NetScience Interview Mail
2000/09/28 Vol.116
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【平藤雅之(ひらふじ・まさゆき)@農林水産省 農業研究センター 研究情報部 モデル開発研究室 室長】

 研究:計算生物学、アグリインフォマティクス
 著書:バイオエキスパートシステムズ(コロナ社、ISBN4-339-02277-2)

ホームページ: http://model.narc.affrc.go.jp/

○計算生物学、アグリインフォマティクスの研究者、平藤雅之さんのお話をお届けします。
平藤さんの研究主題は「桃源郷」。
なんだそれ、と思った方は、本シリーズをお読み下さい。(編集部)



[18: マーケティングから見た遺伝子組み換え体]

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○遺伝子組み換え体でやっている人たちも、理想は粗放だと言いますよね。

■手間かけたくないっていうのは誰しも理想ですから。

○一方で、平藤さんは「組み換え体は不自然だ」と何回か仰いましたね…。

■消費者からみると、という話ですよ。「自分だけは組み換え体は食べたくない」っていう消費者が多いわけですよね。「お客さま」が食べたくないものを無理矢理食わせるっていうのは、マーケティングからするとどう考えてもおかしいわけです。そういうのは市場原理で淘汰されると思います。

○なるほど。
 一方で、いまは育てるほうにしか役に立たない組み換え体ですよね。消費者には得がない。それが、食う方、消費者が得するような組み換え体が出てきたら、市場はどう応答するのかなと思うんですけど。

■そのときには買う人もいるでしょうね。
 ただ、そのときもまたマーケティング上の激烈な戦いが起こると思うんです。「うちは伝統的な種子を使ってます」というところがあったり、「当社は組み換え体でビタミンがたくさん含まれています」というのがあったり。

○出てくるでしょうね。

■ある程度客はばらつくんじゃないでしょうかね。
 もっとも、イメージ戦では伝統的な方が勝つような気がします。もろに比較広告やると,組み替え体はちょっと弱いですね。「組み換え体では未知の組み替えが起こっているかもしれない」なんて言われると、反論の余地がないでしょ。比較広告では,ペンティアム3とアスロンの闘いみたいにお互いの欠点をあげつらいますからね(笑)。

○そうかも。

■いままでの農業ってそれがあんまりなかったので、普通の市場原理に従わない部分があるわけです。でも、やっぱり不利な商品ってリスクが高いですよね。これからは競争が激しくなると,不利な商品は減っていくような気がします。

○なるほど。農業、アグリビジネスということになると、花、花卉が非常に成功した商品だと思うんですけども、ああいう商品が今後ますます盛りたっていくだろうと?逆に支持されない商品は消えていくだろうと?

■そうでしょうね。でも,それは消費者にとっては良いことです。今までは選択肢が なかった上に,組み換え体を知らないうちに無理矢理食べさせられる可能性があった わけですから。昔、石油タンパクってあったでしょ。

○ありましたね。

■やっぱ食いたくないでしょ(笑)。

○まずいって言いますよね。

■少しぐらいうまくても嫌じゃないですか? 「石油タンパク」っていう言葉だけ で、いやなイメージが沸いて来ちゃうでしょ。商品イメージとしては,遺伝子組み換 え体は石油タンパクに似ている,と言われています。

○なるほどねー。

■だから、消費者の感性に反する商品は売れないんじゃないか、と思うわけなんです。

○組み換え体のみならず、宇宙開発にも少しそういうところがあったんじゃないでしょうか。

■あったと思います。消費者というか納税者の本当の欲求をちゃんと把握仕切れてないわけです。だから逆に、そこは凄いビジネスチャンスですよね。

[19: 小学生の頃から株価欄が好きだった]

○経済がお好きだったっていう話でしたね。大学の頃からそういうベクトルだったんですか。

■小学生の頃から株価欄は毎日見てました(笑)。大きくなったら、株で食っていくんだ!なんて思いながら(笑)。

○小学生が? 眺めていて面白かったんですか?

■あの頃、倒産しそうな会社の株価を見つたんです。ある日、一円で、翌日、3円になってたんですよ。どうしてここで儲けないんだろう?と子ども心に思いました。だから,将来試してみたい!なんて思ったわけです。
 株を売買できるようになったとき,実際に倒産した会社があって試してみたんですが,100万株とか注文しても実際には買えないんです。1万株とかしか買えない(笑)。一円で一万株買っても、それが3円になっても3万円ですよね。結局,儲からなかったけど,長年の疑問が解けました(笑)。そういえば,最近もそんな話がニュースになっていましたね。
 とにかく世の中の人があまり見てなくって、「やれば絶対うまくいくのに」ってところが妙に気になっちゃっうのです。

○ふーん…。しかし小学生のころですよね?

■株価欄って見てませんでしたか?

○見てないですよー。

[20:「桃源郷」研究のきっかけは農村調査だった]

○学部は結局?

■学部は農学部です。専攻は生物環境工学。

○それでどうしてAIとか数理生態とかだったんですか?

■あの分野では、AIやA−lifeとか数理生物は基本というか、かなりポピュラーなツールですよ。それにもともと農学分野っていうのは、農業○○学っていうのがたくさんあって、世の中の学問全部が混ざってます。
 学問の分類と役所の機構は違う論理で作られてますから、採用されるポジションは専門分野とかなりかけ離れちゃうんですよね。だから、配属先でまっさきにやった研究が農村高齢者の調査でした。

○??

■農村での高齢者の比率は都市部を10〜20年先行して増えていて、将来、「労働能力がどのくらい低下するのか?」、「食料生産能力を維持できるのか?」といったことを解析するプロジェクトが配属先でまたま走っていたんです。

○人口動態統計とか見ながらやってたわけですか。

■はい。それ以外に、行政と一緒に大量のアンケート調査や農村の一軒一軒に調査用紙持って聞き取り調査にも行きました。そのときに高齢者の生活実態を、目の当たりにしたわけです。
 そのときに思ったのが、「農業っていうのは実は、羨ましい職業になりつつある」ということだったんです。

○羨ましい職業?

■ええ。あの当時、農業っていうのは、3Kだとか貧乏だとか大変だとかいうイメージがあったんですよ。とくに僕は都会でずっと生活していましたから。

○はいはい。

■ところが、現実の農村に行ってみたら、みんな凄くリッチになってるんですね(笑)。家はでかいし、鶏が走っている庭をよく見ると豪勢な日本庭園でしょ。お茶の間のTVは驚くほどでかいし、庭の片隅にはベンツや高そうなクルマが何台もある。留守の家でも開けっ放しなので、調査員としては人がいるんだかいないんだか分かんなくて困りました(笑)。
 玄関で大声出して「すいません,調査に来ました」って入っていくと、親切にお茶菓子や果物やらをどんどん出してくれるんです。すると、これが新鮮で旨い。「こりゃなんなんだ」と(笑)。都会のサラリーマンに比べて、桁違いに羨ましい生活しているわけですよ。

○(笑)。

■先入観を一瞬にしてひっくり返されたんです。農村の高齢者は、趣味で野菜を育ててる人が多くて、けっこう収入も入るし生活が充実してるんです。統計データからも、毎日体や手を動かしているので、健康でしかもボケにくいことがはっきり出ました。あらゆる面で、都会のサラリーマンの老後を凌駕していたわけです。すごくショックを受けましたね。
 これって十数年も前の話ですよ。いまでも、農業は3Kだと思っている人多いで しょ。

○でしょうね。

、 ■それはたぶん、都会人にとって自分を守る心理学的補償効果なんでしょうね。現実を変えられないから今が一番いいんだと考えるようにする。ところが、実際に見ちゃうと、びっくりしちゃいますよ。

○ふむ。

■園芸療法というメンタルヘルス効果や植物が出すフィトンチッドの効果といった目 に見えない恩恵もいろいろあるでしょ。健康面では、明らかに都会生活は不利です。  僕の場合、出発点が都会にあるから「これはずるい!」と感じちゃいますね。だか ら、都会にも持って来るべきだ思うわけです。

○ははあ。ずっと都会の人だったわけですか。

■ええ。

○僕はずっと田舎の人ですからねえ…。

■ずるいって気が付かないでしょ(笑)。税金返せって言いたいですよ(笑)。

○そういうもんですかねえ(笑)。僕に言わせれば逆ですけどねえ。

[21: 研究も、多様な価値観に合わせて多様な目的を設定せよ]

■つまりその時の僕は、都市住民の典型的な反応をしたわけですね。自然生態系なんて東京には全然なくなっちゃたでしょ。だから、もし今、赤坂のマンションの中にあったらこれはものすごい贅沢です。
 経済原則から言うと、存在自体が貴重なものが、いちばん贅沢なわけです。逆にいちばん余っている資源を大量に消費することが、その時代時代の一番合理的な方法なんですね。昔だったら労働力が余っていたから人手を使うこと、今だったらシリコンやインターネットのバンド幅を大量に消費する分野が産業としては正解ですね。
 今、一番稀少なものは何かというと、自然生態系とか綺麗なせせらぎとかですね。

○実際、いまはそれを高く売っているわけですね。

次号へ続く…。

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