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2001/04/12 Vol.140
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【梶田秀司(かじた・しゅうじ)@機械技術研究所 ロボット工学部 運動機構研究室】

 研究:2足歩行ロボットの制御
 著書:『歩きだした未来の機械たち −ロボットとつき会う方法−』ポプラ社

ホームページ: http://www.mel.go.jp/soshiki/robot/undo/kajita.html

○二足歩行ロボット、その制御の研究者、梶田さんにお話を伺います。
ロボットブームではありますが、技術的な話はほとんど触れられていないようです。
素人でも、もうちょっと詳しいことが知りたくなりました。(編集部)



前号から続く (第11回)

[32: 企業 VS 研究者のコミュニティ、ロボット業界の「伽藍とバザール」]

科学技術ソフトウェア
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■僕がHRPやっていて凄くフラストレーション溜まるのは、一番キーの部分は、や っぱりホンダさんは教えてくれないんです。できれば、プロジェクトが終わったときに、こうすればヒューマノイド・ロボットは誰でも作れて、プログラムも基本的には こういう構成でこういうアルゴリズムで動きますよと。そういうものを見せることが 使命だと思うんですよ。企業秘密じゃないところで。
 それをやらないと、次にもっと良い物を作りたいというときに、生かすことができ ませんからね。

○はい。

■………結局、ロボットの研究って、すごく労働集約的で知識集約的だから、もう少 しなんか、オープンにしないと、その先がなんか…、発展しないというか。そこが困 ると思うんですよね…。
 というのは僕が僕なりの歩行のアルゴリズムを作ると思うんですけど、僕としては できれば、ソースまで、LINUXと同じで、オープンにして、ウェブに出しちゃいた い。
 それを他の研究者が見たとき、こんなやり方はないよなってんで、もうちょっと良 い物にしてくれるとかね。それが唯一、ホンダさんに対して──あれだけのマンパワ ーと資本投下をしているのに対して、研究者のコミュニティが対抗できる手段じゃな いかなと。

○そうでしょうね(笑)。少なくとも対抗してもらいたいなと思います。

■うん。少なくともその野望を持ってないとウソだと思うんです。ただしそのために は、お互いにソースを隠したり、「ここはウチの秘密です」とかいうことは、あっち ゃいかんと思うんですよ。少なくとも税金でやるんだから、納税者に対してはオープ ンであるべきじゃないかなあ、と思うんですけどねえ…。

○「ねえ…」ってなんですか(笑)。

■いやー、困るのは、ときどきね、一部の役所の人が「税金でやるが故に権利はしっかり保持しないといけない」という考え方をするんですよ。なかなか、ソースコード ・オープンなソフトって、実は出しづらいんですよ。唯一可能なのが、実験的に公開します、という手段です。

○ネットで昔、よくやってましたね。「実験ならオッケー」だから、「いつまでも実験」(笑)。

■ええ。でも、それでインターネットが育ってきたんですよね。確かに成果を結んでるじゃないですかね。

○はい。そうやって、みんなが何か面白いものを作ってくれるのであれば。

■ほら、Beastシリーズの山本さん(参照:http://www.aafarm.com/)がやられてる のはそういうことだと思うんですよね。びっくりするくらい貴重な情報が溢れてるん ですよ、あそこには。

○僕ら素人には分からないですけどね。山本さんは「そこそこの知識がある人間な ら、ホームページを見れば誰だって作れる」と仰ってましたが。

■そうですね。まあ、山本さんが思うほど誰だってできるわけじゃないと思うけど (笑)、第一歩としてあれは凄く貴重ですよ。しかも無料で公開されているわけです から。ああいうことができればいいなと。古田さん(青山学院大学、当時)もそういう方向ですね。開発されたコンピュータの情報を公開しようとか仰ってました。
 やっぱりLINUXのアプローチをマネできないかな、と思うんですよ。そもそも、研 究者のコミュニテイっていうのはお互いのノウハウを閉じ込めないでオープンにして お互いにコミュニケートしていくことでもっと良い物にしていこうというのがあった のに、まあ──。
 ホンダのショックのもう一つのところは、そうやって本来、うまくいって最先端にあるべきコミュニティをあっさり出し抜いて、あそこまで進んだものを作ってしまっ たというところですね。

○それは二重三重、色んな意味でショックだったんでしょ? そこは分かりますよ。

■ええ。我々のいまのコミュニティが構造的に間違っていたんじゃないかと思ったんです。あそこまで、差が、誰の目にも明らかに、言いつくろうことができないくらい差が開いてしまったっていうのがね…。

○そうですね。ぶっちぎってしまった感じがありますしね。しかも素人だけではなく、研究者の方にも衝撃を与えるくらいの技術がポーンと出てきてしまうっていうの は。

■そうですね。
 ホンダのロボットがカテドラル形式ならば、何とかバザール形式のロボット開発、 それしか対応できないんじゃないのかなあ。

○ロボット業界の「伽藍とバザール」ですね。

■ええ。そういうのができる素地はあるわけですよ。井藤さんの2足にしてもね(参照:http://www02.so-net.ne.jp/~itou/)。ああいうものを卓袱台で作っちゃう方が いるわけですから。

○ええ。僕も全くそう思います。それを期待します、としか言いようがないですけど (笑)。外野的には。

■ははは(笑)。
 ロボットの開発でね、割とテクニカルな部分、どこの会社の部品を使って、どんなコンピュータを使って、どんなパターンを設計して、いくらかかって、なんてのはね、論文には一切書かれないんですよね。一章でホラをふいて、2章3章でガタガタと数式は書くけど、実験ロボットに関しては、「こんなロボットを作りました」っていう写真一枚しかなかったりするんです。細かいところは本人に聞くしかなかったり、人によっては、“企業秘密”だから教えないって人もいます。

○ええ。

■ロボットの研究で一番コストがかかるのは論文になるアイデアではなくて、実証するためのハードを設計したり、ソフトを書いたりする部分なんです。そういうところを個人ベースでお互いに隠し合っているだけでは、永遠にホンダには勝てない。
 そこをもうちょっとオープンにして共有するしかないんです。

○ノウハウですね。

■ええ。ただ、僕に関しても自分に関してはノウハウを公開するぶんにはやぶさかじゃないんだけど、あんまりまだやってない。聞かれれば教えますけどね。今回のプロジェクトでそれができると良いですね。
 実は外野の人に御願いしたいのは、役所に対して、「そういうのが当然だよね」という雰囲気を作ってもらわないと。時として、国の研究所で、税金で作ったくせに、これは通産省の成果で云々とか、いつのまにか国のものだからということで、正当な対価を取って出さないとダメよ、という言い方をする人がいるんです。そのせいでなかなかフリーで出せないということもありますから。

○なるほど。外野からの雰囲気づくりも大切なんですね。

[33: 最近の若い人はみんな優秀!]

○インタビュー・メールって、学生とか、院生の読者がけっこう多いと思うんですよ。そういう方へも一言頂けると嬉しいんですが。

■いやー、最近の若い人はすごいなと思わせられる人ばかりですよ。みんな凄く優秀で。ちょっと前まで、学生が勉強しないとか、基礎的なものを知らないとか言われていたけど、最近の学生は、景気が悪いせいですかね(笑)、真面目に勉強しているし、いい仕事をするし、感心させられてばっかりなんですけど(笑)。

○じゃあ、みんなこの調子でガンバレということですね(笑)。

■ええ。ロボットの学生さんに言えることは──。うーん、そうですねえ。ちょっと前まではロボットはソフトウェアの部分が弱かったんですよ。ある意味。プログラムが下手な部分があったんだけど、最近はそれもないからなあ。オープンコードのおかけでみんな綺麗なソースコード書くし(笑)。

○(笑)。

■いや、すごく大事なんですよ、お互いに共同開発するためには。読みやすいプログラムを書いていかないといけない(笑)。

[34: やることはまだまだある]

○最後にもう一度、ロボットのアプリケーションについてのお考えをお聞かせ願えますか。繰り返しになるかもしれませんが。ロボットの用途ははたしてエンターテイメント? 緊急車両代わり? 軍事? 医療? いったいなんでしょう。

■アイボみたいなやり方はありでしょう。2足もそれが一番考えられると思いますよ。2歩脚で歩く愛玩ロボットをっていう動きはあるみたいだと聞きますし。青学のロボットもいい仕事していると思います。技術的にはぜんぜん問題ないですから。ホビー用ならこけても大丈夫ですしね。

○でも、家庭内で歩かせるとなると、よけい不整地突破能力必要ですよ。

■そこは四つ足で這うとかね。そういう機構を作りこんでやればいいんじゃないでしょうか。
 研究していても、周辺デバイスがでかくて困ってるんですよ、僕らは(笑)。アイボなんか、あんなコンパクトな中に16個もモーターがついてますよね。しかもカメラもある。こないだ思いついたんだけど、あれをP3の手につけてやれば4本指のロボットできちゃうなあと。指って関節多くて、小型化難しいんですよ。

○じゃあ、「プラレス三四郎」を目指したほうが技術は進む?

■うん。そう思う。軍事はおいといて、医療技術用にP3みたいなのがガチョンガチョン歩くというのは考えにくいですからね。
 ただし僕はね、歩行技術の本質はバランス制御技術だと思っているんです。本質はね、200キロもあるような重いものを、ごく狭い平面で支えながら思いのまま動かすということが可能ならば、たとえばフォークリフトなんかももっと小さくなるかも しれないでしょう。

○なるほど。

■そうすれば、あんな大きなウエィト部分は必要なくなるかもしれない。そういうニーズはいっぱいある。応用技術としては出てくるだろうと思います。

○うーん。なるほど。でも、それはアポロ計画からテフロン加工のフライパンが出てきたみたいに言われかねない話じゃないですか?

■ははは、そうかもしれない(笑)。
 しかしいつまでも今のままのやり方やってていいのかっていうのは確かにありますね。でも、国の研究所くらい許してもらいたいんですけどね、動物園として(笑)。

○動物園?

■うん、ときどき見に来ると今度は指がついているとか(笑)。

○(笑)。

■モータの性能はまだ上がるでしょうから、走って歩くロボットは研究ターゲットにするには今はいいかもしれませんね。とにかく底上げされれば面白いものが出てくるかもしれない。
 あとは、AIの人でしょうね。そこで何か決定的に新しいものが出てこないと、面白いものものは出てこないでしょうね。こいつは確かにものを認識して行動してる、っていうふうになってほしいと僕も思います。

○ええ。

■ポスト・ブルックスみたいな人ですね。面白い人が出てきて欲しいんです。ハード そのものはどんどん良くなってきます。部品は小さくなる、バッテリーもよくなる。 「まるいち的風景」(柳原望 白泉社花とゆめCOMICS)っていうマンガに出てくるような、プレイバック学習なんだけど、さらに学習していく、そういうものがリーズナブルなコストでできるようになれば、世の中変わるかもしれませんね。うん。なんでできないんでしょうね?

○え? それはこっちの質問ですよー(笑)。

■知能…、ビジョン…。視覚にしたって、まだ見たものの三次元的モデルを作るのがやっとですからね。何が足りないんだろ。次はビジョンの人と手を組んでやってみたいですね。目で見てものを判断して動く。そこをやってみないと、何か意味があることができないとね。単にボールを追いかけるだけではなく。

○ボールを追いかけるにしても、「あれがボールだ」と認識して動くとか、動作計画するとか。

■そうそう。ヒューマノイドにしてもそいつが自発的に積み木遊びをするようになったら面白いですね。知能のあるものを作り上げる。実用性としては分からないけど  サイエンスとしては面白いですね。

○いや、それができないと普通の人のほうが満足しないでしょう。ロボットに関しては普通の人の期待値のほうが高いですよ。

■そうかもしれませんね。
 我々は頭の中に世の中のいろんなものの表象を持っている。知識の中に。それをなんで表現できないんでしょうね。どこの研究室でもそれができていない。なぜできないのか?

○結局、問題はそこでしょうか。

■そうだと思います。

○やることはまだまだある、ということですね。
 今日はまた、いろんな話を伺ってしまいました。
 本日はどうも、ありがとうございました。

【2000/11/06 通産省工業技術院 機械技術研究所にて】

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*次号からは行動遺伝学の研究者・安藤寿康さんへのインタビューをお送りします。


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◇パーソナル検索エージェントMobeet
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◇アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計 Atacama Large Millimeter/Submillimeter Arrayの国際協力による推進が決定
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◇環境goo 加藤敏春によるウェブ講義 エコマネー:リナックス型イノベーションを起こし、真の環境調和型社会を実現する。
http://eco.goo.ne.jp/magazine/lesson/lesson.html

◇読売新聞 白血病新薬開発へPCボランティア募集
http://www.yomiuri.co.jp/04/20010404i302.htm

◇宇宙ステーションキッズページ
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◇アストロアーツ、ケータイで星座を探すためのコンテンツ「星座をさがそ」を公開
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