NetScience Interview Mail
1998/12/10 Vol.032
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◆This Week Person:

◆Person of This Week:
【中田節也(なかだ・せつや)@東京大学 地震研究所 火山噴火予知研究推進センター 助教授】
 研究:火山岩岩石学
 著書:『火山とマグマ』(共著、東京大学出版会)
    『防災』(共著、東京大学出版会)
    ほか

 ホームページ:http://hakone.eri.u-tokyo.ac.jp/vrc/nakada/index.html

○今回も火山の研究者、中田節也氏にお伺いします。
 前回に続き脱ガスと火山性微動について、そして、そもそも噴火はなぜ起こるのかについて伺います。
 7回連続予定。(編集部)



前号から続く (第2回/全7回)

[03: 「泡おこし」と火山性微動]

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○先生は今でも普賢岳を研究なさってらっしゃるんですよね?

■ええ、普賢岳の噴火のデータは重要なことを沢山含んでいますからね。たしかに現象的には溶岩ドームがどうできあがって、それがどう崩れて、火砕流がどう流れたかということも面白いんですが、それはもう終わったことでね、追跡していたのである程度分かりましたからね。
 そうじゃなくて、マグマ溜まりの中でそもそもどういう状態でマグマがあってね、それがどういうきっかけで地上に向かって移動し始めて、どういう風にうまくガスを逃がして、固くなって上がってこれられたのかに興味があるわけですよ。一旦、途中で噴火が終わったように見えたんですけどね、ところが、また噴火を盛り返したんですね。これはどういくことで再噴火したのかって、いろいろ溜めていた溶岩試料を使って解読しようとしているんですよ。

○いまはどこにスポットをあてていらっしゃるんですか?

■やっぱり普賢岳のボーリングということが念頭にありますから、ボーリングでねらっている、火道の出口付近で何が起こっているかということですね。
 既にいろんなモデルがあるんですよね。そのモデルの中でどれが一番正しいか。さらにいま自分が持っているデータで、それらのモデルをどう改良できるか。さらにボーリングを掘ってみたら、そのモデルの何がどう検証できるかということを整理して、研究の成果を効果的に得るにはどうしたら良いかって頭を絞っているんですけどね。

○何がどう、というのは脱ガスがどういう過程を経て起こるか、ということですね? 色々なモデルと仰いますが、どんなモデルがあるんでしょうか?

■マグマが地上に近づくと、マグマの中に溶け込んでいたガスが出てくるわけですね。圧力によってマグマに対する水の溶解度が違うからそういうことが起こるんですけど、泡がだんだん、成長してきますよね。そうして、さっき言ったように泡が60%を超えて「泡おこし」のようになっちゃうと、泡同士の隔壁が破れて、隔壁からどんどんガスが逃げていく。これが一つのモデルですね。

○ええ。

■それから別のモデルもあって、地下のあるところで液体とガスがありますよね。泡が軽くて浮力を持つわけですね。で、一つの流れとしてみた時に、泡のできかたにムラがあると、泡の多い部分だけが固まって上がってしまうってことがあるんです。サラサラの溶岩の時は間欠的な爆発的な噴火になるんですけどね。でも、パイプの中を泡を含んだ粘り気の高い溶岩が流れると、泡がパイプの壁側に寄っちゃうらしいんです。そして泡を伝ってパイプの壁からガスが逃げてしまうと考えられているんです。だから、泡が抜けた液体だけがパイプの真ん中を先に流れてしまうらしいんです。そうやって泡と液体が分離するんだ、と。そういうモデルもあります。

○マグマ溜まりの中で、ってことですか?

■マグマ溜まりの中で泡がどれだけできてしまっているかどうかはよくわからないんですよ。それより、上昇し始めてからできる泡の量が圧倒的に多いんです。だから、火道の中で、横方向に泡の多い少ないの分布ができるし、地表近くで泡おこしのようにもなるんです。

○火道で、ということですね。横方向にというのは?

■さっき言ったように、真ん中は液体だけで、端っこの方に泡だけが移動していくと。

○ああ、なるほど…。それは面白いですね。メルトと気泡が別々に流れると。
 そういう現象が起きるとすると、火山性微動なんかもそこから説明できたりするんじゃないですか? それは乱流とかのモデルにそっくりですが…。

■ええ、まったくそうです。実は僕は火山性微動が曲者というか、カギを握ってると思ってるんです。ああいう微動というのは非常に周期が長いんですよね。そういうのは、固体が割れるときよりも、固まりかけた溶岩が割れるとか、泡が弾けるときに起こると、一般的には言われてるんですよ。

○はい。

■で、例えば微動がどこで起こるかというと、普賢岳でいうと、溶岩ドームの真下なんですよね。いま言ったように泡の多い少ないで流れがおきるとすると、それはもっと深いところから起きていいと思うんですね。マグマが揮発性成分に飽和して、泡ができ始めたたところからそういう流れが起きると考えられるわけですから。

○ええ。

■ずっと浅いところだけで微動が起こっていたから、たぶん、最初言ったような「泡おこし」のようなものが、あるところで突然潰れると。なぜ潰れるかというと、泡ができはじめて軽くなった下のマグマからどんどん押されるし、泡の周囲のマグマからは自身はどんどんガスが逃げますから、ガラスのようになっていてちょっとした刺激でパリンパリ割れて粉々になりますから。
 そうすると中に入ってたガスが、一カ所に集中するかどうかは分かりませんが、ある時に割れ目を作ってブーッと抜け出す。そういうときに火山性微動が起きるんじゃないかと予想しているんですけどね。

○じゃあアワがピチピチパチパチ弾けるのが火山性微動ではないかということですか。

■そうですね。弾けるだけじゃなくて、どこか一カ所だけに集中してブーッ、ブーッと流れる音じゃないかということですね。

○パルス状に、ある程度溜まってきたらぐうっと流れる音が微動なのではないかということですね。なるほど。

[04: そもそも噴火はなぜ起こるのか]

○そういう脱ガスによる圧力低下の流れがありますね。それとは別に上昇してくるマグマの流れがあって、その均衡が崩れると噴火に繋がるのではないかというイメージなんですか。

■えーっとね、噴火というのはまた別の問題なんですよ。
 噴火が起こらない状態というのは、マグマが溜まっている上にもともと岩盤があるか、あるいは一度噴火した山であれば火道に溶岩などで栓ができるかどうかですね。で、噴火が始まるというのはそういう岩盤や栓を破壊する現象ですよね。岩盤を破壊するほどの圧力が高まってから、ガスとマグマの集合体が一気にポンと出るのが噴火なんですよ。だから流れかたというより、下の圧力が如何に高まるかによって決まるわけです。

○ええ、問題のレベルが違うというのは分かりますが、脱ガスが起こるときというのはマグマの供給が起こるときではないんですか?

■ええ、もちろんそうですよ。

○それで、噴火について私が一番不思議だと思うのは「なんでマグマが上昇し始めるのか」ということなんです。どの本を読んでもそのことについては書かれてない。でも噴火というのは基本的にそういう現象ですよね…。

■ああ、なるほど…。
 とにかく噴火が起きるときに何が起こるかというと、普通は火山性地震がものすごく多くなりますよね。それはマグマが岩盤をミシミシ割ってるんですよね。ミシミシ割ってるっていうのは下のマグマの圧力が高まっているのが原因ですよね。たとえばマグマ溜まりのてっぺんにマグマが上昇し始める割れ目ができるかというと、ある容積を持ったマグマ溜まりに対して、その中にたくさんものが外から入ってくるとか、何らかの原因で、その中の体積がひとりでに増えて、圧力が高くなって、入れ物が割れちゃうためなんですよね。

○ええ、ええ。

■多分、噴火の仕方っていうのは簡単にいうと二通りあって、一つは、マグマ溜まりの中に、下からマグマを入れてやるんです。そうするとトコロテン式に地上に押し出されると。

○はい。

■もう一つは、自発的に起こるというのもあるんですよ。

○自発的に?

■それはどうしてかというと、地下にマグマをおいておくと、だんだん冷えてくるわけですね。周りはより低温ですから、熱伝導でだんだん冷えていく。そうすると、マグマの中に結晶がどんどんできてくるんですよ。

○はい。

■で、結晶の中には水がほとんど入らないんですよ。揮発性成分はほとんど入らない。だから結晶化していくと、揮発性成分がどんどん液体の方に濃集して行くわけです。残液っていうんですけどね。で、その残液はやがて揮発性成分に飽和しちゃうわけですよ。つまり泡ができるということですね。泡ができるかどうかというのは周りがどれだけ押さえつけているかにもよるんですけど、とにかくどんどん結晶化作用が進んじゃうと、マグマ溜まりの上の方で、発泡がどーんと起こっちゃうわけです。発泡が起こっちゃうと、溶けていた水よりも、ガスのほうが圧倒的に体積が大きいから、圧力が急激に高まるわけです。

○なるほど。そうやって自分で自分を押しちゃうわけですか。

■そうです。

○雲仙の場合はどうだったんですか。雲仙は4000年ごとに噴火を起こしているそうですが、どうしてそんなに規則的に起こるのかというのは分かってるんですか?

■分かってません。分かってません、というか、大問題なんですよ。山ごとに噴火のサイクルがあるというのは何となく分かるんだけど、どうしてそんな風になっているかというのは分かっていないんですよ。

○理論や仮説はないんですか?

■もちろん非常に単純な考え方はありますよ。火山によっては何千年に一回噴火する、っていうのがありますよね。噴火ごとに噴出したマグマのvolumeを順に足していって時間との関係を見ると、直線的に変化するんですよ。噴出のレートっていうわけなんですが、ある時代のスパンを取ってみると一定なんですね。つまり単位時間ごとの噴出量が一定ということです。で、噴出量というのは熱エネルギーにほぼ換算できるわけです。つまり、山からの熱の放出レートというのは、ある期間で見ると一定なわけですね。

○はい。

■火山自体は熱を放出するだけで、それは一種の熱の通り道なんですよね。だからそれよりも、熱源がもっと下にあって、そこが根源でどんどんマグマが火山の下に供給されるんだろうと。で、マグマ溜まりに定期的に下からインプットがあるとそのうちアウトプットがないとおかしいだろうと。だからそういうおおもとの熱源が噴出レートをコントロールしているんじゃないかという単純な考え方はあります。ただ、それがどうして山ごとに異なっていて、しかもサイクリックなのは何故かということは、ほとんど分かってないんです。

○それだと、なんていうんでしょうか、「下から供給されているからそのうち上から出てくるだろう。で、途中で溜めるタンクがあってその大きさが変わらなければ、定期的に出てくるよ」というのは、はっきり言っちゃうと、誰でも分かりますよね(笑)。そこから先っていうのは?

■それはね…(笑)、いまの火山学ではそれ以上は分からないんですよ。マグマ溜まりに対して地下から、どういうサイクルで来ているのかというのはぜんぜん分かってないんですよ。あるいはどのくらいの率で出ているのか。まあこれは噴出量を見ていれば分かるんですけど、ひょっとしたらマグマ溜まりの中だけで起きている現象かもしれないし、下から来ているものが何%寄与している現象であるとか、おおもとがどのくらいのエネルギーかということは、ほとんど分かってないんですよ。

○下からずーっと供給されているのか、断続的に供給されているのかについても分からないんですか?

■下については分からないですね。マグマ溜まりよりさらに下のおおもとからのことについては、ほとんどデータがないんです。

○マグマ溜まりから上については、だいぶ分かってきているんですか。

■上については、出てきたモノを見れば、直前に起こっている現象がある程度は分かっるようになってきている。
 だけど、どこどこ火山のマグマ溜まりのvolumeはどのくらいですか、と言われると、突然分からなくなるんです。

○ふーむ。普通の人からすると「まだそれも分からないのか」って思うかもしれないですね。

■そうかもしれないですね(笑)。

○さきほどのビールの例えだと、ビール瓶にどれくらい入っているか分からないということですよね。ほんのちょっとかもしれないし、いっぱい入っているかもしれない。出てこないと分からないというか。

■そうです。

次号へ続く…。

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