってました。

○別の?

[16: 植物個体の反応を厳密に測るとカオス的応答が見られる]

■植物個体を密閉されたチャンバーの中で長期間栽培して、得た大量のデータから植物成長モデルを作る,という研究です。ガス組成や水耕液の温度や濃度まで,生育に関係する全ての環境条件を精密に制御しました。
 自然界で行うと不明な環境条件がいっぱいあるんですね。でも、この実験装置では全てがコントロールでき、その中で、植物がどういう反応をするか,たとえば光合成速度とか、成長速度などを連続的に計測します。

○ふむ。

■チャンバー内の環境はゆらぎがなくってピタッと完璧に制御されているんです。しかも任意に変えられます。

○はい。

■環境条件を変えると、植物は非常に不思議な応答をするんですね。非常に複雑な応答を…。今で言うとカオスです。

○カオス? 不思議な応答とは?

■理科の教科書には横軸を光の強さ,縦軸を光合成速度にした光合成速度曲線が載っていますが、あれはすーっと上がっていってある程度光が強くなると飽和するっていうグラフになっていますよね。

○はい。

■ところが、まったく同じ環境条件で測ったデータをプロットすると毎回違うんです。グラフを描くと、点が非常にばらついちゃうんですよ。温室実験では気象のゆらぎによる誤差があるので、「おおっー,こんなに誤差があるのか」と渋々納得せざるを得ませんが,これだけ精密な装置を使った実験では誤差じゃ納得できません。
 実は、その変化自体が植物の応答なんですね。植物は一個体,一個体がカオティックな応答をしているんだということが分かったんです。これもデータが多すぎて、まだ解析中なんですけどね。

○どんなふうになってるんですか? むちゃくちゃ?

■光を強くすると普通は光合成速度が増えますが,ときどき逆に減ったりします。温度や二酸化炭素についても同じで,教科書通りにはならない応答が頻繁にあるんです。

○ばくぜんとした傾向だけじゃなくて?

■そうです。それがカオスかどうか調べるために、予測モデルを作ったんです。予測モデルのとおりに変化していれば、その現象が決定論的に出てくるって分かりますよね。

○そのとおりに出た?

■そう、モデルの予測通りになるんです。それでいちおう「カオスだな」ということが分かったんです。

○モデル…。

■非線形なモデルで。

○ふーん…。

■株でやってた非線形モデルをそっちへ応用したんです(笑)。

○うーん、まさに趣味と実用だ(笑)。

■株の世界でもみにもまれたノウハウがありますからね。

○そんなにやってたんですか。

■下手なTVゲームよりは面白かったですね。

○あたったんですか。

■うーん、ときどきはずれました(笑)。それ以上に問題だったのは,自分の作ったソフトの予測が信用できないんです。自分の作ったソフトが自分のカンより正しいはずがない!と思っちゃう(笑)。
 でも普通の株の予測は簡単でしたね。問題は商品先物です。あれはやめたほうがいい(笑)。カンと経験を全て投入しても、あれは手数料が高いのでリスクが大きすぎます。

○その「カンと経験」ってなんなんですか。モデルどおりにはいかないわけですか(笑)。

■相場の世界には,必ずライバルがいるわけですね。そいつを出し抜かなくちゃいけない。植物の応答の場合は出し抜く相手がいませんから,そのソフトで十分でした。

○植物の場合は、自分自身が出した二酸化炭素や酸素に対して自分自身も応答しているわけですよね。

■してます。なぜカオティックなシステムであるかというと、外界に対してなるべく早く応答できるように、フットワークを軽くするためだと思われます。
 周囲の環境ってすぐ変わるでしょ。光にしても雲がかげったり風が吹いたりして。それで光合成速度が下がったままじゃ、こんど光があたったときにすぐに反応できませんよね。すぐに応答できるようにしなくちゃいけない。

○はい。

■だからいつもふらふらしておいて、環境条件が変わったらすぐに応答できるようにしているわけです。

○そのふらふらっていうか、実体としての、生理的な部分の研究はあるんですか。

■それは難しいですよね。気孔の応答の非線形性といった要素が効いている可能性が高いのですが,結局、植物の細胞内の物質移動や生化学反応が全部分かっているわけではないので。

○将来的には全てモデル化するのが理想? たとえばe-cellみたいに?

■それは,化学反応の数がどのくらいあるかっていう話になりますよね。e-cellって、一生懸命,生化学反応をコレクションしているでしょ。ところが個体レベルの場合、反応の数がとてつもなく多いんですね。海辺で砂を一粒一粒集めるのに近い。人類の生存期間中に全部集まるかどうか怪しいくらいに。
 だからそれは方法論的に変えなくちゃダメでしょうね。全部列挙してパラメータを求めるというのは、しばらくブレイクスルーがない限り諦めて、分かった部分だけでうまくやる方法を見つけるとか…。

○やっぱりモデルで?

■そうです。
 もちろん、DNAでどこかをノックアウトするとある機能がなくなるとかいった分かりやすい部分もありますが,そういう部分はやはりごく限られてます。パソコンソフトで言えば、ここのソースコードを削ったらキーボード入力を受け付けなくなるとかいったものと同じですよ(笑)。こうやったら文字変換がうまくいかなくなるとかいう類のものは、ソースコードのどこか一カ所だけにあるわけじゃないでしょ。いろいろと複雑な組み合わせが効いてきますよね。

○コンピュータでも誰にも分からないって言いますよね。

■ええ。だから、分かっている部分だけでうまくモデル化する方法を考えないと行けないんです。

○ふーむ。

[17: 生きたインテリジェントビルが理想]

○コバエがけっこう多いですが、これ、みんな土の中から出てきたんですか。

■ええ、そうですよ。ここの環境収容力は一定ですから,本当に生態学の教科書みたいにどれだけ殺すかで好きなように個体数を決められるんですよ。

○殺す奴って、この電撃殺虫器ですよね。まさにコンビニに置いてあるような奴。

■ええ、そうです。これ、便利ですよ。死んだ虫の重さを量ればデータも採れますから(笑)。

○なるほど。

■余裕があったら、やっぱり実サイズで、これをビル全体に応用してみたいんですけどね。

○ん?

■インテリジェントビルとかですね。ビルごとやっちゃう。
 そのビルは植物が勝手に生えている生態系で、コンクリのところはみんな土とか芝生になっていて、オフィスはその土の上に直接机が置いてあるとか、ある人はハンモックの上でノートパソコン叩いてるとか。

○生きたビルですか。

■光の強さの制御とか、いろいろ細かくやらなくちゃいけないことありますけどね。

○それが理想?

■そうですね。技術的にはかなりクリアされています。たとえば,ここでは非常に強い光環境を作り出す光源にはマイクロウェーブランプという光源を使っています。またLEDもあり,これは非常に省エネにできます。国際宇宙ステーションの日本のモジュールはLEDを使うんですよ。もう一歩進んだ光源にはレーザーがあります。まだ青色レーザーで強力なのが市販されていないので白色にはなりませんが、植物の生育のためだけなら今の高出力レーザーで十分です。レーザー核融合用のレーザーがぴったりなんですよ。

○でかいんじゃないですか。

■ビームを拡散させて使うんです。パワーや効率はどんどん改良されているので,それを植物に使えばビルの中でもよく育つはずです。東海大の高辻先生のグループは植物工場向けのレーザー照明の実験をしていて,イネの栽培などにも成功しています。
 植物工場っていうのはエネルギー利用効率との闘いで,植物工場製の野菜の値段は半分以上が電気料金なんです。今の植物工場では、照明のために生じた熱を冷やすため冷房しているんですよ。そのため冷房がほとんど不要のエネルギー変換効率の高い人工光デバイスがあれば、劇的に安くなるわけです。

○ふーん…。

■ハードの問題は技術の進歩がものすごく速いので自然にクリアできるという面がありますが,問題なのはソフト的な部分です。

○技術の組み合わせ方ですね。

■そう、組み合わせ方とか、虫が出て来ちゃうぞ!とかですね(笑)。
 実際、ビルだったらいつか必ず出ますよね。誰かが卵を足の裏につけて来たりして。

○ええ。

■それを事前に取り除く方法を考えておけば、ビルはずっとメンテフリーでいけるわけです。

○メンテフリー…。メンテフリーっていってもだいぶイメージが違いますよね。じゃあ将来的にはとにかく、そうやってほったらかしておくのが理想だと?

■昔の農業にも粗放でも意外と育つという事例がありますから、可能でしょう。

[18: マーケティングから見た遺伝子組み換え体]

○遺伝子組み換え体でやっている人たちも、理想は粗放だと言いますよね。

次号へ続く…。

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  http://www.shokabo.co.jp/keyword/labo_autumn.html
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 テーマ−「知」はどこまで進化するか〜21世紀につなぐ科学の課題 11月18日(土)
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 11/1(土) 学習院大学(東京・目白)
 http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jps/jps/bbs/00koukai.html

■ U R L :
◇ProcessWorld ビジネスプロセスとITを結ぶポータルサイト
  http://www.processworld.ne.jp/

◇繊維ニュース 特集 「高齢者の世紀」が始まる
  http://www.sen-i-news.co.jp/2.0/seek.asp?id=20312

◇TRMM(熱帯降雨観測衛星)準リアルタイム画像およびデータの取得について
  http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/200009/trmm_000912_01_j.html

◇岩手大学工学部情報システム工学科横山研究室による三宅島山頂火口陥没の様子
  http://www2.remos.iwate-u.ac.jp/miyake/index.html

◇情報化白書2000
  http://www.jipdec.or.jp/chosa/hakusho2000/index.htm

◇動物愛護に関する世論調査 総理府
  http://www.sorifu.go.jp/survey/aigo/index.html

◇世界の環境ニュース 環境庁
  http://www.eic.or.jp/wepnews/200008.html

◇若田宇宙飛行士訓練レポート 第9回
  http://jem.tksc.nasda.go.jp/iss/3a/wakata_train09.html

◇医薬オンライン
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