NetScience Interview Mail 2004/03/18 Vol.269 |
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研究:運動の学習と制御の神経機構、脳内の時間順序表現メカニズム
著書:小脳における上肢随意運動の学習機構の解明.
『ブレインサイエンスレビュー2001』(伊藤正男,川合述史編/医学書院、2001:216-243.)
到達運動の制御と学習の神経機構.
『脳の高次機能』(丹治順,吉澤修治編/朝倉書店,2001:106-118.)
研究室ホームページ:http://www.med.juntendo.ac.jp/kenkyu/09index.html(建設予定)
研究内容の参考になるウェブサイト:
▼HFSP NewsLetter No.13 ―多才な運動を実現する脳の機構の解明へ―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no13/nl-05.html
▼HFSP NewsLetter No.17 ―ノイズが開く運動制御の可能性―
http://jhfsp.jsf.or.jp/news/letter/no17/nl-03.html
▼AIST Research Hot Line 手の交差で時間が逆転 ―脳の中の時間―
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol01_06/vol01_6_p12.pdf
○腕をコップに向けて伸ばす、このような運動を「到達運動」と言います。このとき、脳のなかでは腕を制御するためにある種の計算が行われていると考えられています。ではそれはどのような規範に基づいているのでしょうか。北澤先生はこのような運動制御における小脳の役割について研究しておられます。
また、北澤先生は実に不思議な現象を発見しました。右左の手をポンポンと叩く。どちらが先に叩かれたのかは、目をつぶっていても分かります。ところが、腕を交叉するとこの時間順序の判定が逆転するというのです。これはいったい何を意味するのでしょうか。
身近な身体に関する研究の話です。不思議なことは私たちのすぐそばにいくらでもあるということを感じて頂ければと思います。(編集部)
…前号から続く (第6回)
■Nicolelisたちはですね、マルチ電極から取ってきた脳のシグナルで、手先の軌跡を予想してるんですね。目標軌道を造ってるんです。実際の軌道と合うように計算するわけですね。そこのところは、ニューラルネットを入れてみたり、ARでしたっけ、線形の自己回帰モデルを使って推定しています。データを何ステップ分か使って線形に手先の位置座表に変換するような係数を10分ごとに実際のデータと合うようにアップデートしながら使っています。(Wessberg J, Stambaugh CR, Kralik JD et al.(2000) Real-time prediction of hand trajectory by ensembles of cortical neurons in primates. Nature 408: 361-365.) ○なるほど。 ■Nicolelis達じゃないグループも一次運動野などの複数のニューロンの活動を同時記録して、対象のコントロールに使っています。例えば、7−30個の一次運動野のニューロン活動を単純なリニアモデルで変換して、コンピュータ画面のカーソルコントロールをサルに行わせた、そういう報告もあるんですね (Serruya et al. Nature 416:141-142. 2002) 。 ○はい。
■ちょっとご覧になりますか?(ビデオ Serruya et al. Nature 416:141-142. 2002のsupplementary informationでダウンロード可能) ○ふーむ。 ■僕らがやろうとしているところも運動の意志を取り出すというところはそのまま同じなんです。最後の制御のところにランダムウォーク仮説を入れてやろうと。
○なるほど。
■僕のイメージでは、脳幹あるいは脊髄のなかに埋め込まれているパターンジェネレータの自由度で制限されていると思っています。もともと非常に素朴なパターンジェネレーターが脳幹あるいは脊髄のなかに埋め込まれていて、ここでいえばハイロウのコントローラーみたいなものですね。そういうものが入っていて、そのパターンジェネレーターのなかで、小脳がチューンできるパラメーターがたかだか3個くらい、ハイとロウとタイミング、くらいだとランダムウォークも3次元に押さえ込めるのではないか、と考えています。 ○なるほど。
■つまり、コントローラー自体の自由度が小さいと、ランダムウォークの自由度も、結局のところは落とし込むことができるだろうと。そういう考えです。
■ランダムウォークに頼って、本当に一番良いところに収束させようとすると、徐々に徐々にステップ幅を小さくする、いわゆるアニーリングが必要になるでしょう、とよく言われます。しかし、それにはとても時間がかかるし素朴な生物には高級すぎる気がします。ランダムウォーク仮説では、一個一個のコントローラは常に動き続けて最適のところからも逃げてしまいますが、逆に、動ける範囲はある程度の時間で行き尽くすことができるような状況を考えています。そこにある程度、コントローラの数を増やしておくと、全体の和としてはベストのところに重みづけされて出力が出てくる、ということです。最適化を捨てているわけですが、逆に複数のコントローラを足して使うことで、1個の能力では作れない、かなり質のいい出力が出てくる可能性がある。 ○確かにそのやり方は、すごく生き物っぽいですよね。生物時計とかでも小さいユニットがいっぱいあって、それ全体がまとまって一つになってるそうですが。 ■各々のコントローラーは誤差に突き動かされているだけで、全体のことは知らないけれど、足してみると個々の能力を超えた力を発揮している……。 ○全部を合計すると、うまくいってると。
○イメージとして、出力はどういう形になってるんでしょうか。人間の体って、300だとかあるいはもっと多くの、もの凄い数のアクチュエータがあるわけですよね。そのへんが……。
■これは手ごわい質問です。「複数のコントローラ」などと言っているけれど、それはどこに一体何個あるのか。 ○はい。
■口をもぐもぐさせる咀嚼運動のパターンジェネレータは脳幹の延髄網様体にあります。 ○ふむ。なるほど。そこまでは分かります。 ■では、手をものに伸ばす運動、これには専用のコントローラがあると思いますか?こんなに「随意的な」運動にまで専用コントローラを準備していたらきりがないですよね。 ○ええ。 ■ところが、2002年に、あっと驚くような報告がありました。サルの大脳皮質の一次運動野を0.5秒電気刺激すると、なんと、サルが手を伸ばした。しかも速度波形はベル型の滑らかな運動だった、ということです。(Graziano,M.S., Taylor,C.S. &Moore,T. Complex movements evoked by microstimulation of precentral cortex. Neuron 34, 841-851, 2002) ○へえ〜〜。それは面白い(笑)。
■刺激場所を変えると、行く先も変わったというからもっと驚きです。手を伸ばすための「コントローラ」にスイッチが入ったようにも見えます。が、手を伸ばすコントローラがあるのかないのか、それは定かではありません。
○脳幹にサッケードのコントローラがあるということですが、それは1個ではないんですか。ランダムウォーク仮説ではそのコントローラーは一体何個必要なんでしょうか。そのへんをもう一度。
■脳幹の中のサッケードの「コントローラ」の中に複数のサブコントローラがあるのでは、というイメージです。シミュレーションでは3−4個でも、結構よい出力を出してくれます。本当に複数のサブコントローラがあるのか、またそれは何個か、と聞かれると、証拠がないので答えに困るのですが。 ○お願いします。 ■サッケードに関係する小脳虫部のプルキンエ細胞は、室頂核に出力を送ります。この室頂核が脳幹のサッケードの「コントローラ」を構成するニューロンに投射しています。プルキンエ細胞の変化が、室頂核経由でサッケードのコントローラをチューニングする構造になっています。 ○はい。 ■ここで、ランダムウォークの駆動力は登上線維信号が与えていたことを思い出してください。実は、一本の登上線維は10個くらいのプルキンエ細胞を支配しています。さらに、登上線維の本体がある脳幹の下オリーブ核の細胞同士は10個程度が電気的に結合しているということなので、約100のオーダーのプルキンエ細胞が、同一の登上線維信号でドライブされていると考えてよいと思います。この100個が1パックになってランダムウォークします。その変化の影響は室頂核を介して、サッケードコントローラの「一部」に変化を与えるはずです。この100個1パックの変化の影響を受ける脳幹のエリアが1個のサブコントローラだ、と考えてみるわけです。 ○ふーむ。 ■そうすると、何パックのプルキンエ細胞が、サッケードコントローラに影響を与えるか、が知りたいですね。せっかくですから、推定してみましょう。実はですね、似たような登上線維信号を受けて、似た性質の小脳核に出力を送る小脳の領域を指して、「マイクロゾーン」と呼ぶことがあります。オスカーソンが1970年代に提唱した概念です。大脳皮質の「コラム構造」の小脳版のようなものをイメージしてもらえばよいですかね。そのマイクロゾーンの大きさは、だいたい10平方ミリメートルで5000個のプルキンエ細胞を含んでいると言われています。となると、100個1パックは1マイクロゾーンに50パックはいる余地があります。つまり、1マイクロゾーンあたり50個程度の独立なパックがランダムウォークしうる構造になっているだろう。 ○ふーむ。 ■プルキンエ細胞が出力を送る室頂核のような核を小脳核と総称しますが、小脳核1個の細胞にはおよそ30個のプルキンエ細胞が収束すると推定されています。そうすると1パック100個のプルキンエ細胞は、およそ3個の室頂核の細胞を介して、サッケードコントローラに影響を与えることになります。ずいぶん、次元が下がった感じがしませんか? ○はい。
■パック同士の出力が、独立にサッケードコントローラに影響を与えるのかどうか、は不明ですが、例えば、右向きのサッケードのコントローラの調整に、1マイクロゾーン=50パックのプルキンエ細胞群が割り当てられていても、それほど悪くないんじゃないか。50個でランダムウォークすれば、50個の平均は結構定常になって、良い出力を出してくれるだろう。 ○なるほど。ちょっとイメージが湧いてきました。 ○次号へ続く…。
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