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2002/01/31 Vol.173
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【篠原正典(しのはら・まさのり)@財団法人 環境科学技術研究所 環境シミュレーション研究部 研究員】

 研究:動物行動学
 著書:「イルカ・クジラ学(仮題)」(共著、東海大学出版会 2002年6月出版予定)

○財団法人 環境科学技術研究所 環境シミュレーション研究部の篠原正典さんのお話を配信致します。環境科学技術研究所では人工閉鎖環境、通称ミニ地球の研究が行われており、篠原さんはそのなかに入って生活を行う予定になっています。(編集部)



…前号から続く (第4回)

[10: 宇宙開発に憧れた時期もあったが……]

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■大昔に溯るんですけど、もともと宇宙開発が好きだったんです。いつぐらいかなあ。中学生〜高校に入るときくらいですかね。宇宙開発事業団に行きたいなと思ってた。

○まあ、理系の人間なら大なり小なり一度は思うんじゃないでしょうか(笑)。

■うん。一度も思わなかった人間はいないでしょうね。高校に入るときにも簡単な面接があったんですけど、そのときにも、将来は宇宙開発事業団に入って工学系の研究者になりたいと答えたのを覚えてます。
 毛利さんが選ばれたときに、宇宙飛行士になるのは諦めたんですよ。

○なぜですか?

■向こうでは宇宙飛行士は当たり前になっていたし、日本でも宇宙飛行士が選ばれて飛ぶ時代になったら、普通の職業になっちゃうじゃないですか。はじめはパイオニアではあるけども、それが日常的なことになってしまったら。もちろん、選ばれなくちゃいけないから、なるのは大変だけど、一つの職業であることには変わりない。そう思うと魅力が乏しくなっちゃったんです。
 で、毛利さんだったか土井さんだったか忘れたんですが、逆立ちしてる写真が新聞にのっていて。僕は逆立ちもできないしなあと思って(笑)。

○(笑)。

■そういうバックグラウンドはあったんです。ISSの搭乗員候補者が選ばれたときの募集要項は取り寄せたりはしてましたから。でもそれを見てると、やっぱり宇宙飛行士は自分の知的好奇心で動けるわけじゃない。ミッションの中で「歯車」として働くわけです。こんな言い方は失礼ですが。でもやっぱり、職場は宇宙であっても、社会的注目度は高くても、一つの「仕事」、与えられる仕事をこなす人でしかない。研究者というより、ミッションスペシャリスト、ペイロードスペシャリスト、搭乗員なんですよね。自分でいろいろ計画できるわけでもないし、乗せてもらって帰ってくる。実験のテーマにしても募集したものだし。

○でも、これ、CEEFの中でも、ミッションスペシャリストと同じ様なことをすることになるのでは?

■うん、思いっきしそうなんですよね。ただ、こういう閉鎖系の中で「暮らす」ということ自体が少ない。

○まあ、閉鎖環境の中で「暮らす」という行為そのものもミッションの一つですからね。

[11: 閉鎖環境はなぜストレスになるのだろうか]

■ただ、いろいろ読んでみたり聞いてみたりしたんですけど、普通に暮らしている人が普通に味わっていることとあまり変わらないんじゃないか、それの連続線上にあるなという気が最近はしてるんです。

○普通の会社の中での生活とあまり変わらないだろうと?

■うん。『ドラゴンフライ』(筑摩書房)とか読んでみても、閉鎖環境とか宇宙空間ということよりも、人間関係とかのほうが主題になってますよね。逆に自然が相手とかのほうが人間は強いんじゃないかと。

○まあ、人間は社会的な動物ですからね。ソーシャルなストレスのほうに弱いというのは、まあ分かりやすい。

■そうです。

○それは以前のご専門からすると、どうなんですか(笑)? 動物行動学をやってらした立場からすると、なぜ人間が社会的ストレスにここまで弱くなってしまったのかという問題には、興味あるんじゃないですか?

■ええ。おもいっきし興味ありますね。
 やっぱり、必要な情報が流れているということが、ソーシャルな動物にとっては大事なことなんだろうなと思うんですよ。いつでも情報が得られるというのは、人間に特有じゃないですか。外界に対する情報って、個体の流動によって得られるものだと思うんですよ。

○「個体の流動」とは?

■だから、死んでいったり新しく生まれてきたり、ジーンフロー、要するに地域集団と地域集団との間で個体が移動し遺伝子流動が起きたりするじゃないですか。社会性の動物は必ず個体が出入りする生活になってると思うんですよ。それが個体の精神的安定に、大きく寄与するんじゃないかと思うんですよ。

○物理的な、個体の移動や流入・流出が、ですか。

■うん。ジーンフロー自体は遺伝子レベルでのバックグラウンドがあって説明がきちっとつくでしょ。でもそこで個体が移動して、新しい知恵だとか新しい環境に対する情報であるとか、新しい社会環境の構築などが起こるとか。
 生活のなかで日常的に流れているのがソーシャルな情報だと思うんですよ。それが閉ざされちゃいますから。閉鎖環境では。それが不安に繋がるのではないかと。もちろん、そんなことは意識にはないでしょうけど。実際、宇宙に長期滞在する宇宙飛行士でも、地上との無線交信が頻繁にできたり、メールが使えるようになったことが、かなり、大きな心理サポートになってるそうですし。
 ま、すごく不勉強で中途半端な話しかできませんが。

○ふむ。心理学の人たちに是非研究してもらいたいですね。

■そういうことを調べるのも進化心理学でできるでしょうね。逆にそういう視点がないとダメでしょうね。

○アドバイザーみたいな方はいらっしゃるんでしょ?

■ええ。客員みたいな形で、早稲田大学の心理学の先生が、アドバイスを下さいます。また、お医者さんもいます。宇宙飛行士の健康管理をなさっているNASDAの先生。海底基地で働くアクアノーツなどを視野に入れ、高圧チャンバーを使った閉鎖実験をされているJAMSTECの先生。圧をかけても人間は、大丈夫は大丈夫らしいんです。問題になるのはやっぱり外とのやりとりとか中での社会的・心理的なことだそうです。それで色々な大学の先生と一緒に共同研究を続けていると聞きます。

○ネットや電話のやりとりはオッケーなんですか。

■うん、大丈夫です。ただ、内容は全部チェックされることになってます。まあ研究者に見られるのはいいんですけど、嫁さんに見られるとちょっと困るかもしれませんね。日常生活の不満とか、逆に満足とかも、書けなくなりますからね(笑)。

○奥さんはよく許してくれましたね。だって、旦那さんが4ヶ月くらい、よく分からないところに出張しちゃうようなもんでしょ。

■うん、でもイルカをやっていた頃もそうでしたからね。

○なるほど(笑)。

[12: 心理的ストレス、運動、余暇そのほか]

○閉鎖系では何人を入れるかというのが大事だと言いますよね。よく、3人が安定しているといった話は聞きますけど、CEEFの場合は二人ですよね。いま選ばれているのは。そのへんはどうなんですか?

■ええ。最初は一人でもいいかという話もあったそうなんですが、JAMSTECの先生が一人だと危なくなることがあるというご意見で。JAMSTECは高圧チャンバーだから、出るときにも減圧しないといけないじゃないですか。それで一人だと、その人自身が、生理的にも精神的にもまいってきちゃっても、対処のしようがない。

○なるほど。

■外から入るわけにも行かないし、内からパッと出るわけにも行かないですからね。それで複数人にしろと。

○必ず面倒を見る相手が必要なわけですね。

■そうです。CEEFは、内からでも外からでも、ガラッといつでも開けられるんでその手の危険はないと思うんですけど、やっぱり一人は危ないかもしれないと。

○確かにね。
 心理学的に起こるだろうイベントは実験に組み込まれてないんですか。

■それはこれからですね。いま先生方に、どんな心理学的実験をやっているのかを尋ねているところです。やっぱりなにがしかの−−集中力はどうなっているのかとか、作業性はどうなっているのかといった試験をしているそうです。医学的生理学的な検査に加え。
 僕らの場合は、植物育ててる間にも、なにがしかの試験項目は設けたほうがいいだろうなと思ってます。植物を育てること自体、プラスにせよマイナスにせよ、どういう効果があるか分かるでしょうから。

○それ以外の時間は何をやることになってるんですか。いわゆる余暇の時間は。

■うん、仮に余暇があっても、何もできることがないんで、本でも読んでようかと思ってますけどね。たとえ土日を休みにしてもらっても、できることがないですからね(笑)。宇宙空間だったら地球を眺めたり星を眺めたりできるでしょうけども。六ヶ所村のあの建物のなかですからね。天窓はありますけど。植物栽培区に。

○そよ風もないですもんね。空調の風以外は。

■ええ。音もけっこううるさいんですよ。巨大なエアコンでしきりのない各区を0.1℃単位でコントロールしてますから。

○ああ。宇宙ステーションなどでも騒音はけっこう問題だそうですね。騒音や振動。

■そうですね。

○それもまたストレスになりそうですね。

■ええ。そのへんもまだ評価されてないんで、音環境とか光環境とか。まあ自然光も入ってきますからあまり気にしなくてもいいと思うんですけど、弱い人工光だけだとリズムに悪影響があるという報告があるじゃないですか。だからそういうことも入る前に測らなくちゃいけないなと思ってるんですけど。

○自分の体も自分で測っておかないといけないですね(笑)。

■体はあまり変わらないと思うんですけど。

○運動はできるんですか。

■エルゴメーターとトレッドミルは入ってます。

○運動と読書、ビデオを見る以外やることないじゃないですか。休みの日って。

■うん。だから何もすることがない間に、いろいろなことを深く考えたいなと思ってます。普段は何かしらやってるでしょ。だから何もしないで、一人で考えごとをするつもりです。本当に何もできないぞという状況になれば、本当に考えなくちゃいけないことを考えるだろうと思うんです。

○ははあ。僕には無理ですねー。まあ、普段の六畳間が閉鎖環境みたいなものですけど(笑)。

次号へ続く…。

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