NetScience Interview Mail
2001/01/11 Vol.128
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【隅藏康一(すみくら・こういち)@東京大学 先端科学技術研究センター 知的財産権大部門・科学技術財産法分野】

 研究:知的財産政策・知的財産法
 著書:蛋白質核酸酵素・9月増刊号『再生医学と生命科学---生殖工学・幹細胞工学・組織工学』(共著、発行:共立出版)
    『ゲノム創薬の新潮流』(共著、発行:シーエムシー)

ホームページ: http://www.bio.rcast.u-tokyo.ac.jp/~sumikura/

○知的財産政策・知的財産法の研究者、隅藏康一さんのお話をお届けします。
テーマは「科学技術と特許」。
ゲノム・プロジェクトやバイオ産業の進展とともに、いま科学領域内外から注目を浴びているジャンルです。(編集部)



前号から続く (第9回)

[33: 科学技術と社会の接点になりたい]

科学技術ソフトウェア
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○隅藏先生はどうして知的財産権といった分野に?

■そうですね。高校くらいのときから、色々なことに興味があったんですよ(笑)。特に、科学技術の社会的な側面に関心があって、学園祭でそういう企画をやったりしていたんです。進路については、当時から理系でも文系でもいいかなと思ってましたが、どういうわけか、深い意味もなく理系に行ってしまいました。大学に行って講義を聴いてみると、そのなかでは選択科目の生化学が新鮮で面白かったんです。DNAからRNAができて、蛋白質ができてといった、セントラルドグマとかがね。

○ふむ。

■東大では2年から3年になるときに進路振り分けというのがあるんですよ。最初はみんな教養学部ですから。そのときに初めて専攻を決めると。
 で、そのとき、科学技術政策の方面に進める学科にするか、生物化学にするか迷ったんですよね。で、生化学は面白かったんでもうちょっとやりたいなと。それで理学部の生物化学科に行きました。まあ、まだ白楽ロックビル先生の『博士号とる?とらない?』のような本も出ていない頃だったので(笑)、バイオの研究者とはどういうものなのかという情報もないまま、えいやっと飛び込んだという感じでした。

○(笑)。

■それで4年生になると特定の研究室に配属されて、修士へ上がっていったわけです。その段階で、将来どういうことをしようかなと、かなりじっくり考えました。もちろんそのときやっていた生化学の研究も面白かったんですが、安直にそれを続けるのでなく、さしあたって根本から人生設計を考えてみようと。
 修士1年のときは──いま考えると、同じ研究室の先生方、先輩方はみんな寛大だったなあと思うんですが──いろんな研究室を歩き回って話を聞きにいったり、他学部の授業を聴講しにいったりしてました。
 その段階で、実は、科学ジャーナリストというのも面白いなあと思ったりしたんです。要するに自分が何をしたいかというと、科学技術と社会の接点になりたい。そういう仕事がしたいというのがあったんです。ですからシンクタンクのような政策提言をする機関にもひかれました。あと科学技術政策を大学のなかで考えるといったことにも。

○はい。

■また、科学技術と社会の関係ということで、科学史を専門的に勉強してみようか、ということも考えていました。まあ、当時は、知的財産権なんて部門はなかったし、あるとも思っていませんでした。で、いろいろな人に話を聞いていたんですが、どうせだったら生物化学をもうちょっとやってから、そして大学院を卒業するくらいになってから、社会の接点になるようなことをやったほうが良いんじゃないかとアドバイスをもらいました。いま考えても良いアドバイスだったなと思うんです。

○ええ。

■科学技術と社会の接点といってもいろんな人がいろんなことをやってるんですが、どうせだったら「今までにない分野を作りたいなあ」と。こう言ってしまうと、話が大きすぎるんですけど(笑)。
 既存の分野のなかで何かやるよりは、分野自体を作ってみたいなというのがあったんです。

○なるほど。

■それで、博士課程に進学して、何年かは、どんな切り口で新しい分野を作ったらよいかを見極めるための勉強をしようと思いました。
 ただ、理学部の生物化学科の方々もみなさんいい人たちで私を好きなようにさせてくれたんですが、理学部にいると、イマイチ他の分野の情報が入って来にくい、というのがあったんですね。

○ふむ。

■そこで大学のなかの便覧を調べてみると、この先端研というのがあって、博士課程の学生を取っているというのが分かったんです。で、そのなかでですね、これまでの線で生命科学の研究を続けながら、いろいろな人に会って、どんな新しい分野がありうるのか見極めようと思ったんですね。

○なるほど。

[34: コンビナトリアル・ケミストリー]

■博士課程の時にわたしがやっていた研究はコンビナトリアル・ケミストリーに関連するものです。これは初めの頃に言いました、ハイスループット・スクリーニングというのに関係しているんです。

○それはどういうものですか。

■ペプチドっていうのはアミノ酸がいくつか並んだもので、DNAは4種類の塩基が並んだものですね。こういう特定のいくつかのものが並んだものを、自然界からとってくるのが普通のやりかたですが、人工的に作るにはどうすればいいかと。ポリマーを作るときに、何をどう並べれば特定の機能を持つものが作れるのか、という問題があるわけですね。

○ええ。

■そういうのを作るときに、一つの可能性としては、ぜんぶを何十万種類かランダムにつくってみて、一つ一つを調べるという方法もあるわけですが、それはコストもかかるし実際的ではない。
 もう一つは、そういうのを設計するときに、まずはランダムにいくつか作ってみましょうと。そういったものを10個とか20個ほど作りましょうと。そして、それらの活性、得たい機能を測りましょうと。それらの上位のものだけを残しておいて、それらを、遺伝子がシャッフリングするように、配列の組み替えとか突然変異とかを導入して、次の世代を作るのです。要するに進化のメカニズムですね。

○なるほど。

■そしてそれらの活性を測って、また上位のものだけを残していくということを5世代か6世代にわたって行うと、実際に特定の機能を持つものができてきまして。そういう手法ですね。

○ふむふむ。

■つまり、進化のメカニズムを用いてポリマーをデザインするというものです。

○それ自体も面白いですね。そちらをある意味で捨ててしまったわけですが……?

■僕はドクターをとったら社会と科学の接点の研究をしようと心に決めていたんで。最初に、先端研の生命科学系の先生のところにはじめて行ったときに、「私はドクターを取ったらそういう方向へ行くんで、生命科学の実験分野の研究をするのは大学院の間だけです」と言っちゃったんです。あとで考えると、よくそんな学生とったなあと思います(笑)。

○(笑)。

■その先生も面白い奴がいると思って下さったんでしょうけどね(笑)。

[35: 知的財産権大部門へ]

■大学院時代も、本業の博士論文の研究一筋という感じでもなく、科学技術史とか科学技術論の先生方に話を聞いたり、当時先端研の客員教授だった立花隆さんのグループに入って課外活動を行ったりもしてました。

○ああ、先端研探検団でしたっけ。確かにあれは趣味の領域ですね(笑)。

■そうですね(笑)。あんまり一般性はないですが、私にとっては画期的な経験でしたね。この話をすると長くなるので、ウェブのアドレスをお伝えするにとどめましょう。http://www.bio.rcast.u-tokyo.ac.jp/~tanken/です。

○興味のある方はそちらを見て頂くということで。
 それで?

■先端研で大学院博士課程をやっていたときに、自分の研究を実際に特許出願する機会などもありましてね。それで、弁理士の方たちと接点があったりして、どうも、理工系の出身者で特許のことを研究している人はいないようだと。でも今後、バイオとか遺伝子のこと、情報科学など、トピックもたくさんあるということがわかってきたので、知的財産権という切り口から科学技術と社会の接点の探求をはじめようかなと思い始めたんです。

○工学まわりの人もいなかったんですか?

■弁理士のかたで、薬学部出身で特許庁に入って、そのあと弁理士になった、というかたはいらっしゃいます。ここの客員教授ですけども。バイオ特許の実務に関しては、日本ではおそらくこの方の右に出る人はいないのではないでしょうか。この方以外にも、特許実務をやっておられる方で、理工系出身の方は何人もおられます。
 とにかく、こういう方々との出会いがあって、「それでは自分は大学を拠点としつつ、知的財産権の研究をじっくりやってみよう。知的財産権をとっかかりとして、科学技術と社会の関係を構想するような、新しい分野を作ってみよう」と思うようになったのです。

○その頃に知的財産権大部門というのができたんですか。

■そうですね。大部門としてできたのは97年で、私が入ったのは98年なんで。そのときは教授一人しかいなかったんですけども、徐々に教官の数も増えてきています。今思うと、理工系出身の人を欲しいと思っていた時期と、私が卒業したときがたまたまちょうど一致したんですね。

○それで「ちょうどいいや」と(笑)。

■ラッキーだったんですよね。ふつう、別の分野へ行こうとして、すぐに職があるというのはなかなかね。もともと職がたくさんある領域でもないですし。

○これからはニーズが増えてくるでしょう。

■そうですね。だから新しい分野を一緒に切り開こうという志を持った人たちと、先ほど申した「知的財産マネジメント研究会」のようなグループを作って、人と人とのネットワークを形成し、情報を発信していきたいなと思っているんですけどね。
 ということで、新しい分野を立ち上げようという漠然とした思いから始まって、ここ数年で少し具体的な姿が見えてきたところなんですが、まだまだやっと入口に立ったにすぎないように思います。

[36: 特許は科学技術政策である]

○本日お伺いした話で、特許というのは単なる権利がどうしたという話ではなく、科学技術政策論的なことなんだ、ということが分かりました。

■そうですね。特許というのは裁判例を読むことも重要なんですけど、結局政策なんです。法律でこうあるべき、といってもそのとおりになるわけでもないんです。法律でこう解釈してみると、過去の裁判例がこうだから、今回はこう考えるべきである、といったことだけで終わる話ではなく、政策的に、今後これをこう保護したいから、こういう制度を作ろうという側面もあるものなんですね。政策的な面が一番のキーになっていると私は考えています。

○そこから逆に法律を決めていこうと。

■ええ。だから法律家の方々だけで決められる問題でもないんです。この間出席したスウェーデンのシンポジウムなんかは面白くて、法律家と経済学者、それぞれで知的財産権のことを研究している人の集まりだったんですが、どっちも話が噛み合わないんですね。経済学者は法律家から見れば、ありもしないような数学モデルを立てて、疑わしい前提の上で話をしているんじゃないかという感じがある。経済学者から法律家をみると、単にロジックを組み立てるばかりで一般性があるのか、単なる事例の紹介じゃないかとなるんですね。そういうわけでまったく話が噛み合わない。
 まあ、そういう人たちを集めて、パーティとかをしているうちに、だんだんうち解けていってくれれば、というのが主催者たちのねらいだったんでしょうけど(笑)。

○よくあることでは。

■それぞれの分野に「文法」があるんですよね。どんな対象をどういうふうに料理したら業績として認められるとか。そのなかで、新しい分野を作るということは、新しい文法を作るということなのか、それとも文法はあえて作らないのか。
 新しい文法をつくると、またその文法にとらわれてしまうわけで、文法は敢えて作らないほうがいいのか、という問題がありますね。
 かといって、法律家にも経済学者にも理工系の人にもそっぽを向かれるような研究では意味がないわけで、それぞれの方向もある程度向いてないといけない。ですからいまは方法論を模索している段階ですね。

[37: バイオベンチャーの今後]

○遺伝子ビジネスは、まだビジネスモデルとしても浅いですよね。ほとんどは、単なる投機対象でしかない。だから株価が乱高下する。バイオベンチャーは今後どうなるんでしょうかね。先生はどうお考えですか。

■もちろんゲノムビジネスに対する期待が高まるなかで、失敗例も成功例も出てくるでしょうね。母集団が大きくないと成功例は出てきませんから、関心が向くことはいいことなんですけどね。
 そういうこと言い出すと、アメリカは失敗を許容するから母集団がいっぱい出て来るんだという話に落ち着いてしまうことが多々あって、じゃあどうするのかというところまでなかなかいけないんですけれども。

○うーん。
 いま、いろいろな企業が手を出してきて、いろんな事例が出てきてますよね。その一個一個は面白いんですよ、確かに。でも、それがなんなのかっていうのがいま一つね…。アメリカはこういう状況だ、日本もガンバレ、みたいな論調もありますけど、それは何か違うような気がするんで。

■ええ。ちょっと話の切り口が違うかもしれませんが、日本にだけ軸足を置くのは違いますね。極端な話をしますと、ある大学のTLOが、地域振興のために、その県内の企業にしかライセンスをしない、と決めたとします。で、その県内に大学の技術分野に対応する企業がいくつもないとすると、技術移転も進みませんし、地域振興にもなりませんよね。
 それと同じことで、「日本のために」というスタンスは一歩踏み外すと、これと同じことになっちゃいますよね。

○はい。なんていうんでしょうね。10年後くらいに、バイオや遺伝子が与える影響というのが、いったいどうなってるんだろうというのがいま一つよくわからないんですよね。確かにいろいろなチップが出てきて、そろそろ治験が終わった薬も出てきて、といったかたちになるだろうといったことは分かるんですけど、そのときの産業構造っていうか、社会はどうなってるんだろうということが…。

■たとえば、大手製薬会社は全部分社化されて、分野別に特化した小規模な企業ばっかりになってるとか、逆にベンチャーは全部大手に吸収合併されてしまうとか、そういうことですか? それ以外のパターンとして、今のベンチャーが、かなり大きな企業に成長しているとか? ジェネンテックやアムジェンはすでにかなり大きな会社になってますが。

○そうですねえ…。そういうことも含めてですね。ITなんかは、そういうことがあったわけじゃないですか。

■ソニーだって最初は小さなところだったわけですしね。
 ま、全部が大きな会社になる必要はないわけで、小さな会社で基礎研究と応用研究の橋渡しをしたりする事業もあっていいと思いますが。

○ええ。業界としてどうなるかということですね。バイオ業界。あるいは業態。

[38: 今後、バイオ業界、そしてその中にいる研究者たちはどうなるのか]

■それは難しい質問ですね。10年後20年後になると「バイオ業界ってあるのか」っていう質問に近いですね。

次号へ続く…。

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 会期:2001年1月18日(木)〜1月19日(金) 会場:神戸国際展示場

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◇「NASDA NEWS」最新号(No.230 2001年1月号)
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/News/News-j/230index.htm

◇朝日新聞 ようこそ未来診察室へ
http://www.asahi.com/20-21c/21c/dna/index.html

◇朝日新聞 2001年大検証 未来はどこまで当たったのか
http://www.asahi.com/20-21c/21c/pred/index.html

◇毎日新聞 新・神への挑戦
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/details/science/kami/200101/01-1.html

◇日本経済新聞 特集:インタビュー2001年
http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt37/

◇日本経済新聞 特集:技術創世紀
http://www.nikkei.co.jp/sp2/nt18/

◇読売新聞 ようこそ21世紀
http://www.yomiuri.co.jp/21C/

◇zdnet 特集:2001年のITトレンド大予測
http://www.zdnet.co.jp/news/special/2001.html?0101011710

◇科学技術者のための総合リソースガイド・NetScience
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NetScience Interview Mail Vol.128 2000/01/11発行 (配信数:23,955 部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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