NetScience Interview Mail
2000/03/23 Vol.092
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【山口真美(やまぐち・まさみ)@中央大学 文学部 心理学研究室 助教授】

 研究:認知心理学、発達心理学
 著書:単著・共著の著書はあまり書かないのですが,書店で手に入る本として,
    現代のエスプリ1996年350号(目撃者証言特集号)とか,
    言語1998年11月号(顔特集号),
    大顔展の図録(書店販売予定)などになります.

○認知心理学、発達心理学の研究者、山口真美さんにお話を伺います。
 山口さんは特に顔認知の研究を行っておられます。
 平均顔を作ったり、赤ん坊の認知発達の研究など、面白さが分かりやすい研究です。
 (編集部)



前号から続く (第4回/全6回)

[13: 赤ちゃんは輪郭しか分からない]

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■でも、うんと小さい子どもだと,それ以前で処理が止まっちゃう,顔の中の情報にまで処理がいかないという段階もあるんです。 生後1・2ヶ月くらいだと、物体の 「輪郭」 の情報ばっかり注目しちゃうとか。

○は?

■物体の中の部分が変わっても、そこに視線がいかないんですよ。

○たとえば髪型とか?

■そうですね。髪型とか、外しか視線がいかないんです。

○ええ? 本当にそんなことが? 輪郭抽出をしているようなイメージですか?

■そうなんですね。
 たとえば、

  ┌─┐ 
  │□│
  └─┘ 

という刺激と、真ん中の□が△になった
  ┌─┐ 
  │△│
  └─┘ 

という刺激が、同じものに見えちゃって、区別できないんです。

○ふーむ。なるほど。

■つまり、外だけ、輪郭しか抽出できてないんです。

○何ヶ月くらいまで、そういう状態なんですか?

■ 生後1ヶ月では輪郭に注目しちゃう。4ヶ月ではこの図形は見分けられる、という結果になっていますね。
 だから乳児の実験というのは、乳児が持つ特有の、不思議な視線の行き方とか、不十分な知覚システムとか認知方略を考慮に入れて組まないと、何言ってるのか分からなくなるんで、結構ややこしいんです。

○しかしこの話だけでもむちゃくちゃ面白いですね。こういう状態から、中にだんだん注意がいくようになるんですか。

■そうなんです。最初は輪郭でとまっちゃうんです。

○画像認識の人とかはこういう話を聞いてどう思うんでしょうかね。伺ってみたいです。

■そうですね。

[14: 赤ちゃん実験のテクニック]

■たとえば、シマシマのグラデーションをつくってやって、どのくらいまで 細かい シマシマをシマシマとして 見えるかで視力を測ったりするんですけどね。そういういろんなテクニックを使って,乳児の実験はやってるんですけども。

○なるほど。そういう色んなテクニックがあるんですね。

■そうですね。みんなアイデアマンですよ(笑)。
 赤ちゃんって、複雑なものが好きなんですね。だから 一面塗りつぶしたみたいな平坦な図形 よりシマシマ図形のほうが好きなんです。それを利用して、喋れない赤ちゃんの視力を測るわけですね。
 シマシマの間隔をどんどんどんどん小さくしていくと、細かくなり過ぎてある時極限に来て,一面塗りつぶされたように見えちゃって,シマシマに見えなくなっちゃう時がくるわけじゃないですか.どの程度細かくして見せて,赤ちゃんが興味をなくすかによって,シマシマに見える限界点を探して,それで,目の解像度を測るんです。

○ふむふむ。

■目の解像の極限では, シマシマが細かくなりすぎてくっついて見えちゃって、つまり灰色に見えちゃう。それは複雑な図形じゃないから、赤ちゃんにとって魅力のない図形ということになる。
 だからどの程度細かくしてやると,シマシマ図形に対する赤ちゃんの注目が来なくなるか測ってやるわけです。シマシマとまっさらなものを並べておいてね、シマシマに対する注目がなくなったところが目の解像度の限界となるわけなんです.

○なるほど。

[15: 人間の目の発達]

○しかし人間の目っていうのは、やっぱり、そんなふうにだんだん解像度が上がっていくような形で発達成長していくもんなんですか。

■そうなんです。面白いんですけど、赤ちゃんの目っていうのは割とラフに、ラフっていうのは、 赤ちゃんの身体にぴったり合わないようにできてるんですよ。

○「合わないように」?

■というのは、頭蓋骨も大きくなりますし、眼球の位置なども変わりますよね。だから最初からきっちり作ってしまうと, 光学的に また再調整しないといけないんです。それは凄くコストがかかるんです。
  だから最初は──どれくらい細かく見れるかという──解像度もゆるいし、焦点の調節もきちんと調整されず,焦点距離なんかも自動焦点カメラみたいにわりとゆるめてある,輻輳眼球運動なんかも調整されていない,網膜上の桿体・錐体の配置もきちんと作っていない。
 赤ちゃんがぼんやりしか見えないっていうのはそのせいなんです。

○なるほど。

■ある程度骨格的な成長が進んで大きくなったところで、だいたいこれでオーケーかな、というところで、それに調整が進むんですね。桿体錐体のバランスとかも2ヶ月くらいで。

○2ヶ月くらいで決まって来るんですか。

■そうですね。でも解像度はもうちょっとかかりますね。5ヶ月か6ヶ月くらいですね。

○じゃあ先ほど仰っていた「二つのピーク」に割とぴったり合うんですね。

■ええ。だから細かい部分の処理っていうのは6,7ヶ月くらいにならないとできないんです。
 そういうわけで、赤ちゃんが成長していく中で、特にいわゆる臨界期と言われるようなところで、どういうふうに 外界に適応 していくのかなということが知りたかったんですけども、いろいろ知識を得てみると面白いと思うことが多いですね。

○そうですねー。

■ええ。結構ドラマティックに変化していくんですよね。

[16: 実験対象になる赤ちゃんの発達段階]

○赤ちゃんはどこから集めてるんですか?

■いま10ヶ月くらいまでをやっているのは、だいたいこの近辺ですね。福島大にいるときには福島県のネットワークがあったんですけど。

○いまはだいたい何人くらい集めて?

■少ないですよ。ここでやっているのは3人とりおわって、いま二人やってますね。 東京のデータはもう少し募集中なので,現在もボランティア募集中です.

○とり終わって、っていうのは10ヶ月の段階が過ぎて、っていうこと?

■そうですね。取りあえずこの実験はそれ以上年齢がいっちゃうと実験事態にのらなくなっちゃうんで。写真を見せても、写真だ、ということが分かっちゃうようになるんです。

○ああ、なるほどね。そういう意味でも、ある程度発達するとダメなのか…。

■ええ。あと、もろもろの赤ちゃん実験にもその頃から乗らなくなるんですよね。立ち始めるので座って見てくれないのと、実験のときはlooking timeを見て刺激に対する馴れを見るわけですが、そういうので測れなくなるんですよ。実験事態に飽きちゃって、ダメと。 新しいものに対する興味も薄れたりするし.

○ふーん。

[17: 赤ちゃん研究に至るまで]

○では、ここでちょっとベクトルを変えて、そもそもこういうことに興味を抱かれるようになるまでについて伺いたいと思います。

■ええ。私は東大工学部の原島先生のところで「平均顔」っていうのを作る機会を得させてもらったんですけども、顔には、修論の頃から興味を持っていたんですね。昔から興味を持っていたんですが。
 でも大学の時は実は、東洋哲学に行こうと思っていたんですよ。心理学で入ったんですけどね(笑)。

○ええ? ぜんぜん違うじゃないですか(笑)。

■ええ。話すと長くなっちゃうけど。

○いいですよ。どうぞどうぞ(笑)。

■高校時代は理系に行きたかったんですけど、父親が「ちゃんと就職のできる法学部へ行け」って。

○ああ、潰しもきくし。

■そう。潰しもきくし、資格も取れるぞということだったんですけども文学部に行ってしまって。でも私は心の中では研究をしたいなと思っていたんですね。
 で大学の中で心理学を勉強していくと、なんかちょっと…。ちょっと、高校生の頃に持っていた心理学のイメージと違っていたんですね。 手塚治虫の漫画読んでたりして,精神分析や考古学や人類学や脳科学に興味を持つような,よくいるタイプの高校生だったんですけどね. まあ、納得のいくような指導者がいなかったということもあるんですけども。

○どんなふうに違っていたんですか?

■なんか教育心理っぽかったんですよ。私そういうの嫌いなんで(笑)。

○え、いまもやっていらっしゃるんじゃないんですか? だってこの学科は…。

■いや、私はやっていないんです。そうなんですけどね(笑)。教育心理って、お説教臭いんであんまり好きじゃないんです。
 で、文学部だと心理はできるなと思っていたんですけども、なんか違うなと思っちゃったんです。 応用とか教育にどう役に立つかとか,そんなことを一切考えないで, 純粋に哲学として、こころを知りたいなと思っていたんで。

○それで哲学へ行こうかということだったんですか。

■ええ。最初、現象学をちょろちょろとやっていたんですけどね。荘子あたりを読んで、東洋哲学しかないと思っちゃって(笑)。でも哲学に行くと、原著をしっかり読んで、それに従って論文を書かなきゃいけないと。

○そうでしょうね。

■わたし、自分オリジナルの論文を書かないのが納得いかないと思ったんで、それで、じゃあまあ、心理学のほうが、自分の視点で好きなこと書けるかなあ(笑)と思って未だに心理学やっているという感じなんですよ。 自分のデータを使って、新しい理論とかうちたてられますからね.

○なるほど(笑)。

[18: ごまかしの研究]

○それで顔については?

■修論あたりから顔に興味があって。現象学読みすすめた影響もあるかもしれないけれど、共通感覚とか情動とか、身体感覚とかに興味があったんですね。それで、修論では−−当時私は苦学生で(笑)、自分でせっせと学費や生活費稼いでたんで、しょうもないのしかできなかったんですけど、いかに情動が自分でコントロールできるかどうかという,ごまかしの研究をやっていたんです。

○ほほう。

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■イベント:
◇学際シンポジウム「遺伝子組換え作物をめぐる諸問題と社会・政治・経済」 講演要旨
http://mayumi.narc.affrc.go.jp/ikuwaka/gmsympo/youshi.html

■ U R L : ◇業界最小クラスのデジタルメモリーレコーダー「ボイスバー」の新製品発売について 東芝
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2000_03/pr_j1301.htm

◇LSI中の原子配列の歪みを直接計測することに成功
 〜LSIの性能低下の大きな原因となる結晶の原子配列の歪みを直接かつ簡便に計測出来る手法を開発〜 富士通研究所
http://www.fujitsu.co.jp/hypertext/flab/News/2000/Mar/14.html

◇音声による対話が可能な自動プレゼンテーション技術を開発
 〜コンピュータによる商品紹介・情報案内がより自然に〜 NTT
http://www.ntt.co.jp/news/news00/0003/000315.html

◇New Scientist(MSN) タバコ産業に一人で挑んだ男
http://journal.jp.msn.com/worldreport.asp?id=000310ns_tobacco&vf=1

◇アマチュアがガンマ線バーストをキャッチ
 Amateurs Catch a Gamma-ray Burst
http://science.nasa.gov/headlines/y2000/ast14mar_2m.htm

 *ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


NetScience Interview Mail Vol.092 2000/03/23発行 (配信数:21,667部)
発行人:田崎利雄【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス事業部】
編集人:森山和道【フリーライター】
tazaki@cynex.co.jp
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