NetScience Interview Mail
2000/02/10 Vol.087
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【寺薗淳也(てらぞの・じゅんや)@財団法人 日本宇宙フォーラム
                 調査研究部 月利用・探査担当グループ
                       宇宙デブリ担当グループ 研究員】
 研究:月震、月の内部構造、画像処理

ホームページ:http://www.t3.rim.or.jp/~terakin/

○月震、月の内部構造の研究者、寺薗淳也さんにお話を伺います。
 6回連続予定。(編集部)



前号から続く (第5回/全6回)

[14: けっきょく、月の構造は]

○もう一度復習しておきたいんですが、マクロに月の構造を見るとどんな感じになりますか。表面に地殻があって、中心部にはコアがあったとして、その間は、どんなふうに理解すればいいんでしょうか。

■そうですね。まず表面にはお盆のように海構造と、一方に高地構造があって、それぞれの下には根っこがあって下へ続いているんだという「ブドウの房モデル」を主張している人もいますし、ブドウパンのようにある程度塊であると主張している人もいます。
 そして地殻の境界が点線であって…。

○「遷移層?」っていう感じですか。

■そうですね。「?」って感じです。その下の「マントル」相当の部分にも、それぞれ遷移層?みたいなものがどうやらぽつぽつとあると。

○深発月震というのはどこらへんで起こっていると考えられているんですか。マントルの中ですか。

■そうですね、コアの大きさがたとえば600キロだとすれば、1100キロですからマントルとコアの境目のちょっと上のあたりということになりますね。

○ふーん。で、それはなんなんですか?

■これがですね、よく分からないんですよ。浅発月震というのはどうも上部マントルと下部マントルとの境あたりで起きているようなんですが…。

○地球だとコアとマントルの間には「D''層」っていうのがあるんでしょ? ああいうものなんですか? それとも全く違うものなんですか?

■ええ、D''みたいなのがあると嬉しいんですが、多分、固まっちゃってると思うんですよね、月の場合は。そうなると、クラックというか、断層みたいなものが入っているに違いないと。

○でも断層って、何が原因でできた断層なんですか?

■そうなんですよ、たとえば月が収縮してできたときに、上からの圧力っていうのは相当なものになってますから破断が起こったとか、あるいは、物質構造の違いによって境界層ができているとか。そういう可能性もあります。ただなんでかっていうと、分からないですね。古傷っていうか…。

○ふーん…。つまりよく分からないわけですね。

■そうなんです。そもそもですね、800キロっていうのは本当なのかっていうのもありますからね。P波S波っていっても、地震計の記録を見ても非常にわかりにくいんですね。月の地震の特徴として、地球の地震みたいにPとSがはっきりしてないんです。
 たとえば地球の地震ですと、P波がまずやってきて、次にS波がドーンとやってくると。

○誰が見てもわかりますよね。

■うん、これがPやなSやなというのが、それこそ中学高校の教科書にものってます からね。
 ところが月の地震というのは、まず小さいのが来て、じわじわじわじわ大きくなってきて、だいたい十分から数十分くらいかけて最大振幅に達するんです。

○それはマントルやコアがよく分からないことになってるからですか。つまり綺麗じゃなくて、ぐちゃぐちゃになっているからですか?

■そうなんです。一つ言われているのが、表層構造があって、そこに月震の波が入ってくると、そこでさんざっぱら反射されてしまうと。

○地殻の中の構造とは?

■海でもいいですし高地でも良いんですが、20−30キロくらいの単位で変わってるんじゃないかという説があるんです。ま、この、表面にあるところでもいいんですが、なんか反射層みたいなのがあったりだとか。特に海なんかは10キロくらいの深さがあると言われてますが、ちょうど広い、薄い底のナベみたいな感じです。その中で乱反射してしまうと。
 アポロが降りたところっていうのはほとんど海のなかですから、そういう乱反射した波を拾っちゃってると。

○なるほど。

■ですから、現在の地震学の手法では解析が非常に難しい波なんですよ。

○今後の課題や手法は?

■そうですね、僕自身は、わーっと跳ね返ってくる奴をどうするかということについては、何かの散乱モデルを使ってやれば、その散乱した波を取り除いてやることができるんじゃないかと思うんですね。

○そういうことができるんですか、計算で。

■ええ、やろうと思えばできるはずです。僕自身はそういう散乱構造モデルとか不勉強なので組めないんですけど、ある周波数の波が盆地みたいなところに入ってきたところに、こう波は入れるんだという奴を計算してやればいいんですね。そうすると、ある周波数の波はこう消えるんだといったモデルを作ってやれば、それを「フィルター」として使ってやることができる。
 そしたらそれを既存の月震の波に適用してやれば取り除けるんじゃないかと。

○なるほど、そういうことが期待できると。
 これからルナーAが2002年に無事飛んだとして、そこから色々なことが分かるかもしれないんですね。

[15: 日本の宇宙開発・宇宙探査の普及について]

○日本の宇宙開発・宇宙探査について、ぜんぜん知らない人が非常に多いと思うんです。寺薗さんの、そこらへんへのご意見を伺えますか。

■そうですね。個々人のポテンシャルは非常に高いし、優秀な人間が集まっているのは間違いないんですが、「声の上げ方」がうまくないなっていうのはあると思うんですね。

○広報っていうことですか。研究者への広報、一般への広報、両方あると思いますが。

■ええ、そのどちらも苦手な気がします。
 言い方が悪いんですが、非常におぼっちゃま・お嬢ちゃま型なんですよ。私はロマンを持ったままここにやってきました、小さい頃星が好きで天体観測が好きで、ずーっとやっているうちに宇宙の開発や宇宙の研究をやっていますっていう人が非常に多いと思います。
 ところがそれだとロマンを引きずったまま、「私がこれをやりたいんだから、これをやっているんだ」という人を大量生産していることになっちゃうんですね。

○ええ。

■私は残念ながらそうではなくて非常に冷めてましたから。生まれも東京ですから夜空を見ても明るいだけで星なんか見えませんしね。

○(笑)。

■ええ、隣にあったゴルフ練習場の灯りで空なんか見えたもんじゃなかったんですよ。近くに東名高速走ってましたから、見上げても見えるのはそのナトリウムライトでした。夜は星を見るよりもTV見てるほうが面白いし(笑)。

○いまの子ども達にぴったりじゃないですか。そういう子ども達に宇宙に興味を持たせるために、こうやれば良いんじゃないかというのは逆にありませんか。

■どうなんでしょうね。一つは…。
 これは凄く逆説的なんですけど、ほっといたらどんなふうになるんだろうなと思いますね。あんまり、しゃかりきになってオトナがああだこうだとか言うんじゃなくて。ソフトや本でも、まあ売れたらいいなっていうくらいで作ってみて。
 というのは、いま、たとえば子ども向けに広報ということになると、リターンを期待しすぎるんですね。

○なるほど。

■たとえばイベントをやる。どれだけ集まった。あ、これだけ広まったな、ということになるんですけど、「どれだけ集まった」っていうのはオトナの理屈かもしれないんですね。子どもは好きなものは好き、嫌いなものは嫌いってはっきり言うんで、だから材料だけは与えとくけど、あとはお前ら好きなようにやれよ、と。
 もう一つは、子どもにおもねらないということですね。「子ども用」という形で用意しちゃうのはあまり良くないと思うんです。子どもと言ってもいろいろいますけども、小学校4,5年くらいになるとそんなの嫌だ、って言っちゃう子もいますからね。特に科学に興味を持つような子は、そういう子が多いんで。僕自身もそうでしたから(笑)。ちょっと上のほうの本とかを読んだり。そういう中で、自分が面白いと思うものを見つけていくんだと思うんですよね。
 ちょっとマニアな世界にいってしまうとそういうところに行っちゃうのかもしれない。そしてその下にはまた、そういうのに憧れるような層というのがいるんで、そういう憧れるような層をひっぱるようなものが必要だと思うんですよね。

○具体的には?

■そうですね、今の子供向け広報というと、イベント主体になっていると思うんですね。何か集まってみんなで歌を歌ったりしましょうとかね。それはそれで非常に楽しいんですよね、それにそういうきっかけって非常に大切ですから。その後のフォローアップですね。定常的に情報を出していくとか、あるいはメーリングリストであるとか、定期的な学校への巡回講演とか、そういうのが必要かもしれませんね。

○やってはいますよね、いまでも。

■そうですね。

○あまりうまく行ってないところもあるようですが。

■大学の先生はもともと高等教育が専門であって、いきなりぽーんと「もっと広いところに教育しましょう」ってやってもなかなか難しいんですよね。

○理科教育・科学教育がらみの話になると、色々とややこしいんですよね。
 まあ色々思うことはいっぱいあるんですが。興味をもともと持っている奴にさらに興味を持たせることも必要だし、興味がない人にも興味を持ってもらいたいと思うんですけどね。

■二つやらないといけない。根っこを掘り起こすことと、興味を持つ人にどんどん吸収させてこういうところに入ってこれるようにするとかですね。

○一方で、最近の子どもっていうのは理科離れ勉強離れでスレてるのかと思っていたんですが、意外とそうでもなかったりして、逆に自分自身のひねくれた心を反省させられたりすることもあるんですよね(笑)。

■うん、宇宙へ行きたい?って聞いたらみんな非常に熱心に聞いてくれますしね。JSFの「宇宙ふれあい塾」なんかもそうですけど、わいわい騒いでうるさいなあと注意しないといけないこともあるんですけども、イベント終わるとみんなぽーっとしてるし、あるいは「今日は有り難うございました」なんて言われちゃってね(笑)。

○そうですね(笑)。子ども達を見ていると、こっちがね、ああスレていた僕が悪かった、ごめんなさいっていう気持ちになっちゃうんですよね。

■そうそう。それで一生の宝みたいな感じに思って帰ってくれると、やっぱり嬉しいですよね。

○そういうのが凄く大切なんでしょうね。

■ええ。いままで「子ども」って分けていたのをもうちょっと細かくして、小学校低学年、中、高、中学生くらいにして、ターゲットごとに何かできるといいんですけどね。子どもの成長って凄く早いですから、分けていってどういう子どもがどういう興味を持つかっていうのをきめ細かくやっていく必要があるのかなと思いますね。
 やっぱり、未来の消費者ですから。消費者対策っていうかマーケティングもちゃんとやっていかないと(笑)。

○将来、税金払ってくれる人たちですからね。

[16: 今後の月・惑星探査]

■ただ今後のことを考えると、月・惑星探査にしても税金だけでやってていいのかというのはありますね。最初からそれだけにしちゃうと先がなくなっちゃうかもしれませんからね。

○民間資本も入れてということですか。

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■URL:
◇宇宙作家クラブ、ニュース掲示板にてM-Vロケット4号機打ち上げを内之浦から報告
 打ち上げ予定は天候のため順延が続き、現在2月10日の予定。
http://www.sacj.org/openbbs/

◇インフルエンザ/風邪の予防・対策情報サイト INTERNET Watch
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0128/kaze.htm

◇団藤保晴の「インターネットで読み解く!」 第80回「ヒトゲノム研究での異邦人・日本」
http://www.alles.or.jp/%7Edando/backno/20000203.htm

◇Nature BioNEWS 脳:味覚研究に進展 「うまみ」を感じる受容体の発見
http://www.naturejpn.com/newnature/bionews/bionews000202/bionewsj-000202f.htm

◇特定家庭用機器再商品化法施行規則案に関する意見募集 厚生省、2/15締切
http://www.mhw.go.jp/topics/bosyuu/tp0127-1_14.html

◇医薬品の範囲基準の見直しに関する論点整理事項の公表及び意見募集について 厚生省、2/29締切
http://www.mhw.go.jp/topics/bosyuu/tp0201-1_15.html

◇大学における知的財産権研究プロジェクトの募集について 特許庁、2/18締切
http://www.jpo-miti.go.jp/info/koubo0201.htm

◇石川県林業試験場、簡易GISを開発、フリーソフトとして公開
http://www.pref.ishikawa.jp/ringyo/ibis/

◇遺伝子組換え食品ホームページ 厚生省生活衛生局
http://www.mhw.go.jp/topics/idenshi_13/index.html

◇IBM研究員がナノ技術に基づいた新たな通信技法を発見
http://www.jp.ibm.com/NewsDB.nsf/2000/02042

 *ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


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編集人:森山和道【フリーライター】
tazaki@cynex.co.jp
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