96年10月Science Book Review


CONTENTS


  • ゾウの鼻はなぜ長い 動物の不思議31
    (加藤由子(かとう・よしこ)著 講談社ブルーバックス、740円)
  • 「ほんの一部でしかない心で他の動物を判断して誤解する。人が動物に感じる愛情とはなんと身勝手なものであることか。」
     本書まえがきより

    動物、そして動物園に関する本が続く。不思議なことだが、似た、あるいは周辺テーマの本の刊行が続くことが良くある。このウェブを始めてから気づいた。やはり「時代の雰囲気」の反映なのか?

    閑話休題。
    本書は、一言で言ってしまえば「動物なぜなに本」であるが、ごくごく身近な、あるいは動物園で実際に観察可能な動物達の素朴な疑問などに答えているため、その分楽しい一冊となっている。動物園に行く前、一読しておくと観察点が変わるだろう。動物達のちょっとしたふるまいに、「科学する」楽しさの本質がある。
    コウモリがオシッコをするところは、私も是非直接見てみたい。

    740円はちょっと高いが、お薦め。科学する場所としての動物園、という考え方の示唆にもなる。


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  • ノイマンの夢・近代の欲望 情報化社会を解体する
    (佐藤俊樹(さとう・としき)著 講談社選書メチエ、1500円)
  • 科学書ではなく社会学の本である。よってこのウェブページの守備範囲外なのだが興味を持つ方も多いと思う。紹介する。
    私にはかなり読みにくい本だったが、一応、最後まで読了した。

    著者は、情報化社会というのは一種の幻想だという。そして、情報技術は社会を変えたりはしない、と語る。
    技術が、社会や個人のあり方をかえるのではなく、社会のしくみやコンテキスト、あるいは社会制度が、個人や技術の活用のあり方をかえるのだ、という。

    私には、これは意味がない議論に思える。
    「情報化社会」なる言葉が幻想であるのは理解できる。
    「個人のありかた」あるいは「個人とはなにか」という問題に結論を出すのが「社会のありかた」であるのは、当たり前だ。
    しかし、技術がその「社会のあり方」に影響を与えることがない、と本気で著者は思っているのだろうか。私にはどうも、その根拠がさっぱり分からない。

    機械と人間の境界さえも見直されつつあるこの時代。機械も人間の一部だと捉えられつつある。そういう捉え方が生まれたのも「社会のあり方」が変容してきたことによる。それは良い。しかし、その「社会のあり方」、社会的なコンテキストに影響を与えたものの一つに、技術があることは間違いないと思う。少なくとも、私には技術が何の影響も与えていないとは、到底考えられない。

    「シーズ」という言葉があるとおり、技術が「社会のあり方」にある種のサジェスチョンなり影響なりを与える事が出来るのは間違いないと思う。「社会のあり方」に影響を与えない技術は意味がない、というのなら分かるのだけどね。

    まあ、どうでもいい話ではある。単に、見方の問題だけの話だと思うし。
    だから、無意味な議論だと思える、というわけだ。

    「情報技術が社会に影響を与える」と考えようが、否定しようが、社会や個人には実際の所、何の影響もない。変わることを意識しようがしまいが、変わるものは変わっていく。「社会そのもの」に変化の理由があろうが、技術の側に理由があろうが、だから何の違いがあるというのだろう?

    「社会をどう捉えるか」という議論など、議論のための議論に過ぎないのではないか?お茶を飲みながら喋るには面白いが、それ以上のモノなのだろうか?どうも社会学なるものは良くわからん。別に良いけど。

    私は、技術とは社会に気が付かないうちに浸透していき、社会全体を気づかない内に変えていくものだ、と考えている。それを「技術信仰」と呼びたければ呼べばいい。私は気にしない。


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  • 活性酸素の話 病気や老化とどうかかわるか
    (永田親義(ながた・ちかよし)著 講談社ブルーバックス、800円)
  • 活性酸素に関する本が巷に溢れかえるようになって久しい。この本の横にもやたらと置いてあったが、「かっせいさんそ」が何なのか、理解している人ってどのくらいいるのだろうか?まあ、お肌のシミさえ防げれば、理解しなくても別に良いのかもしれないが。

    本書では、博士と高校生二人(これが、「こんな奴ぁいねぇ!」って言いたくなるような高校生なんだ。なんたって、スピンの話について来れるんだから…)の対談形式で進められる活性酸素解説本である。活性とは、フリーラジカルとは、どうしてそんなものができるのか、人体の代謝の話などに絡めて説明される。

    しかし、やはり少々難しい。これで理解できる高校生は数少ないだろうな。ATPや酸化還元、電子伝達系の話とかにもっと紙幅を割き、丁寧に易しい言葉をもっともっと積み重ねていかないと、一般人には分かりにくいだろうと思う。

    であるから、ある程度の知識のある人(大学生程度か?)で活性酸素や老化に興味のある人のみにお薦め。


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  • 星間旅行への誘い
    (ジュディス・ハーブスト著 山越幸江訳 晶文社、2300円 原題:STAR CROSSING, How to get around in the universe, 1993)
  • 「地球というところからきました。黄色い太陽を持つ青い惑星から。そんなに遠くはありません」

    本書は、宇宙へ出向く方法を模索してきた歴史、つまり未来を夢見てきた歴史を描いた本だ。扱われる内容は、ロケット開発の歴史、惑星間協会の連中の計画、SFの中の恒星間旅行、そして物理学が予測する宇宙旅行の風景など。ダイダロス号やオリオン号、世代型宇宙船、ラムジェット、etc.etc.。

    内容そのものに特に新奇さはない。「宇宙旅行」を題材に物理学を学んでもらいましょう、という本でもない。ちょっとはそういう面もあるけど、それはこの本の本質ではない。
    本書の特色は「宇宙へ行きたい!」という気持ちをごくごく素直に、軽快に表現している文章にある。

    冒頭に上げたセンテンス、これを読んで思わずにやっと笑ってしまった人、あなたは作者に負けたのだ。おとなしく本書を購入したまえ。


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  • いま、遺伝子革命 社会を変革する遺伝子の力
    (大朏博善(おおつき・ひろよし)著 新潮社、1500円)
  • 遺伝子治療から遺伝子産業、ゲノム計画に遺伝子診断など新しい医療などなどのレポート。

    タイトルから見当が付く通りの内容で、内容的にはこれまで出た本とあまり変わらない。視点もほぼ同じ。そういう意味ではあまり特色がないのだが、こういうねらいの本にそういう事を要求してもしょうがない。読みたい人、読む必要のある人は読みましょう。
    値段なりの本だ。こういうところが、でかい出版社の良いところだな。

    著者は「クオーク」などで活躍中のサイエンスライター。


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  • 遺伝子が病気をつくる
    (石浦章一(いしうら・しょういち)著 三田出版会、1600円)
  • 本の題名だけ見るとキワモノに思えるが、そうではなかった。遺伝子がどれだけ病気の原因に関わっているかを、それぞれ章立てにして解説。書かれている内容はそこそこ新しいので、なかなか面白い。

    上記「いま、遺伝子革命」が総論的な本だったのに比べると、こちらは一つの病気に一つの章を割いて説明している。意外と読みやすい。

    それぞれの章立ては以下の通り。

    1. 遺伝と遺伝子
    2. 乳ガンの遺伝子
    3. 肥満の遺伝子
    4. 糖尿病の遺伝子
    5. 喫煙と脳アミン
    6. 遺伝子と治療
    7. ハンチントン病と遺伝子リピートの謎
    8. 性格の遺伝子
    9. 狂牛病は遺伝するのか
    10. 精神遅滞を引き起こす遺伝子
    11. 痴呆の遺伝子

    高次の脳機能まで、遺伝子である程度決定されている事が次々に明らかになりつつある。というより、我々の「精神活動」もかなりの部分が器質性のものである、というか、もともとの構造に依存し、影響を与えられずにはいられないものである、ということなんだろう。

    物質に依拠するのは当たり前ではあるものの、さすがに、喫煙を止められないのは脳に原因があるのかも、といった話を聞くと、思わず唸ってしまう。


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  • 八匹の子豚 種の絶滅と進化をめぐる省察 
    (スティーブン・J・グールド著 渡辺政隆訳 早川書房、各1800円 原題:Eight Little Piggies, 1993)
  • 古生物学とは如何なる学問か?生物学と地質学が、車の両輪となって推進していく学問である。
    その事を確信し、その成果を一般読者に伝達する科学者・科学啓蒙家、グールドの「進化と生命の歴史」に関する最新エッセイ。年齢のせいか初期のエッセイ(「ダーウィン以来」や「パンダの親指」など)に比べると少しくどく、展開がだるいが、相変わらずの論客ぶりを発揮している。

    古生物学の知識は、私たちの観点を根本的に変えてくれる。地球はずっと今のままであったわけではないし、生物群もしかり。この事は知識としては知っていても、なかなか理解はできない。例えば、恐竜なる生き物がいるが、ああいうのが、本当に地表をどしどし歩いていたことを信じられるだろうか?実感として感じとれるだろうか?僕には難しい。だが、実際にいたのだ、もちろん。

    それを実感する為には、ある程度の知識と想像力がいる。本書はその両者をかき立てる役には最適の一冊だ。
    地球は揺れ動き、山脈が盛り上がったり海が開いたりする。その中で暮らす生物も、右往左往しながら変わっていく。自然環境は常に変わっていく。巨大な地球環境、その中で生きていく生物たち。地球には「地球のペース」がある。そこには我々「人間のペース」が入り込む余地はない。地球の尺度と我々の尺度はあまりに違う。膨大な時間とスケールを感じると、自分たちの知識と能力の矮小さを感じる。

    無意識のうちに我々は、自分を基準にして考えがち。自分が標準だ、と思いがちだ。これは、学問に対する理解でも同じだが、その通念を打ち破るのが古生物学だ。陸上動物の手は元々は5本以上あったし、耳骨は元々顎の骨だ。気温も、大気の組成も、太陽の日射量も、今日が標準であったわけではない。

    そんな事を考えさせてくれるのが古生物学という学問である、と私は思う。

    さて、本書では、ベストセラーになった「ワンダフルライフ」の<訳者あとがき>で渡辺氏が触れている、ハルギゲニアの復元は逆さまかもしれない、という件にも一つの章が割かれいている。

    つまり、バージェス動物群はグールドが強調するほど異質性は高くないのではないか、多くのものが現生のものと類縁があったのではないか、という話題だ。グールドが主張する「多様なデザインが大量に作られ、その中から運の良い者が偶然生き残った」とする主張は、もし上記の通りなら旗色が悪くなる。バージェス動物群の化石の解釈は、どうも、グールドに都合の悪い方に傾きつつあるようだ。

    グールド本人は、本書を読む限り「ワンダフルライフ」の中での表現を特に反省していることはないようだ。研究発見が続くと、異質性はさらに高まるだろう、とグールドは言っているらしい。しかしこの主張、ちょっと旗色が悪いようだ。素直に認めれば良いのに。
    それともエディアカラ動物群などの事も含めて、言っているのだろうか?

    私はグールドの著作のファンだが、この点、彼の態度には大きな疑問を抱いた。

    ドーキンスと並んで評されることの多いグールド。きっと、ドーキンスはこの点を突くに違いない(もう突いてるんだろうけど)。今度はそっちを楽しみにしよう。しかし、両者の主張、融合するのが無理とは思えないけどなあ。


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  • お母さん、ノーベル賞をもらう 科学を愛した14人の素敵な生き方
    (シャロン・バーチュ・マグレイン著 中村桂子監訳 中村友子訳 工作舎、2884円 原題:Nobel Prize Women in Science, 1993)
  • 今世紀、偉大な発見をした14人の女性科学者の小伝記。

    科学の世界でも女性に対する壁は厚かった。そして、おそらく今でも。大学の理学部内には女性も大勢いるような気がする人もいるだろうが、この本あたりによるとそうでもないようだ。

    本書を読んでいると、トイレを使わせてもらえなかったり、講義を受けさせてもらえなかったりといった女性に対する扱いにも驚くが、登場する女性達の性格がみんな似通っているような気がしてくる。同じ著者の視点で描かれているからだろうが、みんな「頑固者」なのだ、これがまた。こんな事をいうと、また女性から怒られるかな。

    女性科学者達の情熱はかっこいい。写真もどれも素敵だ。だがちょっと、本書の内容はバイアスをかけすぎているような気がした。科学史の専門家ではないので、良くは分からないのだが…。

    「発展に対する大きな障害は、かつても今も、何の罪もないように見える伝統というものなのです」
    という呉健雄(ウー・チェン・シュン)の言葉は、いろんな面で、肝に銘じておきたい。


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  • 空飛ぶ寄生虫
    (藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)著 講談社、1600円)
  • ベストセラーになった「笑うカイチュウ」の続編。再び、笑える寄生虫談義である。暇つぶしには最適の一冊だろう。

    著者は無菌国家状態になった日本の現状や国民の嗜好に、まじめなんだかおふざけなんだか、警告する。この辺の主張は、分かるところもあるが、あんまり良くわかんないな。

    面白いのが、学者どうしの仲違いの様子まで、実名で書いているところ。これは楽しい(笑)。

    本書の中でも大きく扱われているものにマラリアがある。以前、「マラリア VS 人間」の書評でもその件については色々書いたし、リンクも張ったのでそちらと併読していただけると有り難い。


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  • 森の隣人 チンパンジーと私
    ジェーン・グドール著 河合雅雄訳 朝日選書、1800円 原題:IN THE SHADOW OF MAN, 1971)
  • 言わずとしれた、グドール最初の本。'73年に平凡社から出ていたものを、朝日選書にて復刊。

    彼女はいろんな事も言われているが、この本はやっぱり面白い。グドールの文章は流れるようで、みずみずしく、思わずチンパンジーの世界へ引き込まれていく。群れの観察の始まり、道具の使用・肉食の発見、群れを襲った疫病と死、そして手と手の接触による交感…。

    大量に収録されている写真も、どれも素晴らしい瞬間を押さえている。元の旦那のヒューゴーによるものらしい。長期にわたる観察と卓越した「目」によるものばかりだ。

    チンパンジーが道具を使ってシロアリを釣る、という話を最初に読んだのは国語の教科書だった。今思えば、本書からの抜粋だったのだろう。まだ記憶に残っている。


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  • 文化の起源をさぐる チンパンジーの物質文化
    (ウィリアム・C・マックグルー著 西田利貞監訳 足立薫・鈴木滋訳 中山書店、3605円 原題:CHIMPANZEE MATERIAL CULTURE Implication for Human Evoltution, 1992)
  • 上記グドールが帯の文句を書いている本書を続けて読む。
    これまで明らかになった、チンパンジーの文化的行動を満遍なく網羅・整理してある。読みやすく分かりやすいので取っつきやすい。多分、研究者の資料としても優秀なのではなかろうか。

    原副題を見て頂ければ著者が本書を著した意図が分かる。人類進化を考える上で、チンパンジーは非常に重要な存在である。このことは疑いがない。チンパンジーは道具を作り、教えれば火を操ることもできる。人間とチンパンジーを境する言葉を見つけるのは、非常に困難だ。

    ただ、昔から疑問に思っていることが僕にはある。チンパンジーは火を使うことも、手話で会話することもできる。石器も使う。しかし、そういう例を持って、「知能が高い」と言えるのだろうか。なるほど、他のサルやその他動物達に比べたら、「高い」かもしれないが、研究者が語るほど、チンパンジーと人間の垣根は低いのだろうか。私には、どうしてもそうは思えないのだ。自然界で生きるチンパンジーが当たり前に会話し、火を使っているのなら別だが。


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  • 自然の中に隠された数学
    イアン・スチュアート著 吉永良正訳 草思社サイエンスマスターズ、1800円 原題:Nature's Numbers, 1995)
  • この本の書評は、 雑誌「ワイアード」に掲載されました。ここに原稿はあります

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  • 元素の王国
    (ピーター・アトキンス著 細谷治夫訳 草思社サイエンスマスターズ、1800円 原題:The Periodic Kingdom, 1995)
  • 元素表解説の本。
    元素表を「王国」に見立て、その「地表」、そして「地下」を探検する。元素の表面的な性質、その下にある各元素の繋がり。それらがどのように発見され、そして現在どのように捉えられているか。

    そういう本だ。あまり、パッとしない。うーむ。新しい発見がない。
    というか、こういう内容なら(本書は元素の様々な性質の違いを視覚化しようと試みている)、文字ばかりの本書のような体裁の本には向かない。<ビジュアル・サイエンス>のような絵本型の本にこそ、向いた企画であるといえる。あるいは飛び出す絵本か。


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  • 科学の街 筑波研究学園都市ガイドブック
    (筑波研究学園都市研究機関等連絡協議会普及広報専門委員会監修 筑波出版会、 発売・株式会社チーム 1300円)
  • 帯の文句は「科学の今を知る一冊」。たしかに、その通りの本に仕上がっている。内容は、クソ長い監修者の名前から推察頂けるように、筑波の各研究機関の概要の羅列に過ぎないのだが、全ページ・カラー印刷のおかげもあって、なかなか楽しく読みごたえがある本だ。力作。

    やはり、筑波は「科学の街」だ。一万人の研究者を擁するだけある。本書に登場する数多くの研究機関の研究テーマを斜め読みするだけでも、現在科学の興味関心がどのあたりにあるのか、漠然とした傾向を読むことが出来る。何をどこでどんな風に研究しているか、しばらくは楽しめそうだ。各研究者にも楽しい本だろうし、大学生や院生、進路指導にあたる教員なども読んでおいて損はない。

    なお、巻末には常設展示一覧、筑波へのアクセス、宿泊機関案内、そして各研究機関のホームページのURL一覧もある。まさに、お役立ち度ナンバー1の「コンプリートTSUKUBAブック」と言える。


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  • 脳と心の進化論
    (澤口俊之著 日本評論社 1854円)
  • 霊長類の脳の相対的な大きさは、社会構造と関係する、と著者は言う。また、言語の獲得が人の脳の進化のベースとなった、とする。

    人間のが、「なぜ」、そして「どのようにして」大きくなったのか、という疑問は現在の進化論の中でも、ものすごく大きな問いであるわけだが、著者は、その「どのようにして」の問いには、「コラムの重複」をもって説く。

    よって、そもそも「コラム」にどれほどの重きを置くかによって、この本の評価は大きく変わってくる(この問題は私如き素人がどうこう言えるほど単純ではないので、ここでは触れない)。その辺がやや気になったが、それはさておいても、進化による脳の増大が、個体発生レベルではどういうシステムによるか、となると、それはおそらく本書が説くようなシステム──重複など──によるのだろう、とは思う。

    何かの本でも読んだが、例えば、発生の過程で細胞分裂が一回だけ増えても、それだけで大きく生物の形は変わってくる。遺伝子は保守的で、使うものはとことん使っていくものらしいし、変わるときも、ごくごく一部しか変わらないものらしい。だからおそらく、形態の進化はそうやって起こってきたのかもしれない。脳の増大も含めて。

    ただし、脳の大きさは、その機能増大にダイレクトに繋がるわけではない。当然だが、大きければ機能が高いわけではない。脳の構造そのものの変化によるのだろうが、その辺が、また大きな問題だ。これが解けないと、心の進化の問題はいつまでも解けない。

    というわけで、やや断定的なところがあるのが気にはなるが、まあまあの本だった。


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  • キッチンで体験 レオロジー
    (尾崎邦宏著 裳華房ポピュラーサイエンス 1442円)
  • レオロジーとは、ものの変形や流動を扱う学問だ。流体、粉体や個体などの変形を扱うわけだが、とにかく範囲が広い。そういう意味ではいい加減な言葉のように感じる(笑)。

    本書では、物体内部の分子に主に注目して、物体の変形や粘性について綴られる。牛乳やガラス、ゴムなど、ごくごく身近な物質の運動・変形・粘性などを取り上げ、それぞれ解説。そしてその技術的な応用を紹介する。例えば制振ゴム(最近の洗濯機についてる、あれ)や、いくらでも混ぜていい天ぷら粉とか、ペンキとかマヨネーズとか。

    科学する心、というのは、こういうごくごく身近なものに着目し、そこに潜む不思議を説くことによって育てるのが一番だと思う。読みやすいし、分量も手頃だ。良い本。
    ただし、「レオロジーとは?」という事くらい、冒頭で簡単に解説すべきだ。


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  • 脳を育てる
    (高木貞敬著 岩波新書 650円)
  • 読んだので書くが、この本はただのエッセイである。脳をテーマにしたエッセイである。科学書ではない。

    ひとことだけ。著者は生理学者として解剖学を批判している。「解剖学は語らず」で、どうして、という疑問に答えてくれない、というのだ。しかし、現在の解剖学はそんな学問じゃないだろう。わたしは別に解剖学者の友達がいるわけでもないのだが、気になった。

    著者は嗅覚の専門家らしい。そっちの方の本を読んでみたい。


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