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2000/03/30 Vol.093
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【山口真美(やまぐち・まさみ)@中央大学 文学部 心理学研究室 助教授】

 研究:認知心理学、発達心理学
 著書:単著・共著の著書はあまり書かないのですが,書店で手に入る本として,
    現代のエスプリ1996年350号(目撃者証言特集号)とか,
    言語1998年11月号(顔特集号),
    大顔展の図録(書店販売予定)などになります.

○認知心理学、発達心理学の研究者、山口真美さんにお話を伺います。
 山口さんは特に顔認知の研究を行っておられます。
 平均顔を作ったり、赤ん坊の認知発達の研究など、面白さが分かりやすい研究です。
 (編集部)



前号から続く (第5回/全6回)

[18: ごまかしの研究]

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○それで顔については?

■修論あたりから顔に興味があって。現象学読みすすめた影響もあるかもしれないけれど、共通感覚とか情動とか、身体感覚とかに興味があったんですね。それで、修論では−−当時私は苦学生で(笑)、自分でせっせと学費や生活費稼いでたんでしょうもないのしかできなかったんですけど、いかに情動が自分でコントロールできるかどうかという、ごまかしの研究をやっていたんです。

○ほほう。

■身体をどういうふうにしてコントロールできるのかな、ということや、感情的なものが漏洩するのをどういうふうにコントロールするんだろうということに凄く興味を持っていて、で、まあ、修士からドクターに入ってもそんなことやっていたんですね。ドクターのときにも顔面筋から筋電図を取って、色んな表情をしてもらって、ごまかしのときにどんな動きが顔に出るのかとか、今から見ると恥ずかしいことをやっていたんです。

○そうなんですか?

■ええ、今から思えばあんまりきっちりしてなかったんです。本当はきっちりしたことやりたかったんですけど。いまから思えば、いい加減なことやってたなあって(笑)。

○でもお話だけ伺っていると、凄く面白そうだし、きれいに差も出そうな気がしますけど。

■そうですね。ごまかしっていう観点は、 まあ面白かったですね。ごまかしは、なんていうのかな、 結構強引に作っていたんで。

○?

■実験では、まずいやーなビデオを見てもらうんですね。 絶対誰でも気持ち悪くなるような。 そして、気持ち悪くないですと言ってもらうっていうのをやっていたんです。その時は、気持ち悪いんだけど気持ち悪くないんだと思って、言ってもらうわけですね。それを別の人に見てもらって、どのくらい 表情から本当の気持ちが 当たるかといったタスクをやっていたんです。

○で、どうだったんですか?

■うん、分からないと言いつつ、人間は結構、表情から相手の感情を見抜いちゃうんですね。 見抜いた実感はなくても、感情というのは見抜けるということで。
 でも、それじゃあ被験者が、どこを手がかりをとして分かっているのか、さっぱり分からないんで、それで筋電図を取ったんです。

○ええ。

■どんなもんが出るのかなあと思ってやったんですけど、あまり大したものは出なかったんですよ(笑)。

○でも、よく「目が笑ってない」とか言いますが、ああいうものは筋電図には出ないんですか。

■ええ、出ないんですよ。 目の周りの筋肉は眼輪筋と呼ばれるんですが、ものすごく取りにくくて。筋肉自体も小さいけれど、筋活動が小さくて取り難いし、個人差も大きいし、汗をかいたらすぐだめになっちゃう。相当オーバーな動きをしてもらわないと、筋電図では拾いきれないですしね。
 その実験をやるときに、演劇経験者と普通の人の2グループにやってもらったんですけども、普通の人っていうのは、表情つくってもらっても筋電図にはさっぱり出ないですね。表情筋の動きとしては。

○小さいわけですか。

■ええ。だから表情筋で、というやり方自体に問題があって。いまだったら画像処理でやるっていう方法もあると思うんですけどね。

○どういうふうに?

■ビデオ画像をパソコンに取り込んで、特徴点を全部打って、差分を計算させるとか。でも時間かかって嫌ですけどねえ(笑)。

○そもそも、本当に変わっているんですか? 変わっているから人間は気づくんでしょうけど…。

■うん、「目玉のきらめきが違う」とか言われそうですよね(笑)。形態的にはあまり違わなかったり、 なかなか計測結果として出てこなかったり 。

○本当にそういう可能性もありますよね。涙の分泌量とか、成分が変わるとか。涙って3層になっているとかいいますから、微妙にそういう差が本当にあって、それを検出していたりすると…。芸能人とか、何も入れてないのに本当に目のきらめきが普通の人と違う人いますよね(笑)。

■ああ、そうですね。

[19: カリスマ性はどのように表出されているのか]

■それと関係ある話ですけども、大学の先生なんかでも、ときどき普通の人と違う、カリスマ性のある人っているでしょう。ああいう人って、何をどういうふうに表出しているのかなあというところにも興味があるんですね。

○ああ、それはすごく興味ありますね。

■特に臨床だとそういう先生がいらっしゃるんですね。同僚の臨床の先生が、話していると全然 印象が 違うんですよ。他の先生達と比べると。なんとなく教祖様みたいな感じで。私は、この人の筋電図取ったり 特徴点取って 調べてみたいなあと思ってしまったんですけど(笑)。どうしてこの人はこういう感じなんだろうと。 その感じはどこから、どういう物理的特徴から生じるのだろうか、と。

○あれは多分、受け手の主観的問題だけではないんでしょうね。

■ええ、それだけじゃないと思います。その人から、自分は努力したっていうことも聞きまして。 きっとものすごい努力だと思います。自分の身体がどう見えるかを知った上で、身体からの表出を素晴らしくコントロールしているように思えます。自分の身体のどこに気づいて、どこをどうコントロールして表出しているんだろうかなあと。
 今までは臨床の人って、別世界という感じで興味なかったんですけど、その人を見てたら、臨床家の技術なんかを実証できたらおもしろいだろうなあ、と思います。

○それ、もし分かって本書いたら、超ベストセラーですよ(笑)。

■売れますねえ(笑)。
 でも確かに、天才的な表現能力がある人っていうのがいるんですよね。あれは何なんでしょう。

○何かあるんでしょうね。まだ定量化できない何かが。人間が漠然と感じていることなんだから、何かはあるはずなんでしょうけど。

■ええ。ATRとかでやれば良かったんでしょうけども。背景から浮いて見える人とかいますからね、 そういう人の表出行動の分析とか。それこそ、今流行の、感性情報ですよね。

○最近はやりの、ノンバーバルだとか、あるいはコンテキスト的な何か、あるいは全く違うような何かがあるのかもしれませんけども(笑)。

■そういうの掴んでいる人が、演劇をやっていたり臨床をやっていたりするんでしょうけどね。

○でも意識的に分かっている人はいないんじゃないですか。

■そうですね。
 そういう研究も面白いですね。男女識別とかよりも面白いかも(笑)。

[20: 平均顔による男女識別]

○顔の話に戻っちゃいますが、原島先生のところで平均顔をお作りになっていたとか。その辺のお話をお願いします。

■そうですね。そこで男女の平均顔を作って、男女識別をどういう部位でやっているのかということを調べようとしたんですね。それはまあ…、研究としてジャーナルサイエンスに載るだろうと予測してました(笑)。一本出したらインパクト強いだろうと思っていたんですね。

○(笑)。

■それとそのときから、同じ刺激を使って、乳児対象に実験したかったんですよ。今まで行われていた実験の刺激だとすごく曖昧だから、これを使えばいいだろうと。動物実験もこれを使えば面白いデータがとれるだろうと思っていたんですね。

○なるほど、平均顔はそういう用途のもとに作られたものだったんですね。単に面白がるためのものではないと(笑)。

■そうですね。そこで男女識別はどこでやっているのかという実験をやって、発表しまして。それをATRの人に見てもらって、ATRに来ないか、ということになったわけなんです。

○なるほど。

[21: 平均顔は実在するのか 〜人間の顔認知]

○ちょっと根本的な疑問なんですが、いいですか?
 平均顔、あの平均顔って、本当に人間はあんなふうに抽出して、ああいうものを持っているものなんですか? 確かに「これが平均顔です」って出されるとそんなふうに見えるんですけども、本当にああいうユニヴァーサルというか、プロトタイプみたいなものを持っているんですか?

■ たくさんのプロトタイプ、たとえば男のプロトタイプ、女のプロトタイプ、子供のプロトタイプ、大人のプロトタイプ…ってものは持ってないと思うんですけども、それこそ数多くてストックするのが大変すぎますから。
 だけど、全体のプロトタイプ、顔というもの自体のプロトタイプ はあるんじゃないかなあという人は多いですね。なんていうか、今まで見た全部の顔のプロトタイプというのは頭の中にあると。男女とか年寄りとか子供とか ・・そんなふうに細かいプロトタイプは ないだろうけれど、顔認知には全体のプロトタイプを利用しているのではないかと。
 そういう意味では、「プロトタイプ」というよりは「顔の座標系」みたいなのが頭の中にあって、座標の中心からどれくらい逸脱しているのかということで顔を判断しているんじゃないか、というのが顔研究者の割と主流の考えだと思います。

○ふむ。

■いちばんその典型的な例というのは、外国人の顔の認知 です。
 外国人の顔は「あ、あれは外国人だ」って 分かるのは早い 、だけれども「外国人の何々さん」といった特定の顔として認識しにくい。 なぜそういうことがおきるかというと、外国人の顔というのが、自分の形成した顔の座標系の中心からすごく遠いからなんです。
 自分の座標系の中心からのずれが大きいから、ずれていると「あ、外国人だ、日本人と違う」は認識し易い。そのかわり、座標系は自分の平均顔に近い中心部分は密で細かく識別可能に構成され、座標から遠いところは疎になっている。それで外国人の顔は、個々の顔として認識しにくいんです。自分の座標系の平均顔に近いところにある自国の人の顔はすごく細かく識別できるのに対し、遠い外国人の顔だと識別しにくいんじゃないかと。そんなふうに考えるわけです。

○なるほど。じゃあ平均顔っていうのは、トータルの顔からの原型っていうふうに考えられているんですか? その理屈でいえば、ネコとかサルとかの顔も含んでのということになると思いますが、その辺は?

■ええ。たぶん、 ブリーダーみたいに同じ種の動物の顔を細かく識別できるようなヒトの場合、 似たようなしくみでやっているだろうとは思うんですけども。おそらく別の座標系作っているとは思うんですね。

○異種だと?

■ええ。サルはサル、ウシはウシ、とか。人によっては同じ部位でやっている人もいるかもしれないけど…、いや、それは混乱しそうですよね。

○学習によって別の座標系ができるのではないかと?

■ええ。そうですね。 そういえば、ウシのブリーダーが相貌失認になったとき、ウシの認識もできなくなったという話もありますが。
 だもんで、脳の部位としては近い部位で行われているとは考えられていますが…。
 赤ちゃんの実験をやりたいのは、そこらへんの座標系がどんなふうにできるのかなということを知りたいからなんです。 そもそも、赤ちゃんでは、 入っている 刺激も少ないんで、調べやすいだろうと。

○なるほど。で、2ヶ月くらいでどうやら座標系の一番最初のものができるらしい、そして6−8ヶ月くらいで細かく識別ができ始めると?

■そうです。

○ふーむ。でも本当にそうやってやってるのかなあ…?
 ……っていうのを今、調べていらっしゃるわけですよね(笑)。

■そうですね(笑)。

[22: 顔認知の発達と「人見知り」]

■現象としては「人みしり」ってありますよね。あれが絶妙な時期にありますね。10ヶ月くらいの。

○そうなんですか?

■早い子だと7、8ヶ月くらいから。たぶんその頃に座標系が出来はじめて、familiarじゃない顔が分かり始める頃なんじゃないかと。そういうのが現象として出てくるのは凄く面白いですね。

○ああ、10ヶ月が個体識別ができるようになる成長段階ではないかと?

■ええ。

○なるほどー。面白いですね。

■人見知りも、強い子と弱い子がいるみたいですが、それもまたどういう理由によるのか、考えると面白いですね。お母さんにとっては、その頃の人見知りっていうのは一大事みたいなんで、そこらへんもなんかコメントすることが出来たら、研究費も取りやすいのかなあと思います(笑)。

○そうでしょうね。

■ もともともった性質で、未知のことに動じないでどんどん進んでいく子と、苦手な子がいるわけです。このあたりは、動物実験などでも知られているわけですが。このちょっとした違いが、ヒトの子育てだと深刻な問題の原因にもなりえます。
 たとえば、人見知りが強すぎて、ちょっとした外出で外に連れて行くだけでも電車の中でも泣き出されると、お母さん自身も恐怖感にかられて外に出られないし、それがもとでジレンマにおちいるわけです。
 福島で実験をしていたときに「これで理由がつけられるので、やっと外に出られました。」というお母さんがいました。外に連れ出すだけで泣いてしまうタイプのお子さんのようで、普段は回りの人に迷惑をかけるかと思うと外にも出られず、狭いマンションで朝から晩まで子供と二人だけで過ごしているらしいんです。外に出なければ出ないほど、赤ちゃんにとっての顔の学習経験は減っていくし、悪い方向にどんどん進んでしまいますよね。このお母さんはそれでもしっかり育児にがんばっていましたが、下手をすると、虐待方向にいってしまうきっかけにもなるわけです。

○なるほど、その話なんかは顔の座標系の話からすると分かりやすいですね。
 …自閉症の子なんかは?

■私が見ている子には自閉症の子はいないんですが、おそらく、 どんな顔を 見せても反応がないんじゃないなかあとも思いますね。2ヶ月の時期と8ヶ月の時期、両方ともないのか、それとも2ヶ月はあって8ヶ月はないのか、それともその逆なのか…。その辺は分からないですけど。
 でも多分、 経験者などの話から推測すると 、なさそうな感じですね。 男女の識別が、スカートをはいているかどうかといった記号的なものからしかできないとか、親の顔をあまり見ないという話も聞きますし。

○ふーむ。じゃあその辺、顔の認知を行う部位が壊れているか、最初からないのか、それともその前の段階のどこかに何かあるのか…。今後の課題ですね…。

■そうですね。

[23: 男の顔は輪郭、女の顔は細部]

○話を戻します。ATR研究所に行かれてからは?

■ええ、ATRに行ってからは男女識別をメインにやっていこうということで。

次号へ続く…。

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■新刊書籍:
◇雑誌「生物の科学 遺伝」4月号 特集:ヒトの遺伝子−ゲノム計画と21世紀の遺伝子研究
 本体1400円+税 裳華房 
http://www02.so-net.ne.jp/~shokabo/iden/iden1.html
 ヒトゲノムプロジェクトの現状と,今後の生物学・医療・そして社会のあり方について.

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◇スミレの検索ソフト、ViolaIndexJapan
http://www.tcp-ip.or.jp/~aster/violaindexjapan.htm

◇国際宇宙ステーション組立スケジュールの一部変更について
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/200003/iss_000324_j.html

◇障害者白書の概要
http://www.sorifu.go.jp/whitepaper/shogai/gaikyou-h11.html

◇国会図書館データベース公開
http://www.ndl.go.jp/

◇家電リサイクル事業を行う新会社を設立 松下電器
http://www.panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn000323-1/jn000323-1.html

◇銀河から噴き出す真紅の光(M 82, NGC 3034) 国立天文台
http://www.naoj.org/Science/press_release/0003/M82_j.html

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編集人:森山和道【フリーライター】
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