NetScience Interview Mail
1999/08/12 Vol.065
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◆Person of This Week:

【井田茂(いだ・しげる)@東京工業大学 理工学研究科 地球惑星科学専攻 助教授】
 研究:惑星系形成理論
 著書:岩波講座 地球惑星科学12『比較惑星学』共著ほか

研究室ホームページ:http://www.geo.titech.ac.jp/nakazawalab/ida/ida.html

○惑星系形成理論の研究者、井田茂氏にお伺いします。現在、観測・理論両面で大きく進歩を遂げつつある惑星系の科学の現在をお楽しみ下さい。
 6回連続予定。(編集部)



前号から続く (第4回/全6回)

[11: 銀河系の渦巻き]

○基本的に太陽系が形成されるときもこれと似たようなことが起こっていたと考えておかしくないんですか。

■いや、大きく違うのは、太陽系でいうとですね、もし中心が太陽だとすると、惑星の位置というのはもっと遠いんです。太陽でいうとロッシュ限界は0.01AU、太陽と地球の距離の100分の1ですから、ずいぶん遠いところで惑星の形成が行われるんです。だから月ができるときとはずいぶん描像が違って、こんな渦巻きができたりはしないんです。そういう意味ではずいぶん違うんです。

○そうかそうか。

■いまどっちかっていうと、こういうシステムは銀河系と似ているのかな、と思っているんです。銀河系は渦巻き円盤といってもたいてい真ん中にバルジと呼ばれる膨らんだ部分があって、その周りに円盤があるわけですね。そのバルジと円盤との距離が、そんなに遠くないんですよ。ロッシュ限界みたいなもので測ったりするんですけど、あまり遠くない、ロッシュ限界とあんまり変わらないところを回っていて。だから惑星系よりも銀河系と似ているんじゃないかな、と今思っていたりします。
 でもそうなると、今までとは全く違う渦巻きの理論を提唱することになっちゃうんですけど。

○どう違うんでしょうか?

■今までの渦巻きの理論っていうのは、あれは水の波と同じである、と。だからモノは動かないんだけど、そこに単に波が伝わっている、というふうに言われているんですね。だからそこにある星から見たら、密度が濃い部分にいたかと思うと次は薄い部分に移り、という形なんですが、いま言っているのはそういうものではなくて、密度が濃くなった部分が単に引き延ばされただけですから、だから固まりに入っている奴は最初からずっとその中にいるわけです。ですから実体波というか物質波というか、全然違うものを提唱することになってしまうんですが、その線でいけるんじゃないかな、といま密かに思っているところで、小久保君とも言っているところなんですけどね。
 でもそうすると今まで何十年もあった定説に反抗することになるので、最初は痛めつけられると思うんですけど(笑)。

○(笑)。でもなんだか自信がありそうですね。そろそろ銀河系にも手を出そうかな、というところなんですか。

■そもそも小久保君の最初の論文の題材は銀河系だったんですよ。一緒に銀河の力学の勉強をしました。重力系のいいところは特徴的な長さっていうのがなくて、銀河系のシステムも、原始惑星系も、月ができるような地球のまわりの話も、支配している物理は全く同じなんですね。だから一つのターゲットに対して使えたものは、もっと大きなターゲットに対しても使えるんです。逆もありますし。だからお互いに浸食し合っているところがあります。

○なるほど…。

[12: 重力系の多様さ]

○基本的にニュートン物理でやっているわけですよね。ある意味、すごく単純と言えば単純じゃないですか。でもそれがたくさん集まるとわけが分からないことがいろいと起きたりするわけですか。

■ええ。だから田口善弘さん(中央大、http://www.granular.com/tag/index-j.html、またはhttp://www.moriyama.com/netscience/Taguchi_Yoshihiro/など参照)をはじめとして非線形物理の人たちはいっぱいいて、カオスの物理とかはいっぱいできてますが、そういう人たちは冗談まじりで「重力多体系にはかかわりたくない」なんて言ったりします。ただでさえ非線形物理、カオスは難しいのに、ましてや重力多体系はといったとこでしょうか。

○どうしてですか?

■支配している物理はニュートン物理だけですから、ものすごく単純なんだけど、問題なのは、重力というのは無限遠方でも働くんですね。うんと遠くに固まりがあってもそれが効いてきたりする。ある種の集団的相互作用みたいなものをしたりだとか、場として、あの辺でスパイラルがたった、ってことにもの凄い影響を受けたりだとかいうのがあるんです。そういうことがあると、簡単にはいかなくなります。

○ほんのちょっとでも重力が効いていると…、

■ええ、近くだけしか伝わらない力っていうのも世の中にはいっぱいあるんですけどね、そういうのは隣から来る力だけ考えればいいんですから。重力系はそういう理由でいやがられるんです。支配している法則はものすごく単純なのに、出てくる現象はもの凄く多様なんです。

[13: 頭の中で基礎過程を再現する]

○先生はもともと何を? ウェブサイトとか見るとずいぶん面白い学生生活だったようですが。

■僕が行った京都大学の理学部は完全放任主義だったので、それをいいことに、学部のときは授業もろくに出ずに、積極的にいろんな世界に触れました。でも、自分にとって一番刺激的だったのはやはり科学でした。しかし、勉強といえば、クラスの友達と「自主ゼミ」と称して、相対論、場の量子論、微分幾何学とかの「カッコよさそうな」ものばかり勉強していて、基礎は全然できてませんでした。京都大学理学部は学科分属もなく、当然専門の必修単位や推奨カリキュラムなんてものもなくて、何をしてもしても良かった反面、何を勉強していいかわからず苦労しました。クラスの友達と、何を目指すのか、そのためにはどういうカリキュラムを自分で作っていけばいいのか、と議論したりしてましたが、いつも酒を飲みながらだったせいもあってか、よくわかりませんでした。

○(笑)。

■学部では、結局、よくわからずに、当時すでに流行っていた、素粒子論的宇宙論に憧れて、目指すことにしました。ところが、そういうコースは人気が高かったんで、大学院には入れなかったんですね。何度も試験で落とされて、院浪しました。
学科分属も研究室所属もなかったので、自称素粒子論専攻、自称宇宙論専攻ってのが一学年に数十人もいましてね。

○自称ですか(笑)。

■ええ。定員は2〜3人だったので、当然、他大学の大学院も受けまくりました。落ちまくりましたけどね。他大学の大学院の情報を演習の助手の先生(現在、おそれ多い教授)に尋ねたとき、宇宙論ときめつけると選択肢があまりない、他にも惑星形成っていうのもあるよ、と言われましてね。そうするとこういうのも面白そうだなと思って、あくまで第二志望ということでそっちも受けたんですよ。そしたらそっちは二年目で拾ってもらって(笑)、で、やることになった。

○へえ…。

■で、やってみたら面白かった、というわけです。今にして思うと、当時から花形で、秀才のあつまる分野にいっても、僕なんか全然芽がでなかっただろうと思います。でも面白いことって他にもいっぱいあって、まだ世間に知れ渡ってないってだけっていう分野がたくさんあります。そういう学問分野の成長期にその分野にとびこめたことが、僕とっては良かったと思います。大学院入試で第一志望の分野にいけなかったことが、僕にとってはラッキーでした。

○なるほどなるほど。何が幸いするか分からないもんですね。
 最初の頃はどんなご研究を?

■最初はあまり色んなことできないんで、大学院の頃は与えられたテーマを一生懸命やるだけで、周りのことなんて見えてませんでしたね。もう、目の前のことだけです。だんだん与えられたテーマがこなせるようになってきて、いろんな人の話を聞いたり、海外へ出かけていったりしているうちに、だんだん視野が広がっていったわけです。あれも面白い、これも面白いという感じで。

○院の時は何を…。

■こういう重力系のものすごく専門的なことをやってました。太陽があって、二つの天体があって、それらが近づいたときに何が起こるか、っていう3体問題を計算してました。そういう基礎過程ですね。

○そこからどういう経緯で、惑星形成論に?

■僕ははじめから惑星形成論をやっていたつもりです。基礎過程が分かると、惑星がどういうふうに成長していくべきなのかということが分かるようになってきます。基本的にどういうことが起こっているのかが分からないまま全体を論じることはできないでしょう。少なくとも僕には難しい。一番基本的な素過程が分からないと、素過程が繋がったときに何が起こっているのかということは僕は議論できないですね。だから今でも自分が知っている基礎過程のことはそれを使ってやるし、新しいことをやるときは、やっぱりそこで使われている基礎過程を新たに勉強するわけです。

○物理だと当然そうでしょうね。

■うん、特に僕は人が出した結果とつなぎあわせるということはあんまり得意じゃないんです。コンピュータシミュレーションをさんざん繰り返していると、もう、コンピュータを動かさなくても自分の頭の中で基礎過程が再現できるんですね。こんなふうになるはずである、と。

○そこまでいっちゃうものなんですか。

■自分の中でイメージがつかめるというか、自分の頭の中でコンピュータ・シミュレーションが行われるというか。感覚としてそういうことが分かってくると、じゃあそこで何が起こっているのかと考えることができるんです。多分、人にもよるんですけど。

[14: シミュレーションは仮想実験ではない]

○ふーむ。実は今日お伺いしたかったことの一つに、コンピュータ・シミュレーションっていうのはどういう意味があるんだろう、ということもあったんです。僕ら素人が見てわかりやすい、というのはもちろんありますが、研究者の人たちにとってコンピュータ・シミュレーションというのはどういう意味を持っているのだろうかと。

次号へ続く…。

[◆Information Board:イベント、URL、etc.]

■イベント:
◇『きぼう』に向けて〜平成9・10年度 宇宙実験報告会〜 開催のお知らせ 9/19
http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-j/199908/jem_990810_j.html

◇中学生、高校生対象「21世紀を幸せにする科学」作文募集(毎日新聞)
http://www.mainichi.co.jp/info/21/

◇公開講演会『種の起源』から140年──ダーウィンを悩ませたSEXの謎
http://www.vinet.or.jp/~bunichi/event.html

■URL:
◇環境goo
http://eco.wnn.or.jp/

◇8月18日に地球フライバイする土星探査機カッシーニの現在位置
http://www.jpl.nasa.gov/cassini/today/

◇科学系質問箱ウェブサイト・リンク集(Popular Science Node)
http://www.moriyama.com/popular_science_node/backnumber/1999/PSN990803.html#website

 *ここは、科学に関連するイベントの一行告知、URL紹介など、
  皆様からお寄せいただいた情報を掲示する欄です。情報をお待ちしております。
  基本的には一行告知ですが、情報が少ないときにはこういう形で掲示していきます。
  なおこの欄は無料です。


NetScience Interview Mail Vol.065 1999/08/12発行 (配信数:17,581部)
発行人:田崎利雄【科学技術ソフトウェアデータベース・ネットサイエンス事業部】
編集人:森山和道【フリーライター】
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