「NEWTYPE」掲載<森山和道のサイエントランス>第5回

2003年08月号掲載

『機械としてのヒトの限界、そして可能性』

 アニメや漫画には、しばしば、サイボーグが出てくる。アニメのサイボーグは、ほぼ例外なく生身の身体の持ち主よりも強大なパワーを持ち、迅速に動ける。たとえば弾丸よりも素早く。また、何かを見るとそれについての情報が視野にピピピと表示されたり脳の中に流れ込んできたり、とにかく何かしら人体を強化したものとして登場する。

 現在の技術ではそもそも人間の体よりも優れた特性を持つパーツを作ることそのものが不可能だが、仮に可能になって機械と接続できたとしよう。そのとき、人間は弾丸よりも素早く動くことができるのだろうか?

 サイボーグはもともとは人間なので、脳は人間と同じだ。だとすれば、神経系そのものの限界がある。生身だろうがロボットだろうがボディは情報処理の結果、制御されて動いている。生身の神経系の制御のもとで動いている限り、いくら素早く動くことのできる義体を持っていても、生身の神経系の情報処理速度以上で動くことはできない。

 『先端技術が拓く医工学の未来』(アドスリー)という本でも、神経接続義手の話題のなかで、サイボーグが素早く動けるかという話が出てくる(そう、神経に直接、外部機器を接続する研究は、義手や義眼、あるいは心臓制御などの分野で進められているのだ)。

 この本では、弾丸よりも早く動く話には3つのポイントがある、としている。第一は視覚による認識、第二は判断・処理の速度、三つ目は運動系の速度の問題だ。

 まず、人間の目の時間周波数は40Hzと言われている。人間の目は一秒間で約25回程度しか反応できないということだ。網膜の中のタンパク質の反応速度の限界から規定されているのである。そのおかげで不連続な画像の連続でしかないアニメも繋がった絵になって見えるのだ。では目そのものを、高速処理できるビジョンチップで置き換えればどうか。だが神経を直接刺激しても反応限界がある。神経が刺激を伝えていくための化学反応の速度そのものに限界があるからだ。また、何かモノを見たあと脳が反応するまでには速くて0.2〜0.3秒程度かかることが分かっている。まあとにかく、人間の脳と神経に頼っている限り、大して速い動きはできないのである。

 このギャップをなんとかして素早い動きを実現するためには、認識処理結果や運動指令を一気に飛ばしてやるしかない。人間の脳を経由せずに、直接、義眼から義手なり義足なりに信号を与えてやるのである。脳へは、しばらく遅れて信号が届くことになるが、たぶん人間には「瞬間」としか認知できないように処理できるはずだ(そもそも人間が感じる「瞬間」というのも実は「瞬間」ではないことが分かっている)。つまり、実際には考える前に体が動いているのだが、体の持ち主はそれを認識していない、という状態になる。そういう回路を組んでしまえば、サイボーグが人間を超える能力を発揮することも可能かもしれない。


前回へ
[広告] ナショナルジオグラフィック日本版
次回へ



「NEWTYPE」掲載原稿インデックスへ | HOMEPAGEへ |