NetScience Interview Mail
2000/01/20 Vol.084
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【寺薗淳也(てらぞの・じゅんや)@財団法人 日本宇宙フォーラム
                 調査研究部 月利用・探査担当グループ
                       宇宙デブリ担当グループ 研究員】
 研究:月震、月の内部構造、画像処理

ホームページ:http://www.t3.rim.or.jp/~terakin/

○月震、月の内部構造の研究者、寺薗淳也さんにお話を伺います。
 5回連続予定。(編集部)



前号から続く (第2回/全5回)

[05: 画像データベースづくりのきっかけ]

■画像データベースの話に戻りますが、同じような問題意識を持っていらっしゃる方は惑星科学だけに限らず、たとえば天文の領域ですとか、他の領域にもいらっしゃるんです。<すばる>望遠鏡がありますね。あそこもこれから大量のデータを出してきます。いまはまだテストですからね。他の天文観測でもサーベイと称して全天を掃くようなやりかたをやってますから、そこから出てくるデータ量はやっぱり並ではない。

○要するに人間の力ではおっつかないわけですよね。何がどこにあるのかなんてことを目でいちいち見るにはマンパワーが足らないと。そういうことはあちこちでおこってますね。

■本当は、これはたいへんな事態になるんじゃないかと思っています。コンピュータのCPUの処理能力は、この20年ですさまじいくらいに向上しましたけど、人間の脳味噌がそれに合わせて向上したわけではない。けっきょくコンピュータが処理したデータを、最終的に受け止めるのは人間ですからね。人間の脳味噌をCPUに合わせて強化しないと、あふれかえるデータを処理できない、なんてことになったら世も末ですよね。

○脳味噌にテープストレージがついているわけでもないですからね(笑)。

■それだといいかも知れませんが。本来は、コンピュータはデータを減らして、それによって人間の情報処理の手助けをするものだと思っていたのですが、人間の予想を超えるレベルでデータが増え過ぎていくと、本当にどういうことになるか心配です。それに、これは自然科学という、データが出まくる部分でいちばんはっきりと出てきていますけど、本当は人間生活に直結する問題なのかもしれないですよ。

○コンピュータと私たち人間とのつきあい方、という点でですか?

■それもあると思いますね。なかなかうまくいえないんですけど。

○で、寺薗さんは、どうしてこのような話に興味を持ったんですか?

■はい。なぜ僕がこういう話に興味を持ったかといいますと、実は月の地震がきっかけだったんですね。僕は元々修士から博士課程にかけて宇宙研にいて、ルナーAにさきがけてアポロの月震の解析というのを始めたんですが、そのアポロのデータというのが、あまり整備されてなかったんですね。

○と仰るのは?

■そのときはどういう形できたかと言いますと、アメリカのテキサス大学に中村先生という方がいらっしゃるんですが、その方からどさっとテープが送られてきて、それを読めと。それはアポロから受信したデータそのものだったんです。で、それを解析するわけですが、どこに良いデータがあるのか、悪いデータがあるのか、そういうことが全然分からないんです。それをいちいちコンピュータのテープリーダーから読まなくちゃいけないと。しかもその量たるや凄まじいもので、全てのデータを合わせるとやっぱり数十ギガもあったんですね。
 その当時はワークステーションですらギガバイトクラスのHDが入ってたら、みんな大喜びして使っていたような時代ですから、テープにあるデータを全部乗っけるなんてのは夢のまた夢のまた夢のまた夢くらいで、じゃあどうしようと。データを集めて整備してやろうじゃないかと。そういう話をしていって、そこで月の地震の波のデータベースをという話になったんですね。

○なるほど。

■僕の場合はデータベースを作ったところで、セレーネがあるからNASDAへ来ないかという話になって、これから解析しようというところで宙ぶらりんになってしまったんですが(笑)。

○なるほどね。

[06: 月震とは]

○ではここで、月震についての話を伺おうと思います。月震とはどういうものなのか、おおざっぱに教えていただけますか。月震の周期は14だとか28だとか聞いているんですが、その辺も含めて。

■はい。月震というのは月で起こる地震のことですが、月にも地震があるという、まずベーシックなところがありますね。

○月にも地震が起こるということを知らない人もいるでしょうね。ましてや周期があるなんていうのは…。

■ええ、地震が周期的に起こるなんていうのは、地球の感覚からいうと非常に意外なことですからね。実際には地球も潮汐の影響を受けているんだという研究をされている人もいますが、その話は取りあえずおいといて。では月にはどんな地震が起こっているのかいうことなんですが、単純じゃないですね。種類が4つあるんです。

○はい。一つ一つお願いします。

■まず一番数が多いものが深発月震と呼ばれているものなんです。深発という名前からお分かりのとおり、かなり深いところで起こります。普通、地震屋さんが深発と聞いてピンとくるのは──深発「地」震のほうですが──深さ400〜600キロくらいだと。
 ところが、これが月の場合だと一気に深くなって、だいたい深さ800〜1100キロくらいなんです。

○凄い深さですよね。月のどこらへんで起こっているのかということは月の構造が今ひとつ分かってないから言いがたいでしょうが、…月の半径って何キロなんでしたっけ?

■1738キロですね。

○半径1738キロの星で深さ800キロ以上のところで起こっているということは、真ん中よりもっと深いところで起こっているということになりますね。

■そうです。もし地球でそういうことがあったら地震学史上最大の発見になるんじゃないかと思いますが、とにかく、月の地震というのはそういうところで起こっているんです。
 で、これが先に仰った周期が28日とか、正確には28の倍数だったりするものなんですね。ある時に月震が起こると、28日後にはまたそのグループが活発になったりするんです。そういうことが起こったりするんです。

○ふむふむ。28日ということは、やはり潮汐が関係しているんでしょうか。

■ええ、そう考えられています。月は中まで固まってしまっていると思われているんですが、潮汐の影響で、その内部がピシッと動く、そんなものではないかと。
 月震の周期というのはもう一つありましてね。長い周期で205日というのがあるんです。

○205日? 205っていう数字は何なんですか。

■205というのは、月の秤動の周期だろうと思うんですね。

○ひょうどう…。

■ええ、地球が地軸を持っているように月自身も地軸を持っています。その傾きがちょっと動くんです。

○歳差運動の周期ですか。

■ええ、それによってまた周期が変わったりですとかするんです。
 またもっと長い、4年くらいの周期があるんじゃないかと言われています。ただ、だんだん長くなってきますと、アポロが地震を観測したのは7年間ですので、そういう周期は引っかからないんですよね。

○なるほど。
 歳差の周期とかそんなのの影響で地震──というか内部構造の変化ですか、そういうものが起こるんですか。そのこと自体が凄く不思議ですね。

■ええ。でも地震と言っても非常に小さいものなんですね。深発月震もマグニチュードで1とかですから。下のほうで何かガリッと岩が崩れたくらい、あるいはずれたくらいのイメージです。古傷が潮汐の影響でガリッと動いてしまった、っていうものなので、逆にあんまりでかいものは起こりようがないんだと思うんですね。

○ふーむ。現時点での内部構造の考え方からするとそうではないかということですね。
 あと二つは?

■深発があれば浅発があるわけです。もっとも浅いといっても深さ300キロくらいです。これは比較的大きいんですね。マグニチュードでも3〜4くらいあります。これはかなり謎に包まれていましてね。7年間のアポロの観測の中でそうだなという奴がたった28回くらいしかないんですね。

○一年間に4回ですか。

■ええ、そのくらいで非常に珍しいものらしいんです。で、なんでそんなものが起こるのかとか、どういう現象なのかということが全然分かってないんです。

○え、ホントに全然分かってないんですか。

■ええ、ある程度、断層の運動に伴う様なものなんじゃないかとは言われていますが、具体的に検証されているものではありません。

○それは単に、地球もそうだから月もそうかなと言ってるだけに近いですね(笑)。

■そうです。
 月の場合は困ることに、地震を起こす動力を考えるのが難しいんです。地球の場合だとプレートテクトニクスがあったり、それに関連して火山があったり色々な原因で地殻の変動とかマントルの運動とかあるんですけども、月でそういうのがあるかどうかというと、やっぱり、かなり冷え切ってしまっているんじゃないかと思うんですね。

○でも、たまーに火山性ガスが出ているんじゃないかという観測とかあるんでしょ。

■ええ、時折見えたというのはあるんですが、定常的に見えるわけではなくて、時折ボコッと見える程度ですので。なかなか地球みたいに必ずどこかに行くと火山帯があってというのはありませんからね。そういう意味では非常におとなしい静かな星なのに、中ではグキッ動くようなことが起こっているということがすごく不思議なんです。

○でも逆に言えば、もの凄く静かだから、中でグキッと動くのが観測に引っかかるということではないんですか。

■そうですね。たとえばこの辺──東京の近辺とかでマグニチュード0.5とか1とかいう微小地震を捉えようと思ったら相当大変なことになりますね。
 ところが月の場合ですと、静かですから、地球の最高感度の地震計を10倍下げたようなものを持っていっても、ちゃんとノイズもあまりなく取れるんです。だから微少な地震とかも取れやすいということなんでしょうね。

○なるほど。
 では、4つめのもう一つの地震というのは隕石がぶつかったときの震動とかのことですか。

■そうです。その衝撃ですね。

○月の地震というのはそれだけだと思っている人が意外と多いですね。月は完全に死んだ星だから地震なんか起きないんだと思いこんでいる人がいる。

■うん、実際それだけだと思っていた人も多かったようなんですが、測ってみたら実は内部で起こっていたということなんです。それでみんなびっくりしたと。  また面白いことに深発地震は、波の形が似通っているんですね。

○ほほう。

■波の形でグループわけされてましてね、A1から2,3,4,5,6...と番号がついているんですが、一番アクティブな奴でA1というのがあるんですが、それぞれ違う日のデータを並べてみますとね、実に見事に似ているんです。

○(実際にデータを見て)あ、ホントだ。

■もちろん目で見て似ているだけではなくて、相関係数を取ると80%以上とかいくんですね。こういうことやると何が嬉しいかと言いますと、足し合わせることができるんですね。そうすると信号の部分は2倍になりますがノイズの部分は減ると。すると例のよっぱらいの理論で、足し合わせたぶんの√N倍だけS/N比が良くなると。

○ふむふむ。

■だからこれをできるだけ足し合わせていくと、同じ様な波形を10個20個並べていくと、最後に出てきた波形はノイズが少なくなっている──と、言い切れないところもありますが(笑)、でもだいたいそういうものになるわけです。

○なるほど。で、そこから何が分かるのか教えていただけますか。

■はい。普通ですと地震を解析するときというのはPとかSとか波があって最初に到達した波を見るわけですが、よく見ると他にも波があるわけです。たとえば月の中にコアがあれば、コアの中を一往復して届いた波ですとか、もうちょっと跳ね返ってきた波とか、いろいろあるんです。

○最初に来た波だけじゃなくて、乱反射した波とか跳ね返って戻ってきた波とかが含まれているわけですね。

■そうですね。そういうものがもしあれば、後ろの方に多分見えているだろうと。そういうものは地震学でいうと「走時曲線」というので表してやるんですが、たとえば、あるところまでいって100秒後くらいにP波がくる。そのあとにはS波がくる。で、もうちょっといくとコアに一回跳ね返った波が来るとか、そういう形で、波がいつくるか分かるわけです。これは内部構造がある程度分かっていれば、そこから推測してやることができるんです。
 ですからそれに合わせて、その時間帯に波が着いてないかなと逆算する、走時曲線に当てはめてやることができるんですね。そうやってやると内部構造が今まで見たものの中でどれが合っているかとか、どのくらいずれているかとかが分かるわけです。

○なるほど。コア半径とかを仮想的に設定してやって、それがどのくらいずれているかを戻してみてやるわけですね。

■そうです。いろいろコアの半径を変えてみて計算してやるわけです。そうすると、コアが小さい場合っていうのは、波がコアの後ろに届かないんです。ところがもうちょっと大きくしてやると、たとえば300−400キロくらいにしてやると、波が後ろに集中して来るんです。

○レンズ的に波が集中してくるんですね。

■そうです。地震学ではまさに「フォーカシング」と呼んでいます。で、もうちょっと大きくするとまたばらけてきたりすると。コアの半径によって地震波の届き方に、ずいぶん差が出て来るんです。

○なるほど。

■たとえばコアの後ろに届く波っていうのにも色々差が出てきまして、もの凄く強くなったりすることもあるんですね。たとえば一度コアを突き抜けて、向こうの地表までいった波っていうのがまた戻ってきた場合っていうのは、跳ね返るとフォーカシングが2倍にきいてきて非常に強く出たりするんです。こういうのを波としてとっつかまえれば、もしかしたら波形の中にあるかもしれないと、色々探し回っていたんです。地震源からの距離などを組み合わせていろいろやってみたところ、ひょっとするとあるんじゃないかと言われていたところに、実は見えているんじゃないかというのがあったんです。

○じゃあその波がフォーカシングの波じゃないかということを検証してやるんですね。

■そうなんです。取りあえず一番大きい波だったので仮にそれをおさえてあるんですが、それをもうちょっと波形を計算してやってちゃんと合うぞということになったら、結構大きなことになるかもしれません。月震に関しては、それが今からの僕の目標ということになってますね。

[07: 「5時から科学」]

○それは「放課後科学」というか「5時から科学」というか「土日科学」の領域なんですか(笑)?

■そうですね、その領域です(笑)。

次号へ続く…。

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◇すばる望遠鏡の冷却中間赤外線分光撮像装置、ファーストライト
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http://oposite.stsci.edu/pubinfo/pr/2000/03/

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NetScience Interview Mail Vol.084 2000/01/20発行 (配信数:20,778部)
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編集人:森山和道【フリーライター】
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