NetScience Interview Mail
1998/09/03 Vol.019
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◆This Week Person:

◆This Week Person:
【田口善弘(たぐち・よしひろ)@中央大学 理学部 物理学科 助教授】
 研究:粉粒体動力学、非線形物理
 著書:「砂時計の七不思議」中公新書
    ほか

ホームページ:http://www.granular.com/tag/index-j.html

○今回から粉粒体など非線形物理の研究者、田口善弘さんへのインタビューをお届けします。田口さんは弊誌と合併した<インタラクティブ・サイエンスコラム・メイル>の編集人や、日本物理学会刊行の『大学の物理教育』誌などの編集人を務めるなど、科学の教育・普及にも熱心に活動しておられます。
第一回の今回は、粉粒体とは一体どんなものなのかについて伺います。
6回連続予定。(編集部)



○本誌と合併したメールニュース<インタラクティブ・サイエンスコラム・メイル>の読者の方々は、首を長くして田口さんの登場を待っていたと思いますよ。

■だと良いんですけど(笑)。

[01: 「粉粒体」とは何か]

○まず、「粉粒体」とは何か、教えて頂けますか。

■粒々が多数集まったものですよ。粒々がいっぱい集まると、変わった振る舞いをするようになるんです。混ぜようと思っても、簡単には混ざらないし、流体でもなく固体でもない振る舞いです。で、この粉粒体の挙動を演繹して推測することは、非常に難しいのです。
 典型的には砂とか米粒だとか、そういうものが粉粒体なんですが、同じ様なものがいろいろ集まっていれば、それは粉粒体とみなすことができます。例えば道路の上を走っている車だとか、満員電車の中の人間だとかも粉粒体としてみなせますし、現象だと、雪崩や液状化現象、土石流などは、典型的な粉粒体の挙動を示します。だから「粉粒体」というのは、「気体」だとか「液体」だとかと同じように、「状態」を示す言葉でもあります。

[02: 粉粒体の不思議な挙動]

○粉粒体の不思議な挙動の、例を教えて頂けますか。

■たとえば、粉粒体を容器に入れて、上下に揺すると何が起きるか。ただ揺らしているだけなのに、まるで液体のように対流が起きて、中心が盛り上がるんです。どうしてそういうことが起きているのかは分かっていません。ですが、これは数値計算でも再現されているので、実験のミスとか、そういうものではないことは確かです。

○同じ大きさの球がいっぱい集まってぶつかるあうだけでそういう現象が起きるわけですか。

■そうです。他にも面白い現象がいろいろあります。例えば、斜面の上に粉粒体を流すとどういう現象が起きるか。これはつまり、土石流や雪崩、火砕流などのモデルでもあります。こういう状態の粉粒体には特徴があって、流れているときは液体のようですが、止まった途端に固体になってしまいます。

○雪崩や土石流の大きな特徴ですね。

■ええ。ついさっきまで液体のように流れていたものが、止まった途端に固まってしまうんです。雪崩に遭ったら泳げと言いますね。そういう言葉はここから来ているわけですが、実際にはそんなことはできません。これには、それどころではない、という理由以外に、もう一つ理由があります。
 雪崩用の遭難防止用具というものがあるんだそうですが、これは、ヒモを引くとバルーンが膨らむ、というものです。そうするとなぜか雪崩に巻き込まれても下の方に生き埋めにならないのです。これは別に、軽いから浮かび上がるというわけではありません。

○どういう理由なんですか。

■粉粒体には、大きいモノは上に上がる、という性質があるのです。大小の球を混ぜて斜面を流すと、大きい球が浮かび上がってきます。球の密度は同じなのに、ただ「大きい」というだけで浮かび上がって来るんですよ。
 だから、土石流などでは大変なことになってしまうわけです。大きいモノ、つまり巨石や巨木は上に浮かび上がってきますね。しかも下の方は斜面との摩擦でスピードが遅くなっています。だから、長い間流れ下っている間に、大きなものが先頭に来てしまって、ものすごい破壊力を持ってしまうわけです。

○なるほど。

■さらに面白い性質ですが、粉粒体は「沸騰」するのです。下が網になっている容器に砂を入れて、下から空気を送り込んでやると、どうなるか。速度が小さい間はたいしたことありません。砂の隙間を抜けていくだけです。思いっきり吹き込んでしまうと吹き飛んでしまいます。
 ですが、徐々に空気の速度を大きくしていくと、あるところで突然、粉粒体は「溶け」てしまうのです。まるで水のように。その時に上にものを載せておくと、面白い現象が起きます。ピンポン球のように軽いものは浮き上がり、文鎮みたいなものはあっという間に沈んでしまいます。つまり、「液状化現象」ですね。

○あれは見た目にも非常に面白い実験ですよね。誰にでも分かる…。

■ええ。「液体」状態の粉粒体にさらに空気を吹き込むと、今度は「沸騰」します。泡がぶくぶく出てくる様子は、実際の沸騰とほとんど区別がつかないようなものです。しかし、実際には違うものなのです。

○どう違うのですか?

■実際の沸騰、つまりお湯が沸騰してできる泡の中にあるのは水蒸気ですね。そしてその外には水があるわけです。ところが、粉粒体の泡の場合は、泡の中にあるのは空気、外にあるのも空気です。実際、泡が上昇している間にも、空気は泡を吹き抜けています。つまり、空気の入った風船が上昇する、というイメージとは違うものなのです。
 しかし、「浮力」を計算すると、空気の入っている泡が上昇している、という考えた場合の計算と、非常によく合致するのです。どうしてこうなるのか、ちゃんと理解している人はいません。

○ふーむ。

■他にも粉粒体の抱えている問題というのはいろいろあります。別に流れていなくても、ただ粒状のものが積もっていればそれは粉粒体なのです。土砂や雪はもちろんそうです。地盤というのは全て粉粒体なのです。山は粉粒体の塊だと考えることが出来ます。粉粒体の場合、穴を掘っても、上にのっかっている粉粒体の量によらず、側壁にかかる圧力は一定です。ここが、液体とは全く違うところですね。

○だからトンネルが掘れるわけですか。

■そうですね。それから、砂漠ももちろん粉粒体です。砂漠の上にできる風紋というシマシマがありますが、あれも粉粒体の問題です。風と粉粒体があるというだけで、ああいう等間隔の模様ができてしまうのです。
 人間のような、知的なものの行動も、集団になってしまうと、ある程度は粉粒体として見ることができます。例えば、高速道路の上で渋滞がどうやってできるかという問題は、粉粒体を管に入れて流してやるのと同じ問題です。また、満員電車に人をどう詰め込むかという問題は、箱の中にどうやって粒を詰め込むかという問題と同じです。こう言ってしまうと抵抗があるかもしれませんが、例えば降りるときのことを考えれば分かりやすいでしょう。

○どういうことですか?

■箱の中から粒をどうやって効率よく出すかと。そういう問題と同じでしょう。

○ああ、なるほど。

■粉粒体の不思議な挙動は、砂時計に特徴的です。砂時計の穴から砂が流れる様子は非常に面白いのです。そのままだと分かりませんから、砂粒が流れる様子を見るために、アリの巣を観察するような透明なガラス板を作ってやって、そこに粒を流してやるわけです。

○すると、どうなっているんですか。

■水が流れるときとは全く違います。全体が一様に流れるのではなく、まず左半分が流れ、次に右半分が流れ、というふうに、順番に流れて行くわけです。水だって左右対称に流れるわけではないですが、極端に流れているところと止まっているところがあるわけではない。元の状態は対称なのに、なぜかそうなってしまうのです。
 これは、電車の中から降りる人の動きと似ているでしょう。

○そうですね。実に面白いですね。

次号へ続く…。

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