NetScience Interview Mail
1999/01/21 Vol.037
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◆This Week Person:

◆Person of This Week:
【中田節也(なかだ・せつや)@東京大学 地震研究所 火山噴火予知研究推進センター 助教授】
 研究:火山岩岩石学
 著書:『火山とマグマ』(共著、東京大学出版会)
    『防災』(共著、東京大学出版会)
    ほか

 ホームページ:http://hakone.eri.u-tokyo.ac.jp/vrc/nakada/index.html

○火山の研究者、中田節也氏にお伺いします。今回が最終回です。
 7回連続。(編集部)



前号から続く (第7回/全7回)

[22: 火山研究者になった理由]

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○中田先生はどうして火山の研究をするようになったんですか?

■それはね、丸山茂徳さん(東工大、<ネットサイエンス・インタビュー・メール>Vol.6, 7, 8, 9、http://www.moriyama.com/netscience/Maruyama_Shigenori/index.html 参照)と深い関係があるんですよ。

○中田先生から丸山先生は、金沢大学時代の先輩にあたるんですよね。

■うん。大学の3年のときだったかな、丸山さんが巡検に連れていってくれたんですよ。正確に言えば巡検のリーダーが丸山さんだったわけ。あれは石川県の医王山のほうだったんだけど、あそこはみんな第三紀の火山岩なんですよね。その中に立派な岩脈があるわけですよ。特殊な形状をしている岩脈が。マグマがどうして入ってこの岩脈ができたかということを丸山さんが蕩々と語ってくれたわけ。それが非常に印象的でね、忘れられなかった。それで僕は火山をやろうと思ったわけ。

○ほう…。

■それで4年から火山をやりはじめたわけ。だから丸山さんがいなかったら火山学やってなかったかもしれない。あのころは丸山さんも若々しかったね(笑)。

○(笑)。先生からご覧になって、プルームテクトニクスの話とかはどうなんですか。あるいは他の地球科学の研究で、注目なさっているものはありますか?

■うん、やっぱり丸山さんの話なんかは面白いよね。他は地球ができるときや惑星ができるときの話とかも面白いし。

○先生が研究していらっしゃる火山とは、またスケールが全然違う話ですよね。

■違いますね。

○それなのにあの辺の話が特に面白いというのは、ちょっと意外な気もしますけども。もっと同じスケールの話を挙げられるかと思ってましたが…。

■あの辺の話はスケールが違うでしょう。火山を扱うというのはどちらかというと庶民的な印象ですよね。

○浮き世離れしてない?

■そうですね。
 逆にプルームテクトニクスの話なんかは、うまい表現はないけど「夢をおった話」ですよね。もちろん、火山に夢がないわけじゃないんだけど(笑)。

○そりゃそうでしょう(笑)。

■ああいうマントルプリュームの話も細かく突き詰めていくと、眉唾的なところが結構あるんですよね。例えば、プリュームは本当にああいう形で上がるの、とか。

○それはよく言われているようですね。

■うん。そういう細かいことやりだしたらきりがないでしょ。火山学を含んで学問全体にある程度そういうところがあるんじゃないでしょうかね。もっと細かいところをドンドンつついているような気がしないでもないですけどね。でも本当に噴火様式の違う原因を突き詰めていくためにはそこら辺が分からないと、何も分からないんですよね。

[23: マグマ溜まり]

○そうでしょうね。
 先生は20年以上火山の研究を続けていらっしゃっているわけですが、どこが面白いと思っていらっしゃるんでしょうか?

■ひとたび噴火が起きるともの凄いダイナミックな現象が起きますよね──噴火っていうのは非常に強烈ですからね。それがどうして起こるか、誰でも考えたくなりますよね。どうしてあんなに凄まじい噴火を起こすのか。
 雲仙やる前は何に興味があったかというと、マグマ溜まりでは何が起こっているのか、地上に出ている石から解読したいと思ったんですよ。
 その少し前は花崗岩をやってましたからね。マグマ溜まりの「化石」──地上に出た石と、対比させて、どうして地下にああいう大きな空間ができて、その中で何が起こっているのかきちんと知りたいと思っていたのです。

○空間はどうしてできるんですか?

■それにはまた色んな考え方があって…(笑)。

○先生のお考えは?

■ん、僕の考え? どれだけの規模を考えるかですよ。雲仙くらいの規模のものであれば、例えばまず岩脈が入ってくるわけです。最初はとにかく押し分けて入ってくるわけですね。そして、周りをだんだん溶かしていく。で、溶かしていきながら、やがて噴火能力を失うと、固まってしまうんです。そこでまた次の岩脈が入ってきて、周りをまた溶かしていく。で、最終的に、最初の固まったものの溶け残った部分がありますよね。それと次に入ってきたモノの溶け残った部分が入ってきて、溶け残りを巻き込んで溶かしていく。そうしてどんどん大きくなっていくんだと思うんですよね。
 他の先生の考え方だと、阿蘇っていうのはでかいカルデラを作るだけのマグマ溜まりがあったわけですよね。あれをどう考えるかというと、実は一つの大きいものではなくて、ブドウの房のように小さいモノが寄せ集まっただけであるという考えが一つあるんです。それが一つ本質じゃないかと思うんです。

○でも、なぜそこにはブドウの房のように集まってくるのかとか、なぜ雲仙は一つだけなのかとか、そういうことはどうなんでしょう?

■分かってませんね。分かってないし、大規模な噴火をしてドスンと落ちた奴は大きいだろうとみんな思うんですよね。だけど、阿蘇の場合のように噴出物を万遍なく、全方向で、きちんと分析してみると、ある方向に流れたものと、ちょっとずれた方向へ流れたモノでは化学組成が違ったりするわけですよ。化学組成が違うっていうことは、地下のマグマ溜まりで違う液体として存在していないといけないですよね。だからさっきのようなブドウの房モデルが出るわけですよ。
 ほかのカルデラ火山でもよく調べていくと、大分違うんですよね、化学組成が。だから大きなものが一つあったわけではなくって、なんでか知らないけどブドウの房みたいなのがあったんだろうと考えられているわけです。もちろんブドウの房みたいなのができるっていうことは、そのまた下に大きな熱源がないとダメですけどね。

○雲仙の場合も、横に古いマグマ溜まりがあるんでしょう、今でも? 眉山のことですが。

■ええ、あると思ってますよ。

○でもそこからは上がってこずに、別のところから上がってきたわけですよね。あれは何でですか?

■どうしですかねえ(笑)。分かりません。不思議ですねえ(笑)。

○(笑)。「どうして」っていうことがあまりに多すぎますね。

■でもまあ「どうしてどうして」っていうことは科学には常につきまとうものですからね。

○この辺の問題をやっていらっしゃる方はいらっしゃるんですか?

■ええと、正直言って、それはいないですね。

○それは研究のアプローチの方法が見つからないからですか?

■うん、それと、そこにモチベーションがないからかもしれませんね。いや、モチベーションはあっても良いんだけど、勝算がないとやれないでしょ。

○どこを見れば、あるいはどう見ればっていうことから潰していかないと、研究しようがないからですか。

■そう。模擬実験をやるにしても、やたら「やったら良い」っていうもんじゃないからね。実験のセッティングで、既に制約条件を加えているわけだから。

○そうですね。うーん、難しい。

[24: 社会と地震研]

○地震研は東大出身の方が多いんですか。

■いや、最近はそうでもないですね。僕自身もそうじゃないし。ここは色んなとこから人を引っ張って来るんですよ。読売巨人軍みたいに(笑)。

○ホームページにもお書きになってましたね(笑)。

■ええ。それに、いまは大学院の枠を増やしているから、東大学部卒だけじゃ埋まらないんですよね。それに、東大から東大へっていうのは良くない。東大しか知らないなんて、何も知らないのとほぼ同じですよ。

○研究者は色々なところを見て回ったほうがいいというお考えですか。

■そうですね。それもありますよ。でも、卒業大学にそのまま残るのがよくないと思う理由は、上下関係ですよ。人事関係。例えば、理学部を出て、地震研に来たとするでしょ。するとこの人は、自分が教わった先生がそのまま上司になっちゃう。それはまずいんですよ。対等に口きけなくなっちゃうから。途端に自由な発言ができなくなっちゃうんですよ。

○いわゆる弟子師匠関係ですか。そういう関係を作るなということですか?

■いや、作るなと言ってもできてきちゃいますからね。でも、そういう人事はしないほうがいい。それは、上に立つ人が、この人は一遍外に出すんだ、すぐには取らないんだという思想がない限りは難しいですね。で、やっぱりしょうがなくて、内部だけでは大した人間が育たないから、もちろん極端に言えばの話ですよ、外部からある程度の業績のある人を引っ張ってくるわけです。それでしか対外的にアピールできなくなってきているん可能性があるんです。

○でも地震とか噴火とかあったら、やっぱりみんなここへ来るんじゃないんですか。マスコミとか、社会的要請とかは、「東大地震研」へと思って…

■うん、だからと思ってくるわけですよ。でもそんなことはなくて、どこへ行っても同じなんですよ。東京にあるから来やすいし、東大だからまあいいかあ、ってなもんですよ。

○それはあると思います(笑)。

■でも、正直言って、ここの研究レベルがそんなに高いわけじゃないんですよ。

○ここの名前は「噴火予知研究推進センター」ってことになっているんですよね…?

■それは全国的な位置づけとして、そうならざるを得なかったんですよ。僕も含めて、地震研の人達が国際的に目を見張る研究をしているかというと、必ずしもそうじゃないです。

[25: 良い研究者とは、ポイントを得た研究をしている人]

○ふーむ。先生のお考えになる良い研究者とは?

■ああ、それは、ポイントを得た研究をしている人ですよ。

○ポイントを得た研究?

■論文の数じゃなくってね。二番煎じではなくて、自分の発想で、この分野ではこういうところが欠けている、というところを突いた研究です。

○そういう研究っていうのは、年季が入らないとできないんじゃないですか?

■いや、それは関係ないですね。かえって年季が入ると頭が固化しちゃってね。さっき言ったような、フォーマットに決まったことしかできなくなるから。その人の取り巻く環境がいつもリフレッシュされていると、若い人でも良い研究できますよ。頭がいいだけじゃなくてね。

○例えば、火山学だと? 先生の独断というか、主観で構わないですが…。

■ああ、ある大学の若い助手とか、良い点を突いてますよね。それは、溶岩の中にね、ある結晶が入っていますね。その結晶の拡散パターンがどういう熱履歴を経てきたかとか、どういう風に急冷されてきたかとかいったことを解析する手法を開発したんですね。アイデアもあるけども、ある程度の才能や環境もないとできないですよね。

○数理モデルなんですか?

■モデルもあるけど、自分がとってきたサンプルからデータを吸い上げて、解析したものです。

○それは確かに面白そうですね。そういうことから分かるもんなんですね。

■うん、だからそういう発想がないとポイントを得た研究はダメだよね。

○拡散パターンなんか読みとれるもんなんですね。どうやって読みとるんですか?

■ああ、それはEPMAで結晶の元素組成のマッピングするんですよ。そうすると元素の多い少ないの濃淡が出るでしょ。その距離と濃度の関係を拡散パターンとして解読するんです。拡散速度がわかればそのパターンができた時間がわかるんですよ。

○でもそれは、火道の中の、本当の微細構造で、たまたまそうなっていただけじゃないかという可能性は? 特に火道の中が乱流になっているとすると…。

■うん、違うかもしれないでしょ。だからいくつも結晶で調べて平均的なものを使うんですよ。

○ええ、それは分かりますけど、どこのサンプルを取っているかも分からないわけですよね、今は。火道を輪切りにして、サンプルを取っているわけではないし、乱流だとよけい…。

■うん、だからボーリングをしてそういう形でサンプルを取ることを目指しているんですよ。で、今はそこのところで一つ仮定が入ってるんです。あるいは火道の真ん中だけしか流れなかったりすると、といった形で制約条件がある。でもそういう制約条件があっても、ある程度光るポイントがある。こういう制約条件があっても生き残るポイントがあるんです。

○なるほど。火山はいろいろとやることが多そうですね。
 本日はどうも有り難うございました。

【998/11/04、東京大学地震研究所にて】

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◇次号からは、日本の月探査計画に従事する春山純一さんのインタビューをお送りする予定です。



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■URL:
◇日本物理学会 第54回年会プログラム
http://nacsis.jps.or.jp/jps/Prog/99ann/

◇平成9年(1997年)版 化学物質と環境(環境庁)
http://www.eic.or.jp/eanet/kurohon/1997/index.html

◇向井宇宙飛行士が詠んだ「上の句」に応える「下の句」の表彰について
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